インフレやデフレ・不況を予防する金融政策について説明します。
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ケインズの一般理論に従えば、貨幣の変化が利子に影響を与え、利子の変化が雇用に影響を与る、すなわちマネーサプライの伸び率は金利の変化を通じて投資に影響を及ぼし、それによって、有効需要が変化し、実質GDP、雇用、物価が変化するということです。
金利は名目金利と実質金利に大別されます。トービンのqによれば、投資需要は今日の短期名目金利ではなく、長期実質金利か、あるいは株価に関係します。しかし、ジョセフ・スティグリッツ教授、グリーンワルド教授によるとこの言説は間違いだと考えられています。仮に、名目と実質の金利の両方を投資回帰式の中に入れるとすると明らかに名目金利の方が重要性を持ちます。分析結果は、データの出所やモデルの特定化(例えば、ラグの構造)の如何によって異なると思われます。1つの単純な回帰分析は、log(投資/GDP)をラグ付の名目および実質の財務省短期証券金利(実質化は消費者物価指数による)および定数で説明させようとするもので、この結果は、名目金利の係数はマイナス(統計的に有意)、実質金利の係数はプラス(有意ではない)でした。しかし、この他のデータを使えば、実質金利の係数はマイナスになったようだが、その係数は名目金利の係数よりは小さいものになっています。株価は、さまざまな投資に伴う(平均的)リスクの市場評価を反映するため、多くの資本コスト計測手法の中でも最も適切だという、説得的な考え方があるものの、実証研 究はこの理論をそれほど支持していません(Abel and Blanchard(1989)、Ferderer(1993))。時に行われる説明は、新資本のほとんどが株式市場で調達されていないという事実です(Mayer(1990))。この説明は確かに事実であるが、現在の株主(おそらく彼らの利益に基づいて投資が行われる)投資が株式価値に与える影響に強い関心を持ち、そして、それはトービンのqに依存するだろうから、完全に説得的だとは言えません。ここで問題になるのは限界的な投資が株式価値に影響を及ぼす影響の計測方法にあるのだと指摘されることがあります。つまり、多くの実証研究は平均的なqを計測するものであり、限界的なqを計測するものではありません。そこで、株式の長期プレミアムを一定とすれば、優れた代替的計測手段は金利になります。しかし、ここで重要なのは長期金利であって短期金利ではありません。このとき、疑問となるのは今日の金利変化がなぜ今後5年、10年、あるいは20年間にわたる金利期待に影響するのか、ということです。リスク中立的立場では、長期金利は期待短期金利の積となるため、長期金利に有意な影響を持つ短期金利の変化が今日生じると、それは単に今日だけではなく、将来長きにわたる金利期待に影響を及ぼすに違いないはずです。しかし、短期的な金融政策は短期的なマクロ経済条件に関しているという一般的な合意があり、また、長期金利は資本の長期的な限界生産力に関しているはずだというなら、なぜそのように今日の短期金利の変化が将来の金利に影響すると言えるのでしょうか。
貨幣理論によれば金融政策とは実質金利が持っている影響を発揮させることです。しかし、International Financial Statistics,Washington D.C.:IMF(2002)が示すアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおいて実質金利は長期において一定であり景気循環的な変数ではないことを示しています。驚くべきことだが、金融政策が経済のその他の変化を完全に相殺したということ、つまり、この時期の金融当局が実質金利の固定を任務と心得てきたと考えることはもちろん可能です。しかし、仮にこう考えたしても上記ソースからは金融政策がそれ以上のことはほとんど何もしなかったことを明らかにしてくれています。つまり、金融政策は投資計画の左シフトに対応した実質金利引き下げには成功しなかったのです。このような意味から、金融政策は予想とは反対とは反対、つまり実質所得が減少したり、経済が減速ないし景気後退に陥ったとき、金融政策は中立的ですらありません。中立的な金融政策とはマネー・サプライを固定的に維持し、それによって(IS-LM分析に従って)金利を引き下げることにあったからです。
取引に基礎を置く貨幣理論は金融政策による経済現象の変化をほとんど説明できていません。標準的モデルでは、マネー・サプライを拡大しても、景気後退時には実物投資の計画の金利弾力性が非常に低いか、流動性の罠、すなわちマネー・サプライを増加しても金利を有意に低下させられないという理由から、効果はないと見られるかもしれなません。しかし、この理論は今日では通用しなくなっています。標準的理論では低金利がもはや続かないだろうとの期待を持った投資家は長期国債への投資拡大をますます回避しようとします。そこで、長期金利はそれ以上低下せず、そのために長期投資は増加しなくなります。個人が長期債投資をますます嫌うようになるのも、彼らが激変の来ることを信じているからです。つまり、低金利は続かず、長期債の価格を下落します。しかし、実際には、そうした相場の反転が起きたという証拠はほとんどないだけでなく、仮にそれが起きたとしても、それはおそらくそれ以前の長期債価格の織り込まれるため、長期債価格の大幅な下落は起きないでしょう。
このモデルは今の日本経済に当てはまるでしょうか。まず、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおいて実質金利にそれほどの変化が見られなかったと指摘されていますがこれは1950~2000年にかけての話です。この時期にデフレーションはこの地域で生じていません。むしろ、高いインフレーションが問題になっていました。インフレ率が高い場合、超過需要が生じます。超過需要が起こればほとんどの場合雇用は完全雇用に収束しマクロ経済上の問題は失業ではなく高いインフレーションとなります。超過需要が生じている場合には基本的に実質金利は均衡実質金利と一致しているため実質金利は変動しなくなります。しかし、今の日本を含め、OECD諸国で問題となっているのはデフレーション、あるいはディスインフレーションです。そしてマクロ経済上問題となっているのは失業です。この時、超過供給が生じるため、均衡実質金利は実質金利とかい離します。そのため、リーマンショック以降では実質金利が重要になると考えられます。