第5話 「制御権を持つ者」
「君たち、UA777の件に首を突っ込むと……帰れなくなるぞ」
赤い非常灯の下、黒いレザーコートの男は一歩、ゆっくりと近づいてくる。
その目は笑っていない。
ジェシカが低く返す。
「あなたが"FlightControl:Ghost"の操作者か」
男は薄く笑った。
「操作者……面白い呼び方だ。だが正確ではない。私は制御権を持つ者だ」
村田が前に出る。
「制御権? あんた、飛行機を墜落させる権限でも持ってるってのか」
男は首を横に振る。
「墜落など、古臭い発想だ。いまの空は、もっと静かに、もっと効率的に……書き換えられる」
「この装置、UA777の航法データに直接アクセスできるのね」
「それは……一部だ」男は机に手を置き、わざとらしくゆっくりとUSBを回転させる。
「君たちが気付いていないだけで、この瞬間も、複数の航路が再計算され、複数の便が『別の場所』に向かっている」
ハリスが一歩踏み出す。
「何のために?」
「目的は単純だ。空を管理するのは国家ではなく、我々だ。UA777は、その実証実験にすぎない」
この男をここで取り押さえるか、さもなくば全てを闇に葬られる。
チャンが小声で囁く。
「ジェシカ……正面は危険だ。後方の非常扉から出れば──」
男の声が遮る。
「無駄だ。その扉の外には二人、君らを待っている」
赤い非常灯の光が、管制室の窓越しに動く人影を映し出す。
逃げ道はない。
ジェシカはホルスターの安全ロックを外した。
その瞬間、外でプロペラ音──小型ドローンの群れが施設を包囲していく音が響く。