記事にした作品(と言っても,一つだけですが)以外では,12月は次のような映画を観ました。
1.『イタリア旅行』(1953年 イタリア)
監督: ロベルト・ロッセリーニ
キャスト
イングリッド・バーグマン(カテリーヌ)
ジョージ・サンダース(アレックス)
ゴダールをして「男と女と一台の車とカメラがあれば映画ができる」と言わしめ,ヌーヴェルバーグに影響を与えたと言われている作品。ナポリの海辺の別荘を相続したアレックスと妻のカテリーヌはその別荘を売却するためにイタリア旅行に出かけるが,二人の結婚生活は破綻寸前であり,夫婦はそれぞれ別々の行動をする。タイトルは『イタリア旅行』ではあるが,観光映画ではない。カテリーヌが一人で見るナポリやポンペイの風景は彼女の心象風景とも重なるようにも見えるのだが,ラストでは二人は固く抱き合い,お互いの愛情を改めて感じ合うのである。
現実生活ではロッセリーニとイングリッド・バーグマンは1950年に結婚,1957年に離婚するが,この映画が制作された当時の二人の関係はどうだったのだろうかなどと考えるのはゲスの勘ぐりであろう。しかし,ラストの展開はロッセリーニの願望のような気がしなくもないのだが…。
2. 『パフューム ある人殺しの物語』(2006年 ドイツ)
監督:トム・ティクバ
キャスト
ベン・ウィショー(バティスト・グルヌイユ)
図抜けた嗅覚を持ち,人気調香師になったグルヌイユが究極の香りを追求するために次々と殺人を犯していく物語。
途中まではグイグイ引き込まれたのだが,終盤の展開がもう少しなんとかならなかったのだろうか。香水のビンを取り出して…というところは荒唐無稽とはいえ気にはならなかったのだが,人びとが愛し合っている姿を見てグルヌイユが急に愛に目覚めるという展開には,それまでのグルヌイユの描き方から考えると「おいおい,急にそれはないだろう」という違和感が…。その意味で惜しい作品だと思われた。
3. 『L.A.コンフィデンシャル』(1997年 アメリカ)
監督:カーティス・ハンソン
キャスト
ケビン・スペイシー(ジャック・ヴィンセンス)
ラッセル・クロウ(バド・ホワイト)
ガイ・ピアース(エド・エクスリー)
キム・ベイシンガー(リン・ブラッケン)
ハリウッド映画のサスペンスの一つの典型的なパターン。面白い展開だとは思ったが,途中で黒幕が誰かが分かってしまい,サスペンスとしての興味は半減。今から思うと,ケビン・スペイシー,ラッセル・クロウ,キム・ベイシンガーなど出演陣が豪華。ケビン・スペイシー出演のサスペンスなら『ユージュアル・サスペクツ』のほうが断然面白い。
4. 『ある愛の風景』(2004年 デンマーク)
監督:スサンネ・ビア
キャスト
コニー・ニールセン(サラ)
ウルリッヒ・トムセン(ミハエル)
ニコライ・リー・コス(ヤニック)
罪と赦しを扱った映画。ただ,それが簡単に解決できるものではないところに切り込んでおり,観客に「あなたはどう?」と問いかけてくる。ヤニックとミハエルはそれぞれ罪を犯すが,それが相似形になっており,ヤニックは赦しを請う。ミハエルの犯した罪の重さはそれとは比べものにはならない。スサンネ・ビア監督は彼がどのようにして贖罪をするのかについては言及していない。それほど簡単な問題ではないからだ。エンディングは妻のサラがその罪を一緒に背負っていくだろうということを示唆しており,それが彼女の夫への愛なのだろう。希望はあるが,それは映画としての一応の解決でしかないということを監督はよく分かっているのだと思われる。観ていてヒリヒリするような痛みを伴う映画だ。あまりよく知らなかった監督だが,今後注目していきたい。
5. 『未来を生きる君たちへ』(2010年 デンマーク / スウェーデン)
監督:スサンネ・ビア
キャスト
ミカエル・パーシュブラント(アントン)
トリーヌ・ディルホム(マリアン)
ウルリッヒ・トムセン(クラウス)
マルクス・リゴード(エリアス)
ウイリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン(クリスチャン)
いじめの問題を解決するには,いじめている人間に逆襲するかその人間から逃げるかしか方法はないのではないだろうか。子供は前者の方法でいじめを解決した。しかし,大人はその方法を是としない。それは憎しみの連鎖を生むだけだからというのがその理由だ。しかし,大人もその選択を迫られる。しかもその相手は人間性のかけらもないような人間だ。では,それほど極端ではなくてもただ暴力的でしかない相手に対してはどのように対処すればよいのか。スサンネ・ビア監督は徹底的に問題を提起し,その選択を迫ってくる。ここでも監督はラストで赦しと希望を描いてはみせるが,観客が納得しないかもしれないということは折り込み済みのように思われる。
6. 『薔薇のスタビスキー』(1974年 フランス)
監督:アラン・レネ
キャスト
ジャン=ポール・ベルモンド(アレクサンドル・スタビスキー)
シャルル・ボワイエ(ラオール男爵)
フランソワ・ペリエ(ボレリ)
アニー・デュプレー(アルレッテ)
クロード・リッシュ(ボニー)
ロベルト・ビサッコ(モンタルボ)
1930年代の初めにフランスで起こったスタビスキー事件を題材にした作品。稀代の詐欺師スタビスキーはバイヨンヌ市の公設質屋を舞台に偽債権を発行するが,結局それが発覚し,政界を揺るがす一大疑獄事件へと発展する。映画は,スターリンとの権力闘争に敗れたトロツキーがフランスに亡命するところから始まる。映画の終盤,トロツキーはフランスから追放される。その間に描かれるのがスタビスキーの没落の過程である。トロツキーとスタビスキー事件とは直接の関係はないのだが,映画の終盤でトロツキーを支援していた若者は言う。「スタビスキーのせいだ。奴がいなかったら2.6暴動も内閣総辞職も右翼政権もない。右翼だからトロツキー追放さ。原因はスタビスキーだ。」スタビスキーの事業の協力者であったラオール男爵はスタビスキーの死後ぽつりと言う。「スタビスキーという男は一つの時代に終止符を打ったんだよ。自身と一緒にね。」スタビスキーのかかりつけの医師は言う。「たしかに彼は精神を病んでいた。」はたしてスタビスキーとは何者だったのか。映画の中で,人生における最悪の事態は死か牢獄かをめぐり,スタビスキーとラオール男爵が議論するシーンがある。スタビスキーは牢獄だと言い,ラオール男爵は死だという。ラスト。スタビスキーは死に,妻のアレットは牢獄へ。世界はこのあと,ファシズムが台頭する暗い時代に突入していった。スタビスキー事件とは暗い時代の入り口に咲いたあだ花だったのだろうか。
12月に観た映画は以上ですが,それ以外にアレクセイ監督『戦争のない20日間』(1976年 ソ連)を観だしたのですが,映像の劣化があまりにも激しく,暗闇の中で人物が動いているようにしか見えなかったので,始まってから15分ぐらいのところで放棄しました。残念。
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2019年もいよいよ押し詰まってきましたが,今年もたいして変化のない生活でした。変化と言えば,20歳前後のころ親しくしていた数人の人たちと数十年ぶりに会い,その後もお付き合いが続いているということと,楽天イーグルスのファンをやめたということぐらいです。来年は野球を見ていた時間を別のことに振り向けたいと思っています。
★今年観た映画ベストワン。
1. 邦画部門:大林宣彦監督『花筐』
反戦映画としてのメッセージもさることながら,圧倒的な映像美と耽美的な雰囲気の中に見られる登場人物たちの「青春の自意識」とでも言うべきものに引き込まれた。
2. 外国映画部門:スパイク・リー監督『ブラック・クランズマン』
エンタメ的手法を通じて人種差別問題を直球で扱っているスパイク・リーの才能に唸った。
12月に入って大量の仕事のオファーを引き受けてしまい,ブログを書く時間がほとんどとれなくなってしまいました。桜の花が咲く頃までブログを休止致します。では,皆様,よいお年を。