第8話 脅迫の回線
夜の成田第2ターミナル。
出発ロビーの片隅、成瀬と加瀬は小型の暗号化端末を覗き込んでいた。
画面には、英語とロシア語が入り混じる短文が次々と流れる。
送信元は不明――だが、内容は彼らの行動を逐一把握しているとしか思えないものだった。
《この情報を公にされたくなければ、明朝0600時までに羽田へ移動しろ》
《拒否すれば、日本警察・FSB・CIAが同時にお前らを追う》
成瀬の声は震えていた。
「どこからじゃない、最初から“見せられてた”んだ」
加瀬が端末を閉じる。その口調は静かだが、目だけは鋭く光っている。
「オルロフもシロフも、同じ命令系統にいる。俺たちは、その両方に挟まれた“証人”ってわけだ」
だが成瀬の耳には、背後から近づくブーツ音だけがやけに響いた。
黒いジャケットの男が、二人の脇に腰を下ろす。
無言で置かれた封筒には、羽田行きの搭乗券と現金が入っていた。
男は低く呟き、去っていく。
「お前らは今、その“必要”に入っただけだ。価値があるうちは、生かしておく」
「なぁ……これって、俺たちもう逃げ道ないよな」
加瀬は短く頷く。
「逃げ道? あるさ。生き延びることを諦めなければ、な」