監督:トーマス・ステューバー
キャスト
フランツ・ロゴフスキ(クリスティアン)
サンドラ・ヒュラー(マリオン)
ペーター・クルト(ブルーノ)
アンドレアス・レオポルト(ルディ)
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旧東ドイツの巨大スーパーを舞台に、社会の片隅で助け合う人々の日常を穏やかにつづったヒューマンドラマ。旧東ドイツ生まれの作家クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」を、同じく旧東ドイツ出身のトーマス・ステューバー監督が映画化した。ライプツィヒ近郊の田舎町に建つ巨大スーパー。在庫管理係として働きはじめた無口な青年クリスティアンは、一緒に働く年上の女性マリオンに恋心を抱く。仕事を教えてくれるブルーノは、そんなクリスティアンを静かに見守っている。少し風変わりだが素朴で心優しい従業員たち。それぞれ心の痛みを抱えているからこそ、互いに立ち入りすぎない節度を保っていたが…。「未来を乗り換えた男」のフランツ・ロゴフスキが主演を務め、ドイツアカデミー賞で主演男優賞を受賞。マリオン役に「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・ヒュラー。2018年・第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。(「映画.com」より)
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映画のストーリーは「映画.com」で紹介されているとおりである。ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが再統一されたあとのドイツ。映画は巨大スーパーで働く人たちの姿を淡々と描いていく。再統一前は東ドイツであったこの地にはトラック運送会社があった。それを再統一後に旧西ドイツのスーパーマーケット企業が買い取ったのであろう。ブルーノやルディなど年配の従業員は再統一前はそのトラック運送会社で働いていた人たちである。
映画はクリスティアン、マリオン、ブルーノという登場人物の姿を描いているのだが、何か特別な出来事が起きるわけではない。登場人物たちは誰も多くを語らないが、冷たく突き放しているわけではない。逆だ。必要以上に立ち入らないが、心優しい人たちなのだ。新入りで在庫管理係に配属されたクリスティアンがフォークリフトの免許を取ったとき、巡業員たちが拍手をして祝ってあげるシーンがある。家族のようでもあるのだ。
この映画のポイントはスーパーの従業員たちは旧東ドイツに属していた人たちだというところにある。彼らが旧東ドイツの政治体制についてどのように思っているのかは描かれてはいないが、必ずしも再統一後の体制を心から歓迎しているわけではないのだろう。映画の終盤。ブルーノがクリスティアンに言う。「トラックの時代。いつもツルんでた。楽しい時代だった。そして、再統一。」これは社会主義という政治体制への郷愁ではないだろう。貧しかったけれど、仲間たちと一緒に楽しく働いていた時代への郷愁なのだ。「長距離トラックが懐かしい。…今はフォークリフトの運転だ」ブルーノのこの言葉は再統一後の東西格差によって旧東ドイツの人たちが二級市民として扱われていることへの無念さのつぶやきなのだ。東西分裂時代のドイツを知らない若いクリスティアンがブルーノのこの言葉をどのように受け取ったのかは分からないが…。
ラストシーン。ルディがクリスティアンに言う。「何があろうと前に進まないとな。…試用期間は終わりだ。飲料部の新しい責任者だ。」タイトルの『希望の灯り』は日本の配給会社による命名だが、監督は若いクリスティアンに「希望の灯り」を託しているのだろうか。
マリオン役を演じたサンドラ・ヒュラーについてひと言。サンドラ・ヒュラーが出演している作品を観るのは『落下の解剖学』、『関心領域』に次いで本作が三本目だが、どの役柄を演じても嵌まる女優で、『ありがとう、トニ・エルドマン』など他の作品も観てみたくなったという感想を持った。
社会主義か資本主義かのどちらかの体制を選べと言われれば、躊躇なく私は後者を選ぶし、この映画が社会主義のプロパガンダでないことは明らかだが、同時に、私は半年前に観た『ラスト・マイル』を思い出していた。利益がすべて、タイパがすべてという巨大物流センターを描いた作品なのだが、この映画についてはこのブログで取り上げたことがある。
https://ameblo.jp/traininglong/entry-12910935627.html




