ぼくは脳の中で起こっている現象を自然科学の方法論で研究することによって、人間の行動や精神活動を説明するのに有効な法則を導き出すことが出来ると確信しています。(利根川進)

 

 1987年に日本人初となるノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏が今月11日、86歳で死去された。(合掌)

 

 

 上の言葉は立花隆氏によるインタビュー形式によって編纂された書籍、『精神と物質』(文春文庫)からの引用である。インタビューの内容は主に利根川氏がノーベル賞受賞の対象になった免疫のカギとなる抗体の多様性に関するもので、立花氏が専門的な内容を読者にも分かりやすく解説しながら進んでいくので、文系脳の私でもなんとか概要ぐらいは理解できたように思われる。

 

 上の言葉から分かるように利根川氏は明らかに科学万能主義の立場に立って人間の精神現象なども物質レベルに還元することによって解明することが可能だと述べているのだが、これに対して立花氏は「精神現象というのは重さもない、形もない、物質としての実体がないんだから、物質レベルで説明をつける意義があまりないと思いますが」(p.324)と反論している。興味深い議論だが、このインタビューは『文藝春秋』1988年8月号~1990年1月号まで断続的に連載されたものを書籍化しているので、この両者の発言は今からほぼ37、8年前のものということになる。利根川氏は上で「確信しています」と述べていることを明らかにするために1990年以降は本格的に脳の研究に転じたらしいのだが、その成果はどうだったのだろうか?この議論の中でも私が特に興味を引かれたのは利根川氏が哲学や文学と脳との関連に言及している箇所なのだが、私は科学や論理ですべてが解明できるとはとても思えないので、この問題は引き続き取り上げることにする。(次回に続く)

 本日(7月20日)の朝日新聞朝刊の「文化」欄に「仮題『東京物語』 取り消して『長屋紳士録』に?」と題する記事が掲載されている。記事によると「小津安二郎監督が戦後第1作として発表した『長屋紳士録』(1947年)のタイトルは、当初『東京物語』となる可能性があったことがわかった」とのことである。横浜市在住の人物が所有している『長屋紳士録』の準備段階と見られる脚本(ガリ版刷りのわら半紙をひもでとじたもの)の表紙を見ると「假題 東京物語」と書かれているが、その文字が取り消し線で消されており、後に加えられたとみられる「長屋紳士録」の文字が確認できるとのことである。

 

 

 私は『長屋紳士録』を観ていないのでどのような内容の作品なのかは分からないが、『長屋紳士録』と『東京物語』では、タイトルから受ける印象がずいぶん異なるように思われる。さらに、もし『長屋紳士録』が『東京物語』というタイトルで公開されていたら1953年に公開された名作『東京物語』はどのようなタイトルになっていたのだろうか?実を言うと私はこの映画のタイトルが『東京物語』であるということに若干の違和感があったのだが、だからといって『上京物語』というのも違うように思われるし、『上京顛末記』はあまりにもダサい。このようなことを考えると、やはり『東京物語』が一番フィットしているのだろうという気にはなってくる。ひょっとしたら小津監督は『長屋紳士録』でボツにした『東京物語』というタイトルにこだわりがあって、それに相応しい物語を書いたのかもしれない。それとも脚本を書いている途中で「そうだ、あのときボツにしたタイトルがこの物語に相応しいではないか」と閃いたのだろうか?

 

 ところで、最近観たNetflix制作の韓国ドラマ『誰だって無価値な自分と闘っている』はこのタイトルを見ただけで鑑賞したいという気になった作品で、内容も「生きていく上での価値って何なのだろう?」ということを問いかけているタイトル通りのドラマでとてもいい作品だった。

 

監督:内田けんじ

キャスト

大泉洋(神野)

佐々木蔵之介(北沢)

堺雅人(木村)

田畑智子

常盤貴子

 

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母校の中学校に勤める教師・神野の元に、かつての同級生だと名乗る見覚えのない男が現れる。現在は探偵だという彼は、同じく神野の同級生で親友の木村を探しているという。神野は成り行きから木村の捜索に協力することになってしまい…。劇場長編デビュー作「運命じゃない人」がカンヌ国際映画祭にて4冠に輝くという快挙を達成した内田けんじ監督が、練り込まれた脚本と卓越した構成力で描いたサスペンス・コメディ。(「映画.com」より)

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 アマプラの配信ラインアップを見ていたらこの映画が目にとまった。以前に観たことがある映画なのだが、話の内容をほとんど思い出せない。この映画を観た当時はその感想を一口メモとしてEXCELに残していたので、それを確認すると、「失踪したと思われる中学時代の同級生を捜す教師に探偵が絡んで物語が展開する。内田監督お得意のどんでん返しはなかなか見事。」と書いていた。「どんでん返し?はて?」というわけで、再鑑賞。「あ~、そうか。そういうどんでん返しね。立場が入れ替わっちゃうんだ。」ということで、なかなか楽しめた。

 

 内田けんじ監督作は『運命じゃない人』(この映画は以前このブログで紹介したことがある)、『鍵泥棒のメソッド』、それに本作を含めると3本観ているが、すべてコメディタッチのサスペンスで3本とも脚本がよく練られていてとても面白く、このジャンルの映画がお好きな方にはオススメである。

 内田けんじ監督だが、2012年公開の『鍵泥棒のメソッド』を最後に監督作が見当たらない。どうされているのだろう?寡作な監督という印象だが、こういうタッチの映画が好きな私としては、できれば新作を期待したいところである。

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ほぼ1ヶ月半ぶりのブログの更新になったが、この間に観た映画・ドラマは以下のようである。

【ドラマ】評価は5点満点。★は1点。☆は0.5点

1. 『誰だって無価値な自分と闘っている』 (2026年 韓国)  評価:★★★★☆

2. 『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018年 韓国)  

                             評価:★★★★☆

 以上の2作品はNetflix制作の韓国ドラマ。1は12話、2は16話で、6月はこの2本のドラマの鑑賞のみ。

 

【映画】

1. 『夜明けまでバス停で』(2022年 日本)          評価:★★★☆   

2. 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026年 アメリカ)  評価:★★★★☆

3. 『アフター・ザ・ハント』(2025年 アメリカ・イタリア)  評価:★★★★

4. 『シークレット・サンシャイン』(2007年 韓国)      評価:★★★★

5. 『かくしごと』 (2024年 日本)               評価:★★★☆

6. 『繋がれる魂』(2021年 中国・台湾合作)         評価:★★★

 

 個人的な評価は以上のようになるが、感想を書きたい作品もあるので、いずれレビューを書くことにする。

 今年もダービーの季節がやってきた。私は年に2回、ダービーと有馬記念だけは馬券を買うことにしているが、今年のダービーはどのような結果になるだろうか。先週のオークスは今村聖奈騎手がジュウリョクピエロに騎乗し、JRA所属の女性騎手として、日本競馬史上初のGⅠ制覇およびクラシックレース初騎乗・初制覇という歴史的な大快挙を達成したが、ダービーでも何か驚くような結果が待っているのだろうか。

 

 さて、予想だが、現在(31日12時22分)の単勝オッズを5番人気まで見ると,以下のようである。

1. ⑰ロブチェン(3.0)   

2. ⑪リアライズシリウス(5.3)

3. ⑭ゴーイントゥスカイ(6.9)    

4. ⑬パントルナイーフ(9.7)     

5. ⑥コンジェスタス(11.5)

 

 出走馬18頭のうち10頭が前走「皐月賞」出走馬であり,上位人気馬を見ても3頭が「皐月賞」上位入線馬である。したがって,まず「皐月賞」の検討から始めるべきである。「皐月賞」の全着順は以下の通りである。★印のついている馬がダービー出走馬である。

  

皐月賞  中山競馬場 芝2000メートル

        馬名         タイム     通過順位     上がり   人気

1着     ★ロブチェン                1.56.5   1 1 1 1       34.2     1

2着  ★リアライズシリウス     1.56.7          2 2 2 2              34.4           4

3着  ★ライヒスアドラー         1.56.8         10 9 9 8             33.8           9

4着  ★アスクエジンバラ        1.56.8           5 5 3 3              34.2         12

5着  ★フォルテアンジェロ    1.57.0          17 16 15 13     33.4         10

6着  サウンドムーブ           1.57.0  8 6 7 6     34.1     17

7着  ★グリーンエナジー      1.57.0     13 14 13 10     33.6      2

8着  ラージアンサンブル  1.57.1  6 6 7 8     34.2     18

9着  サノノグレーター      1.57.3  13 13 13 10   33.9        14

10着 ★マテンロウゲイル       1.57.5         15 17 17 13      33.8         5

11着 ★バステール                     1.57.5        18 18 18 17      33.6         6

12着  ゾロアストロ                1.57.5         15 14 15 15      34.0      11

13着  カヴァレリッツォ       1.57.6          3 3 3 3               35.0       3

14着 ★パントルナイーフ       1.57.8         12 12 11 17       34.5      8

15着  アドマイヤクワッズ   1.57.9          3 3 3 3               35.4      7

16着  アクロフェイズ            1.58.0         6 6 6 6               35.2      16

17着  ロードフィレール       1.58.0          8 9 11 10         34.8      15

18着 ★アルトラムス                 1.58.8         10 9 9 15         35.8      13

 

【皐月賞回顧】

     前が有利な馬場で道中1、2番手を進んだ2頭が1,2着。1着のロブチェンは直線入り口辺りでリアライズシリウスに交わされそうになるも差しかえして3/4馬身差で1着。2着のリアライズシリウスも道中2番手からそのまま2着でゴール。1番人気と4番人気の決着になったが、ほぼ順当な結果であろう。3着のライヒスアドラーは中団から上がり3F33.8秒の足で追い上げての3着入線は前残りの競馬だっただけに立派。4着のアスクエジンバラは好位追走ながら3F34.2秒は馬場状態を考えれば平凡。5着のフォルテアンジェロだが、スタートで出遅れ、道中は後方からの競馬になる。上がり3F33.4秒はメンバー中最速で、直線では最内を通り、前の馬を捌くのにやや手間取りながら前が有利な馬場状態で5着に追い上げたのは評価できる。スタートでの出遅れが最後まで響いたと思われる。

 以上、1~5着の馬について見たが、1、2着のロブチェン、リアライズシリウスの能力が上位であることは認めつつも、馬場状態、展開に恵まれたことも考慮するべきだろう。その点を考えると、5着のフォルテアンジェロはスタートの不利をカバーして最速の上がりで5着に食い込んだことは大いに評価できるであろう。3着のライヒスアドラーもそういう意味では評価できるが、道中の位置取りを考えると、0.2秒の差はあるもののフォルテアンジェロを上位にとりたい。

 次に2番人気で7着に敗れたグリーンエナジーだが、4角では後方から外を回って差してくるもフォルテアンジェロほどの足は使えなかったということを考えれば後者を上位にとりたい。

 現在4番人気に支持されているパントルナイーフだが、手許の競馬新聞の評価を見ると、3~4角で下がってきた馬を捌けずに後退、直線も進路がなかったとのことだが、レースビデオを見ると3~4角では少し下がっているが、直線で進路がなかったと言ってもほぼ上位が確定した時点で後方にいて前に馬がいただけなのでそれは考慮外。順調に走っていても掲示板に載ることはなかったと判断したい。

 以上、皐月賞からはロブチェン、リアライズシリウスに加え、フォルテアンジェロの3頭を同等に評価、それよりも少し下位にライヒスアドラーを評価したい。

 

 現在3番人気のゴーイントゥスカイだが、1着になった前走「青葉賞」(東京 芝2400メートル)のレース結果は以下の通り。

タイム    通過順位     上がり   人気

2. 23.0           10 8 8 7        33.4         4         

 

 レースでは中団追走で直線で伸びるというパターン。レースぶりを見ると強そうだが、3/4馬身差2着のタイダルロックは「弥生賞」でダービー出走馬のバステール、ライヒスアドラーの後塵を拝しての4着(1着のバステールと0.3秒差)だったことを考えると、「青葉賞」のレースレベルに疑問がつく。データ上も「青葉賞」勝ち馬のダービーでの過去20年の成績は[0 3 1 14]なので馬券的には切ってもよいだろう。

 

 現在5番人気で3戦3勝、無敗でダービー挑戦のコンジェスタスだが、1着でゴールインした前走「京都新聞杯(京都 2200メートル)」のレース結果は以下の通り。

タイム    通過順位     上がり   人気 

2.09.9            6 7 9 7              35.3            6         

 

 普通に強い競馬。「共同通信杯」2着のベレシートを破ったところに価値がある。その「共同通信杯(東京 1800メートル)」だが、レース結果は以下の通り。

                  馬名             タイム    通過順位     上がり   人気

1着  リアライズシリウス           1.45.5     1 2 2              34.1             2      

2着  ベレシート                                1.45.5               8 8 8               33.0            4      

3着  ロブチェン                                1.45.5               4 4 4               33.4            3

 1着のリアライズシリウスと3着のロブチェンの間にベレシートが入線しているところを見ると、このレースのレベルの高さが分かる。ここから考えると、そのベレシートを破ったコンジェスタスの強さが推測される。「皐月賞」組以外ではこの馬を選びたい。ただ、「京都新聞杯」から中2週というレース間隔にはやや疑問も残るが…。

 

【結論】

 以上より、「皐月賞」組から⑰ロブチェン、⑪リアライズシリウス、⑮フォルテアンジェロ、「京都新聞杯」から⑥コンジェスタス、それに押さえとして①ライヒスアドラーをピックアップしたい。

 ただ、以上の馬にも懸念点はある。⑪リアライズシリウスは津村騎手が昨日のレースで落馬負傷したものの本日は騎乗するらしいが、怪我の程度がどの程度なのかが分からないという点。⑮フォルテアンジェロは前走後方からいい足を使ったが直線の長い東京競馬場でどの程度その足を発揮できるかという点。⑥コンジェスタスは上にも書いたように中2週というローテーション。①ライヒスアドラーは最内枠をどう乗り切るか。すると、比較的不安の少ないのは⑰ロブチェンになるが…。

 レースは大方の予想通り⑪リアライズシリウスが逃げて、それを2番手から⑰ロブチェンが追走する展開になると思うが、ペースはそれほど速くならないだろう。⑮フォルテアンジェロ、⑥コンジェスタスも好位で競馬を進めるだろう。直線の攻防は⑰ロブチェンと⑪リアライズシリウスのデッドヒートになったところを⑮フォルテアンジェロが強襲、遅れて⑥コンジェスタスも馬群を捌いて上がってくることになるのではないだろうか。1着⑮フォルテアンジェロ、2着⑰ロブチェン or ⑥コンジェスタス、3着⑪リアライズシリウス。①ライヒスアドラーはどこまで食い込めるか。

 

馬券は以下の通り。

●馬連

 6-15 (100.2)

    11-15 (52.4)

    15-17 (21.2)

●三連複

 1, 6, 11, 15, 17のボックス。

 

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【ダービーのレース結果】

1着~5着は以下の通り。

1着  ⑰ロブチェン

2着  ⑬パントルナイーフ

3着  ⑤バステール

4着  ⑭ゴーイントゥスカイ

5着  ②マテンロウゲイ

 

  予想で挙げた馬のなかで掲示板に載った馬は⑰ロブチェンのみで、予想した馬の成績は以下の通り。

7着  ⑪リアライズシリウス

8着  ①ライヒスアドラー

9着  ⑥コンジェスタス

12着      ⑮フォルテアンジェロ

 

  完敗です。

 昨日(5月27日)の朝日新聞夕刊に「100年前の『円本』ブーム その光と影」と題する記事が掲載された。署名入りの記事で書いたのは編集委員の柏崎歓氏である。

 

 「円本」とは1冊1円の全集だが、記事によると、現在、東京都目黒区にある日本近代文学館で「『円本』から読む日本近代文学」という特別展が開かれているようである。記事に即して円本が刊行された経緯を紹介すると、1923年に発生した関東大震災によって市中の本のかなりの部分が焼けてしまい、本の価格が急上昇したために本が手に入りにくくなった。そこで、1926年12月に出版社の「改造社」が『現代日本文学全集』の刊行を開始したのだが、それが円本の始まりで、他社も安価な全集で追随して激しい販売競争が始まり、大量注文に対応するための高性能の印刷機の導入など、出版業界に大きな変革がもたらされたとのことである。もっとも、この状況を批判するジャーナリストや出版人たちもいて、それが岩波文庫の創刊(1927年)につながったとのことである。

 

 

 円本ブームについては2025年の新書大賞に輝いた三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)のなかでも触れられていたので、それを参考にもう少し敷衍しておこう。

 朝日新聞の記事にあるように初の円本は『現代日本文学全集』だが、三宅によればこれは全巻一括予約制で、予約読者は23万人を越え、最終的には40~50万の予約に至ったとのことである。なぜこれほど売れたのかというと、当時の単行本の価格相場は2円~2円50銭で、『現代日本文学全集』には通常の単行本の4~5冊分が収録されていたそうなので、実質的には10分の1ほどの価格になる。確かに安い。

 次にどのような人たちが円本を買っていたかというと、おもに都市のサラリーマン層、つまり新中間層=学歴エリート階層で、主な購入動機は書斎のインテリアとして置いておくことであったようだ。三宅の言葉を借りれば「日本で最初の『積読(つんどく)』本」である。(笑) しかし、『現代日本文学全集』は結果的に全62巻、別冊1巻になったとのことで、当時の1円は現代の2000円ほどなので、全巻買うと現代の貨幣価値に換算して126,000円になる。これだけを見ると高い気もするが、なぜ当時のサラリーマンが円本全集を買おうという気になったかというと現代のサブスク、つまり月額払いだったらしく、このことが大きなカギで月給制の彼らは毎月の給料(ほぼ100円)から1円を支払っていたのである。

 

 朝日新聞の記事に戻ると、上に紹介したように、円本ブームには批判もあって、それが岩波文庫の創刊(1927年)につながったのであるが、記事によるとその経緯については岩波文庫の巻末にある「読書子に寄す 岩波文庫発刊に際して」に述べられているそうである。これは昭和2年(1927年)7月に岩波茂雄によって書かれたものだが、私はこの巻末文を読んだことがない。その理由は文字が小さすぎるということである。しかし、今回このブログ記事を書くに当たって手近にあった岩波文庫(E. H.カー『危機の二十年』)の巻末文を虫眼鏡を使って読んでみたので、その一部を引用すると以下のようである。

 

 「近時大量生産予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態はしばらくおくも、後代にのこすと誇称する全集がその編集に万全の用意をなしたるか。千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。さらに分売を許さず読者を緊縛して数十冊を強うるがごとき、はたしてその揚言する学芸解放のゆえんなりや。吾人は天下の名士の声に和してこれを推挙するに躊躇するものである。」

 

 明らかに円本に対する痛烈な批判であり、この一節に続いて岩波文庫創刊の決意が次のように述べられる。「このときにあたって、岩波書店は自己の責務のいよいよ重大なるを思い、従来の方針の徹底を期するため、すでに十数年以前より志して来た計画を慎重審議この際断然実行することにした。」

 この志については一定の敬意を払うものの、円本について上の引用に見られるほどの批判をする必要はないような気はするが…。また、「価格の低きを最主とする」という文言も見られるが、私の場合、最近の文庫本の価格の高さについてはもう少しなんとかならないだろうかという思いは強くある。因みに、上で参照した2011年初版発行の翻訳本E. H.カー『危機の二十年』の価格は「本体1400円+税」である。ウ~ン…。