第2話 機内に残されたUSBと “FlightControl:Ghost”
成田発サンフランシスコ行き、ユナイテッド航空A777便。
乗客はすでに降機し、客室乗務員たちも片付け作業に入っていた。
整備士の一人、佐藤は最後列の座席下に、小さな黒いUSBメモリが落ちているのを見つけた。
「……なんだこれ。お客さんの忘れ物か?」
彼は首をかしげ、近くの主任整備士・村田に声をかけた。
「村田さん、これ見てください。座席の下に落ちてました」
村田は手袋越しにそれを受け取り、刻印を確認する。
メーカー名もロゴもない、無機質な黒い筐体。
「……妙だな。こんな無印のUSB、最近は珍しいぞ。ITセキュリティに回せ」
その頃、コックピットでは機長のデイビッド・ハリスが降機準備を終え、最後の計器チェックをしていた。
ふと、フライトデータ画面に異常があることに気づく。
「おい、ロブ。ここの数値、記録と一致してないぞ」
副操縦士のロバート・チャンがのぞき込み、眉をひそめた。
「……GPSログが部分的に消えてる。こんなの見たことない」
その瞬間、客室後方からインターホンが鳴る。
「こちら整備チームです。変なUSBが見つかりました」
機長は短く返答し、副操縦士に告げた。
「ロブ、セキュリティに連絡だ。俺たちだけじゃ判断できん」
数時間後、ユナイテッド航空本社のサーバールーム。
セキュリティ担当のエンジニア、ジェシカ・ウォンが、問題のUSBを隔離したラップトップで解析していた。
画面に現れたのは、不可解なコードの羅列とファイル名──《FlightControl:Ghost》。
「……これ、ただの航行データじゃない。操縦ソフトそのものに侵入できるモジュールだわ」
彼女は冷や汗をぬぐい、隣の上司に画面を見せる。
上司の声が低くなる。
「こんなもの、旅客機にどうやって持ち込まれた……?」
ジェシカは小さく首を振った。
「しかも、実行タイムスタンプは……離陸の直前」
その夜、サンフランシスコ市内の古いバー。
黒いレザーコートの男が、薄暗いカウンターでバーボンをあおっていた。
隣の男が低くつぶやく。
「貨物は無事に届いたらしいな」
レザーコートの男は口元をわずかに歪めた。
「問題は……彼らがどこまで気づいたか、だ」
そして、彼の手元には──全く同じ形の黒いUSBが、もう一つ。