「で、頭領。犯人はわかりそうなの」
「え」
長い沈黙を破って発せられた問いに、不意をつかれたようにロゼが顔を上げると、期待するような顔の仲間たちが頭領を見ていた。
「いや"え"じゃなくてね。頭領はいったい何を考えてたのさ」
「もちろんこのマーボーカレーまんをどうやって分けるといいか考えてたんだよ。決まってるじゃん」
「ええ……」
「え」
長い沈黙を破って発せられた問いに、不意をつかれたようにロゼが顔を上げると、期待するような顔の仲間たちが頭領を見ていた。
「いや"え"じゃなくてね。頭領はいったい何を考えてたのさ」
「もちろんこのマーボーカレーまんをどうやって分けるといいか考えてたんだよ。決まってるじゃん」
「ええ……」
腰に両手をあてて当然のようにのたまうロゼを見て、風の骨の仲間たちはがっくりと肩を落とした。
その空気からなにかを察したのか、ロゼが声をあげた。
「と……とにかく考え込んでたら日が暮れちゃうから、もうおやつ食べちゃお。それからゆっくりと犯人探しに決まりってことで」
言い終わるとロゼは右手でマーボーカレーまんを掴むと、大きな口を開けてかぶりついた。
「ああっ、頭領つ……」
「食べちゃったよ……」
「どうやって残りを分けるんだよ」
ロゼがひとつ食べなかったところで状況は変わらないのだが、ついつい風の骨のメンバーの口から愚痴がこぼれ出てしまう。
そんな彼らを別の一人が悟ったような表情でなだめた。
「しょうがないよ。頭領はマーボーカレーまんには目がないんだから」
「違いない」
その言葉に仲間たちがうなづいて笑うと、ロゼは不服そうに口を尖らせた。
「ヒドいなあ、もう」
「それ頭領の言うことじゃないよ」
「ぶーー」
ロゼが頬を膨らませると、違うメンバーが当面の問題を口にした。
「でさ、これどうやって分けるの」
「それなら」
ロゼはぽんっと手を打つと、もうひとつマーボーカレーまんを手に取ってね二つに割り、フィルと同じ顔をした少年をそれぞれ見た。
「フィル、トル。あんたたち双子なんだし、二人で一人ってことでよろしく」
ロゼは双子にそれぞれ半分のマーボーカレーまんを手渡した。
「ええーーっ」
双子はまったく同じ表情で声をハモらせて不平を訴えたが、もはや彼らの味方はこの場には存在しなかった。
「はは、そりゃいい。お前たち引越しの準備もやってないし、それでいいよな」
「ち、ちょっと待って。それは頭領にエギーユたちのところに行くように言われたからじゃん」
「そうだよ。あたしたちだけ働いてないみたいな言い方はおかしいよ」
口々に双子に文句を言われたが、ロゼは視線を上にそらしてとぼけた。
「あれぇ、そうだっけ」
「そうだよっ」
「まあまあ。次は代わるから。今回は涙を呑んで引き受けてくれ」
抗議する双子とロゼの間に、彼らの中では年長の男が割って入ると、二人は不承不承うなづいた。
「頭領、ちゃんと犯人見つけてよ」
異口同音でそう言うと、双子は半分しかないマーボーカレーまんをかじった。
「わかってるって」
ロゼは双子に片目を瞑ってみせた。
「それでどう、スティング。そろそろここを出られそうかな」
「ああ。今日中には準備は整うだろう」
スティングと呼ばれた年長の男が答えると、ロゼは満足そうにうなづいた。
「了解。じゃあ出発は明日の早朝で。いいね、みんな」
「ああ」
「オッケー」
「いいんじゃない」
「わかった」
仲間たちは頭領の決定に口々に賛同すると、マーボーカレーまんを食べ終えた者からそれぞれの持ち場に散った。
「さて、あたしもちょっと行ってくるか」
そう呟いてアジトの奥に向かって行ったロゼの後をライラとデゼルはついて行った。
ロゼはアジトの奥の突き当たりに立つと、そこにある大きな仕掛け扉を見上げた。
「結局この向こうに何があるからわからずじまいか」
頭の後ろで両手を組んで半円の仕掛け扉を見上げるロゼの背中を眺めつつ、ライラがデゼルに尋ねた。
「あれはなんですの」
「扉らしい。あいつらの話ではな」
「らしい。ということは、デゼルさんもご存知ないんですのね」
「知る必要がない。俺も、あいつらも」
「そうおっしゃるんですのね」
「なにが言いたい」
ライラはいぶかるような表情で問うデゼルを、少し寂しそうな顔で振り返った。
「いいえ。ただこういう無駄を楽しむという気持ちがないのかと思っただけですわ」
「あのガキ共か……。こっちは世間知らずじゃねぇからな」
「そうでしたわね」
少し残念そうな顔でうなづいたライラにデゼルが問うた。
「えらくご執心だな。あの向こうに何があるのか、知ってるんじゃねぇのか」
「えっ、そ、そんなこと……」
「知ってるんだな。あの向こうに何がある」
「それは……私も行ったことは……」
ライラは狼狽えながらもはぐらかそうとしたが、デゼルに睨まれて観念したように溜め息をついて白状した。
「あの奥には……導師にまつわる遺跡があると聞きましたわ」
「チッ……。くだらねぇ」
デゼルに舌打ちされ、ライラはがっくりと肩を落とした。
「誰、そこにいるの」
彼らの前で扉を見上げていたロゼが、突然振り向いた。
反射的に身構えるデゼルとは対照的に、ライラは大輪の花が咲いたような笑顔をロゼに向けた。
しかし彼ら天族のそれは勘違いだったようで、ロゼの視線は二人の向こうを捉えていた。
「よお、俺だよ。仲間にそれはないだろう」
「あ……あれ、ジャミル。あんただったの」
「誰だと思ったんだよ」
「え、えーーと。あの……」
ロゼはジャミルから目をそらしてあらぬ方向を見た。
「なんか違う気配のヤツがいると思ったんだけどなあ……」
「違う気配のヤツって、俺たちの他に誰かいるのかよ」
ジャミルは両手を腰にあてて溜め息をついたが、すぐになにか思いついたらしく、右手でロゼを指差した。
「あ、頭領あれだろ」
「な、なにさ……」
戸惑うロゼにいたずらっぽい笑顔で、ジャミルはその名を口にした。
「オ、バ、ケ」
その単語を聞くや否や、ロゼはジャミルを突き飛ばした。
「オバケなんかいないっ」
ジャミルはよろよろと二、三歩後ずさってなんとか踏みとどまった。
「でも見えてたよな」
「しらない、しらないっ。恥ずかしいから言うなっ」
「顔を真っ赤にして握りしめた拳を振り回すロゼに、見かねたライラが声をかける。
「は、恥ずかしいことなんてありませんわ、ロゼさん」
「あいつには聞こえねえ。いい加減に学習しろ」
「……」
デゼルにたしなめられたライラは、頬を赤く染めて口を尖らせた。
天族二人の前で、ロゼは首を左右に振ると歩き始めた。
「あ、おい。どこに行くんだ」
「やっぱりあの扉の向こうに行くのはムリっぽいから、みんなの所に戻るわ」
そう言ってロゼはジャミルの脇をすり抜けると、ひらひらと右手を振った。
ジャミルはそんなロゼを見送ると、肩をすくめて彼女の後を追った。
「ほら、わかっただろう。そう簡単にあいつに俺たちは見えるようにならねぇよ」
「オバケ……とおっしゃいましたわね」
ライラはデゼルの言葉を遮った。
「それがどうした」
「ロゼさんはオバケを見たくないようですわね」
「だからなんだ」
「オバケとはもしかすると天族のことを指すのではありませんの」
「……なにが言いたい」
デゼルの声に怒気が混じったが、ライラは構わずに続けた。
「デゼルさん。なにか知っているんじゃありませんか」
「てめぇには関係ねぇ」
怒りをそのまま吐き捨てると、デゼルはライラから顔をそむけた。
ライラは露骨にオバケの話を避けようとするデゼルをじっと見つめたが、やがて諦めたように溜め息をついた。
「……まあ、いいですわ」
そしてライラはデゼルに見切りをつけると、扉に背を向けて歩き始めた。
「おい、どこに行きやがる」
「デゼルさんには教えません」
やや子供っぽい返しをして、そのまま歩いていくライラの行き先に見当がついたデゼルは声を荒げた。
「……おい、待て。てめぇまたやらかす気か」
ライラは雷に撃たれたように、肩を震わせて足を止めた。
「な……なんのことですの」
振り向かずにとぼけるライラに、デゼルは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした。
「チッ……。しらばっくれるんじゃねぇ。また盗み食いをするつもりだろうが」
「盗み食いだなんて……人聞きが悪いですわ」
ライラの声がうわずっている。明らかに図星だったようだ。
デゼルは左手で帽子を押さえて首を横に振った。
「本当のことだろうが。現にてめぇの足は、厨房に向いているじゃねぇか」
「これはっ……」
思わず振り向いたライラに、デゼルは釘をさすように言った。
「あいつらを甘く見るなよ」
「どういうことですの」
「ああ見えてあいつらはプロだ」
「でもデゼルさんも私も見えていませんわ。いくらその道に精通していても、見えなければどうしようもないと思いますけど……」
「……勝手にしろっ」
吐き捨てるように言うと、デゼルはそっぽを向いて黙り込んだ。
ライラは肩をすくめると、再び厨房に歩を進めた。
大広間を横切り、美味しそうな匂いに引っ張られるように、ライラは厨房に近づくと中を覗き込んだ。
厨房では黒ずくめの男が一人で忙しそうに動き回っているのが見える。彼は人数分の木の皿を抱えると、配膳台の上に並べた。
「ちょっと熱すぎるかな。やっぱり先によそって少し冷まそうか」
そう言うと男は調理台から大きな鍋を持ってきて配膳台に置くと、鍋からおたまで中のシチューをすくい上げて木の皿によそっていった。
木の皿から次々に立ち昇る湯気に混じった匂いに唾液腺を刺激され、ライラは思わず唾を飲み込んだ。
「よし、準備もできたし、みんなを呼びに行くか」
男は両手を腰にあてて満足そうにうなづくと、厨房を出て仲間の元へ向かった。
ライラは男の背中を見送ると、舌なめずりをして厨房に入った。
その空気からなにかを察したのか、ロゼが声をあげた。
「と……とにかく考え込んでたら日が暮れちゃうから、もうおやつ食べちゃお。それからゆっくりと犯人探しに決まりってことで」
言い終わるとロゼは右手でマーボーカレーまんを掴むと、大きな口を開けてかぶりついた。
「ああっ、頭領つ……」
「食べちゃったよ……」
「どうやって残りを分けるんだよ」
ロゼがひとつ食べなかったところで状況は変わらないのだが、ついつい風の骨のメンバーの口から愚痴がこぼれ出てしまう。
そんな彼らを別の一人が悟ったような表情でなだめた。
「しょうがないよ。頭領はマーボーカレーまんには目がないんだから」
「違いない」
その言葉に仲間たちがうなづいて笑うと、ロゼは不服そうに口を尖らせた。
「ヒドいなあ、もう」
「それ頭領の言うことじゃないよ」
「ぶーー」
ロゼが頬を膨らませると、違うメンバーが当面の問題を口にした。
「でさ、これどうやって分けるの」
「それなら」
ロゼはぽんっと手を打つと、もうひとつマーボーカレーまんを手に取ってね二つに割り、フィルと同じ顔をした少年をそれぞれ見た。
「フィル、トル。あんたたち双子なんだし、二人で一人ってことでよろしく」
ロゼは双子にそれぞれ半分のマーボーカレーまんを手渡した。
「ええーーっ」
双子はまったく同じ表情で声をハモらせて不平を訴えたが、もはや彼らの味方はこの場には存在しなかった。
「はは、そりゃいい。お前たち引越しの準備もやってないし、それでいいよな」
「ち、ちょっと待って。それは頭領にエギーユたちのところに行くように言われたからじゃん」
「そうだよ。あたしたちだけ働いてないみたいな言い方はおかしいよ」
口々に双子に文句を言われたが、ロゼは視線を上にそらしてとぼけた。
「あれぇ、そうだっけ」
「そうだよっ」
「まあまあ。次は代わるから。今回は涙を呑んで引き受けてくれ」
抗議する双子とロゼの間に、彼らの中では年長の男が割って入ると、二人は不承不承うなづいた。
「頭領、ちゃんと犯人見つけてよ」
異口同音でそう言うと、双子は半分しかないマーボーカレーまんをかじった。
「わかってるって」
ロゼは双子に片目を瞑ってみせた。
「それでどう、スティング。そろそろここを出られそうかな」
「ああ。今日中には準備は整うだろう」
スティングと呼ばれた年長の男が答えると、ロゼは満足そうにうなづいた。
「了解。じゃあ出発は明日の早朝で。いいね、みんな」
「ああ」
「オッケー」
「いいんじゃない」
「わかった」
仲間たちは頭領の決定に口々に賛同すると、マーボーカレーまんを食べ終えた者からそれぞれの持ち場に散った。
「さて、あたしもちょっと行ってくるか」
そう呟いてアジトの奥に向かって行ったロゼの後をライラとデゼルはついて行った。
ロゼはアジトの奥の突き当たりに立つと、そこにある大きな仕掛け扉を見上げた。
「結局この向こうに何があるからわからずじまいか」
頭の後ろで両手を組んで半円の仕掛け扉を見上げるロゼの背中を眺めつつ、ライラがデゼルに尋ねた。
「あれはなんですの」
「扉らしい。あいつらの話ではな」
「らしい。ということは、デゼルさんもご存知ないんですのね」
「知る必要がない。俺も、あいつらも」
「そうおっしゃるんですのね」
「なにが言いたい」
ライラはいぶかるような表情で問うデゼルを、少し寂しそうな顔で振り返った。
「いいえ。ただこういう無駄を楽しむという気持ちがないのかと思っただけですわ」
「あのガキ共か……。こっちは世間知らずじゃねぇからな」
「そうでしたわね」
少し残念そうな顔でうなづいたライラにデゼルが問うた。
「えらくご執心だな。あの向こうに何があるのか、知ってるんじゃねぇのか」
「えっ、そ、そんなこと……」
「知ってるんだな。あの向こうに何がある」
「それは……私も行ったことは……」
ライラは狼狽えながらもはぐらかそうとしたが、デゼルに睨まれて観念したように溜め息をついて白状した。
「あの奥には……導師にまつわる遺跡があると聞きましたわ」
「チッ……。くだらねぇ」
デゼルに舌打ちされ、ライラはがっくりと肩を落とした。
「誰、そこにいるの」
彼らの前で扉を見上げていたロゼが、突然振り向いた。
反射的に身構えるデゼルとは対照的に、ライラは大輪の花が咲いたような笑顔をロゼに向けた。
しかし彼ら天族のそれは勘違いだったようで、ロゼの視線は二人の向こうを捉えていた。
「よお、俺だよ。仲間にそれはないだろう」
「あ……あれ、ジャミル。あんただったの」
「誰だと思ったんだよ」
「え、えーーと。あの……」
ロゼはジャミルから目をそらしてあらぬ方向を見た。
「なんか違う気配のヤツがいると思ったんだけどなあ……」
「違う気配のヤツって、俺たちの他に誰かいるのかよ」
ジャミルは両手を腰にあてて溜め息をついたが、すぐになにか思いついたらしく、右手でロゼを指差した。
「あ、頭領あれだろ」
「な、なにさ……」
戸惑うロゼにいたずらっぽい笑顔で、ジャミルはその名を口にした。
「オ、バ、ケ」
その単語を聞くや否や、ロゼはジャミルを突き飛ばした。
「オバケなんかいないっ」
ジャミルはよろよろと二、三歩後ずさってなんとか踏みとどまった。
「でも見えてたよな」
「しらない、しらないっ。恥ずかしいから言うなっ」
「顔を真っ赤にして握りしめた拳を振り回すロゼに、見かねたライラが声をかける。
「は、恥ずかしいことなんてありませんわ、ロゼさん」
「あいつには聞こえねえ。いい加減に学習しろ」
「……」
デゼルにたしなめられたライラは、頬を赤く染めて口を尖らせた。
天族二人の前で、ロゼは首を左右に振ると歩き始めた。
「あ、おい。どこに行くんだ」
「やっぱりあの扉の向こうに行くのはムリっぽいから、みんなの所に戻るわ」
そう言ってロゼはジャミルの脇をすり抜けると、ひらひらと右手を振った。
ジャミルはそんなロゼを見送ると、肩をすくめて彼女の後を追った。
「ほら、わかっただろう。そう簡単にあいつに俺たちは見えるようにならねぇよ」
「オバケ……とおっしゃいましたわね」
ライラはデゼルの言葉を遮った。
「それがどうした」
「ロゼさんはオバケを見たくないようですわね」
「だからなんだ」
「オバケとはもしかすると天族のことを指すのではありませんの」
「……なにが言いたい」
デゼルの声に怒気が混じったが、ライラは構わずに続けた。
「デゼルさん。なにか知っているんじゃありませんか」
「てめぇには関係ねぇ」
怒りをそのまま吐き捨てると、デゼルはライラから顔をそむけた。
ライラは露骨にオバケの話を避けようとするデゼルをじっと見つめたが、やがて諦めたように溜め息をついた。
「……まあ、いいですわ」
そしてライラはデゼルに見切りをつけると、扉に背を向けて歩き始めた。
「おい、どこに行きやがる」
「デゼルさんには教えません」
やや子供っぽい返しをして、そのまま歩いていくライラの行き先に見当がついたデゼルは声を荒げた。
「……おい、待て。てめぇまたやらかす気か」
ライラは雷に撃たれたように、肩を震わせて足を止めた。
「な……なんのことですの」
振り向かずにとぼけるライラに、デゼルは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした。
「チッ……。しらばっくれるんじゃねぇ。また盗み食いをするつもりだろうが」
「盗み食いだなんて……人聞きが悪いですわ」
ライラの声がうわずっている。明らかに図星だったようだ。
デゼルは左手で帽子を押さえて首を横に振った。
「本当のことだろうが。現にてめぇの足は、厨房に向いているじゃねぇか」
「これはっ……」
思わず振り向いたライラに、デゼルは釘をさすように言った。
「あいつらを甘く見るなよ」
「どういうことですの」
「ああ見えてあいつらはプロだ」
「でもデゼルさんも私も見えていませんわ。いくらその道に精通していても、見えなければどうしようもないと思いますけど……」
「……勝手にしろっ」
吐き捨てるように言うと、デゼルはそっぽを向いて黙り込んだ。
ライラは肩をすくめると、再び厨房に歩を進めた。
大広間を横切り、美味しそうな匂いに引っ張られるように、ライラは厨房に近づくと中を覗き込んだ。
厨房では黒ずくめの男が一人で忙しそうに動き回っているのが見える。彼は人数分の木の皿を抱えると、配膳台の上に並べた。
「ちょっと熱すぎるかな。やっぱり先によそって少し冷まそうか」
そう言うと男は調理台から大きな鍋を持ってきて配膳台に置くと、鍋からおたまで中のシチューをすくい上げて木の皿によそっていった。
木の皿から次々に立ち昇る湯気に混じった匂いに唾液腺を刺激され、ライラは思わず唾を飲み込んだ。
「よし、準備もできたし、みんなを呼びに行くか」
男は両手を腰にあてて満足そうにうなづくと、厨房を出て仲間の元へ向かった。
ライラは男の背中を見送ると、舌なめずりをして厨房に入った。