- ブランシャール マクロ経済学〈上〉/東洋経済新報社
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まず、この記事の結論を書くとどんなマクロ経済政策であってもその効果は決して機械的ではないということです。金融政策について考えれば、貨幣の増加がどのくらい産出量に影響を与えるかは、期待に決定的に依存しているということです。経済政策には2つの性質があり、1つ目はタイムラグの存在です。政府がタイミングよく行動することは難しいということです。2つ目は期待が非常に重要であるということです。どのくらい政策の変化に期待が反応するのかを予測することが難しいということです。
この性質がある限り政府は何もできないと考えるかもしれませんが「期待」というものはケインズが考えるような気まぐれなものではありません。金融投資家や設備投資について考えている企業、あるいは退職を考えている人々は、将来に何が起きるのかを熟慮しています。そして将来の期待される政策の方向を評価したり、それが将来の経済活動にどんな影響を及ぼすのかを考えることで、彼らは将来についての期待を形成しているのです。しかしもし彼らが自分自身で将来に何が起こるのか考えなかった場合彼らはどうしているのだろうか。彼らはテレビを見たり、ニューズレターや新聞を読んだりして公的機関や民間の予備機関が公表する予想に頼りながら、間接的に将来に何が起こるのかを考えているのです。エコノミストは、過去からの単なる推測ではなく、このような前向きに将来を読もうという期待形成を合理的期待と呼んでいる。
ここで、「合理的期待」について説明します。多くのマクロ経済学を専門とする経済学者は当然のように合理的期待の仮定の下でモデルを構築しています。しかし、これはここ20年の話でしばしば「合理的期待革命」と呼ばれます。期待の重要性はマクロ経済学の古いテーマとなっています。しかし1970年代初め」までに経済学者は2つの方法のうちいずれかで期待形成を定式化していました。
1つはアニマルスピリットです。これはケインズが現在の変数の動きによって説明することのできない投資の動きを説明するために「雇用・利子および貨幣の一般理論」で導入されたものです。つまり、期待のシフトは説明されないものとして捉えられていました。もう1つは過去の経験を考慮するというものです。これは適応的期待とよばれていました。人々が過去に急な所得の上昇を経験してきたならば、将来も同じように所得が上昇し続けると予想すること、あるいは過去に将来のインフレを過小評価していたとわかれば、そのインフレ期待を上方に改定することです。
1970年代初め、ロバート・ルーカスとトーマス・サージェントによって率いられた経済学者のグループは、これらの仮設は人々の期待形成の方法を正しく捉えていないと主張しました。彼らは経済学者が経済主体が合理的期待を持つことを想定するべきである、つまり経済主体は将来を見て、それをできる限り予測しようとするということを想定すべきであると主張しました。これは、経済主体が将来を知っているという仮定を指すのではなく、むしろ彼らは持っている情報を最大限利用するという仮定なのです。期間を明示的に含む標準的なマクロ経済モデルを使って、ルーカスとサージェントは期待形成についての伝統的な仮定を合理的期待の仮定に置き換えることで、根底から結果が変わってしまうことを示しました。彼らの研究によって、合理的期待の仮定の下でマクロ経済モデルを完全に再考する必要があることが明らかとなりました。
今日、多くの経済学者は自分が作ったモデルや政策分析の中で、実用的な仮定として合理的期待の仮定を使っています。ある政策がもたらしうる結果について考えるとき、最も適切な仮定とは、金融市場や人々、および企業がその政策の含意をできるだけ理解しようとするというものです。その政策に対して誤った行動をとるという仮定で政策を立案することは、明らかに賢明ではありません。このことをルーカスとサージェントはマクロ計量モデルを構築することでより大規模なモデルを解くことを可能にしました。このマクロ計量モデルは今日合理的期待の下で解かれています。