小説「ブラック・トランジット〜ユナイテッド航空777連続トラブルの真実〜」(12) | 希望が未来への力

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第12話 「赤の広場の地下で」

 

赤の広場の夜は、雪と観光客の少ない静けさに包まれていた。
聖ワシリイ大聖堂の前に立ったマヤは、負傷した脇腹を押さえながら、地下への隠し通路の位置をアレックスに示した。

「ヴォロジンが言ってた“本物”って、たぶんあそこよ。」
彼女が指差したのは、旧ソ連時代に使われていた地下物資搬入口。今は使われていないはずの鉄扉だ。

アレックスは工具で錠をこじ開け、二人は暗闇の階段を降りていく。
コンクリートの壁には古いプロパガンダのポスター、奥からは冷たい空気とわずかな油の匂いが漂っていた。

階段を降りきった瞬間、乾いた金属音が響く。
マヤの耳がピクリと動く。
「静かに…誰かいる。」

薄暗い通路の先、照明の下に立つ男──灰色の瞳。
港で逃げた“あの男”だ。
彼の背後には、古びた金属ケースとノートPCが置かれている。

男はゆっくりと口を開いた。
「君たちは遠くまで来たな。だが、そのUSBは“偽物”だ。」
アレックスが一歩前に出る。
「じゃあ、本物は?」
「ここだ。」

男がケースを開けると、中には“FlightControl:Ghost”と刻まれた小型の軍用チップが収められていた。
それは航空機の自動操縦を完全に乗っ取れる違法モジュールだった。

マヤが鋭く問い詰める。
「これが、ユナイテッドのシステムをダウンさせた原因?」
男は薄く笑い、首を横に振る。
「原因の一部だ。だが、もっと深い──国家レベルの指令が関わっている。」

その瞬間、背後の通路からロシア語の怒声と足音。
黒狼派の武装部隊がなだれ込んできた。
男は銃を抜きながら言う。
「今は殺し合う時じゃない。お前たちも撃たれたくなければ、俺について来い。」

一時的な共闘。
赤の広場の地下を駆け抜ける三人。
しかしマヤは、走りながらこう思っていた──この男こそ黒幕の一部かもしれない