7月は記事にあげた『許されざる者』、『陪審員2番』、『コラテラル』、そして昨日レビューを書いた『悪い夏』以外に以下の3本の映画を観ました。
1. 朽ちないサクラ(2024年 日本)
監督:原廣利
キャスト
杉咲花(森口泉)
萩原利久(磯川俊一)
森田想(津村千佳)
豊原功補(梶山浩介)
安田顕(富樫俊幸)
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「孤狼の血」シリーズの柚月裕子による警察ミステリー小説を杉咲花の主演で映画化。杉咲演じる県警の広報職員が、親友の変死事件の謎を独自に調査する中で、事件の真相と公安警察の存在に迫っていくサスペンスミステリー。
たび重なるストーカー被害を受けていた愛知県平井市在住の女子大生が、神社の長男に殺害された。女子大生からの被害届の受理を先延ばしにした警察が、その間に慰安旅行に行っていたことが地元新聞のスクープ記事で明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたと疑うが、身の潔白を証明しようとした千佳は一週間後に変死体で発見される。後悔の念に突き動かされた泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓うが…。
泉役を杉咲が演じるほか、安田顕、萩原利久、豊原功補らが顔をそろえる。監督は「帰ってきた あぶない刑事」の監督に抜てきされた原廣利。(「映画.com」より)
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『市子』を観ていい女優だなと思った杉咲花主演、柚月裕子原作ということで鑑賞。ラストのどんでん返しは結構インパクトがあるし、伏線も回収されているし、ミステリー作品としてはよくできた映画だとは思うが、なんとなくすっきりしない気分が残った。そして「なぜだろう?」と考えてみて…、その原因はタイトルにあることがわかった。「サクラ」って…、なるほどそうか。もちろん、杉咲花はやっぱりよかったが。
2. ユリゴコロ(2017年 日本)
監督:熊澤尚人
キャスト
吉高由里子(美紗子)
松坂桃李(亮介)
松山ケンイチ(洋介)
清野菜名(千絵)
木村多江(細谷)
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沼田まほかるの同名ミステリー小説を、「僕等がいた」の吉高由里子主演で実写映画化。「君に届け」「近キョリ恋愛」の熊澤尚人監督がメガホンをとり、「人間の死」を心の拠り所にして生きる悲しき殺人者の宿命と葛藤を、過去と現在を交錯させながら描く。亮介は余命わずかな父の書斎で1冊のノートを見つける。「ユリゴコロ」と書かれたそのノートには、ある殺人者の記憶が綴られていた。その内容が事実か創作か、そして自分の家族とどんな関係があるのか、亮介は様々な疑念を抱きながらも強烈にそのノートに惹きつけられていく。謎に包まれた殺人者・美紗子役を吉高、彼女と運命的な出会いをする洋介役を松山ケンイチ、ノートを発見しその秘密に迫る亮介役を松坂桃李がそれぞれ演じる。(「映画.com」より)
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新婚の亮介の妻・千絵が忽然と姿を消す。ある日、亮介は父親の書斎に「ユリゴコロ」と題されたノートを見つける。そのノートには「私のように平気で人を殺す人間は脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか」という一文で始まる殺人の記録が綴られている。それは父親の創作ノートなのか、それとも誰か他人が書いた事実なのか…。サスペンスとしてはつかみはOKだ。その後時代を隔てた2つの物語が交互に展開されていく。この2つの物語がどのように交わるのかがこの映画の焦点なのだが、構成その他にアラが目についた作品で、全体としてはイマイチ。ストーリー展開に破綻はないが、前半と後半で映画のテイストが違いすぎてついていけないし、ラストの展開も唐突すぎる。
3. ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌(2020年 アメリカ)
監督:ロン・ハワード
キャスト
エイミー・アダムス(ベヴ)
グレン・クローズ(マモーウ)
ガブリエル・バッソ(J・D・バンス)
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「ビューティフル・マインド」「ラッシュ プライドと友情」の名匠ロン・ハワードが手がけたNetflixオリジナル映画。「アメリカン・ハッスル」のエイミー・アダムスと「天才作家の妻 40年目の真実」のグレン・クローズをキャストに迎えたヒューマンドラマ。J・D・バンスの回顧録「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を原作に、3世代にわたる家族の愛と再生の物語を描く。名門イェール大学に通うバンスは理想の職に就こうとしていたが、家族の問題により、苦い思い出のある故郷へ戻ることに。そこで彼を待ち受けていたのは、薬物依存症に苦しむ母ベブだった。バンスは育ての親である祖母マモーウとの思い出に支えられながら、夢を実現するためには自身のルーツを受け入れなくてはならないと気づく。共演は「キングス・オブ・サマー」のガブリエル・バッソ、「マグニフィセント・セブン」のヘイリー・ベネット、「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピント。(「映画.com」より)
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2016年に出版され、アメリカでベストセラーになったJ.D.ヴァンスの自叙伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』の映画化作品。J.D.ヴァンスとはウクライナのゼレンスキーとホワイトハウスで舌戦を繰り広げて日本でも有名になった第2次トランプ政権の副大統領である。映画はアイビーリーグの名門イェール大学のロースクールの卒業を間近に控えているヴァンスが名門法律事務所への就職試験の面接が一週間後に迫っている時に入った故郷の母親が薬物依存症で入院したという連絡を軸に、ヴァンスの幼い頃からの生い立ちを挟みながら進行する。貧しい白人労働者が多く住むラストベルトと呼ばれるオハイオ州のミドルタウンがヴァンスの故郷である。暴力的で薬物依存症の母親に育てられ、同じような環境で育った悪友たちと悪い遊びをしていたヴァンスがどのようにしてイェール大学のロースクールに進んだのかを映画は描く。そして、そこには祖母の叱咤激励があったと…。私は上に挙げたヴァンスの著書『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』も読んだが、映画はその本の重要な部分をスキップしており、その点でかなり不満が残った。それはトランプを批判していたヴァンスがなぜトランプ支持に転向したのかが推測される部分であり、さらに言えば、それは現在のアメリカの政治状況を把握する手がかりにもなるのではないかと思われるからである。とはいえ、俳優陣に関して言えば、ヴァンスの母親を演じたエイミー・アダムスの毒親ぶりや、祖母を演じたグレン・クローズの迫力は高く評価したい。グレン・クローズが第93回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたのも納得である。