「……おい」
不意に後ろから声をかけられてスレイが振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていた。
「えっと……オレになにか用ですか」
スレイが戸惑いながら尋ねると、男は不機嫌そうに答えた。
「ああそうだ。お前に用がある。それとそっちの女にもな」
男はアリーシャを睨みつけた。
不意に後ろから声をかけられてスレイが振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていた。
「えっと……オレになにか用ですか」
スレイが戸惑いながら尋ねると、男は不機嫌そうに答えた。
「ああそうだ。お前に用がある。それとそっちの女にもな」
男はアリーシャを睨みつけた。
アリーシャは自分でも気づかないうちに身構えていた。
なぜ見知らぬ男が自分たちに敵意を剥きだしにするのか、心当たりがないのだが本能が危険を感じ取ったのだろう。
戸惑いながらも身構えるスレイとアリーシャの様子を見て、男は喉の奥でくっくっと笑った。
「なるほど。俺サマが見えてないってワケか……。こいつは愉快だぜ」
黒ずくめの男は両手を広げた。その掌にはどうやったのか青白い炎が灯っている。
「スレイ、アリーシャ。そいつはあのキツネ男だっ」
「ミクリオ様、それは本当ですかっ」
「アリーシャ、ミクリオはなんて……」
「あの男はキツネ男だと言っておられる」
「ホントか、ミクリオッ」
「僕が間違えるはずがないだろう。とおっしゃっているよ」
「くっ……」
スレイはバスケットを下ろすとその前に立ち、儀礼剣を抜いて構えた。
「マズいときに見つかったわね」
「ああ、最悪だ」
エドナはふと、スレイたちを遠まきに見ている兵士たちに視線を向けた。
「見張りはなにしてるのよ」
「高みの見物じゃないか」
「……仕事しなさいよ、まったく」
「死んだら儲けものだろうしね」
エドナは溜め息をつくと傘を構えた。
「丸焼きにしてやるぜ」
キツネ男は邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりをすると、右手にまとった炎をスレイに突き出した。
「うわっ」
スレイは叫び声をあげて左肩を引いた。キツネ男の右手は宙を掴み、その動きに少し遅れて炎が揺らいだ。
しかしキツネ男は動じることなく、すかさずスレイの隣りにいるアリーシャに左手の炎を放った。
「危ないっ。ツインフロウッ」
その声とともに水の流れが、アリーシャに襲いかかろうとしていた炎を打ち消した。
「……っ。ミクリオ様、ありがとうございます」
「チッ。相変わらずこざかしい奴だ。これでも食らえっ」
キツネ男は吐き捨てると、いくつもの火の玉を乱れ打った。
キツネ男の手を離れた火の玉は、まるで意思を持っているかのようにスレイたちの周囲を舞っている。
「その炎に触れちゃダメよ」
「承知しました、エドナ様。スレイ、その炎に触れてはならないそうだ」
「わかったよ。ありがとうエドナ、アリーシャ」
スレイは炎をかわしながら応じた。
アリーシャも巧みに身を翻し、ミクリオは氷の粒を宙に留まらせて、火の玉と相殺させていく。
エドナはというと、傘を広げて回転させて、火の玉を散らしている。
「チッ……ちょこまかとうっとうしい」
忌まわしげに舌打ちをすると、キツネ男はナイフを右手に握って、スレイに襲いかかった。
「くっ……」
スレイはとっさに儀礼剣でナイフを弾いたが、二つの刃物がぶつかった際の、金属のこすれ合う耳障りな音に、少年は顔をしかめた。
「いつまでも俺の邪魔をするんじゃねえっ」
「まだアリーシャをつけ狙うのかっ」
再び襲いくるキツネ男の刃を、スレイはもう一度受け流した。
「……なんて力だ」
「これは仕事でもあるんだ。暗殺ギルド"風の骨"のな」
舌なめずりしながらキツネ男が告げると、スレイとミクリオの表情が変わった。
「なんだって」
「バカな。風の骨は依頼を破棄していたぞ」
ミクリオの言葉にキツネ男は声を荒げた。
「なんだとっ。いったい誰がそんな勝手なことを……」
「頭領と呼ばれてた女がそう言っていた。お前は知らなかったのか」
「そんな……嘘だっ。確かに頭領は依頼を受けていた。嘘をつくんじゃねえっ」
叫び声をあげてキツネ男はミクリオに炎の玉を放った。
「ミクリオ様」
アリーシャの悲鳴に重なるようにして、一瞬キツネ男の憑魔の姿と、彼の放った炎の先にいるミクリオとエドナがスレイの瞳に映った。
しかしその直後に激しい痛みを眼球に覚えて、スレイは右手で目を押さえた。
「スレイ、大丈夫かっ」
そのままうずくまるスレイを気づかう、アリーシャの呼びかけを聞いたキツネ男の動きが、ほんの少しの間止まった。
その隙を見逃さずにエドナは術でキツネ男を押さえつける。
「エアプレッシャー」
「ぐっ……」
地面に伏すことを強いられたキツネ男に、追い打ちをかけようとミクリオが詠唱を始めたとき、急に辺りに霧が立ちこめてきた。
「ここまでだ。キツネ、退くぞ」
「ま、待ってくれ。俺はまだやれるっ……」
いつ現れたのか、倒れたキツネ男の傍には黒い少女が立っていた。
薄布の服も、ブーツも髪も黒いなかで、赤い花びらの髪飾りだけが彼女を彩っている。
少女はうずくまるスレイと彼の仲間を一瞥すると、冷めた目でキツネ男を見下ろした。
「くっ……」
屈辱の呻き声を残してキツネ男と黒い少女は、霧とともにスレイたちの前からかき消えた。
霧が晴れるのを待たずに、アリーシャはスレイの傍にしゃがみこんだ。
「大丈夫か、スレイ。頭が痛むのか」
天族二人がスレイに駆け寄り、姫騎士に続いてスレイに声をかける。
「どうした、スレイ」
「具合が悪いの」
自分の周囲に集まった三人の仲間を、スレイは辛そうな表情で見上げた。
「うん、ありがとうみんな。少しよくなってきたよ」
「……え」
「スレイ……」
「もしかして、ワタシたちも見えるの」
三人の反応をスレイはきょとんとした顔で眺めていたが、やがて意味がわかったのか、雲が晴れたような笑顔を見せた。
「ミクリオ、エドナ。見える、オレ二人が見えるよ」
はじけるような笑顔で、スレイは勢いよく立ちあがった。
「……いてててて」
だがすぐに頭を抱えて背中を丸めるスレイの顔を、アリーシャが心配そうに覗きこんだ。
「大丈夫か」
「しょうがない奴だな。少し落ち着いたらどうだい」
呆れたように肩をすくめるミクリオに、スレイは歯を見せた。
「今まで助けてくれたんだろう。ありがとな」
嬉しそうにミクリオに礼を言うスレイの頭を、後ろからエドナが傘でぽんっと叩いた。
「誰か忘れていないかしら」
スレイは右手を頭に乗せて振り向いた。
「もちろんエドナも。みんなありがとう」
スレイの口からお礼を聞いたエドナが、よろしいとばかりにうなづくと、スレイたちは声をあげて笑った。
「さあ、急いで清水を汲みにいこう。今の襲撃でかなりの時間を費やしてしまった」
「そうだな。急ごう」
「日暮れまでには着かなくちゃね」
スレイは奇跡的に無事だったバスケットを拾うと、天族二人にうなづいてみせた。
「うん、わかった。行こうアリーシャ」
「ああ」
スレイが差し出した右手に、アリーシャは嬉しそうな顔で左手を重ねた。
そうして今度は四人そろって、泉を目指して歩き始めた。
太陽が真上を少し過ぎた頃、スレイたちは泉へとつながる道の入り口にたどり着いた。
「あ、あった。ここを通ったんだよな」
道があるのを隠すように茂った木や草をかき分け、スレイは登山道に入っていった。
「さっきまでとはまるで別人だね」
「そうね。はしゃいでいるわね」
呆れた口調で嬉しそうな顔をして、二人の天族はスレイの後ろ姿を眺めた。
「そうですね。スレイもきっとお二人と同じ時間を共有できることが嬉しいんだと思いますよ」
そういうアリーシャもスレイたちと再会してから初めて見るような清々しい顔をしている。
ミクリオはしょうがないとばかりに息を吐いた。
「そうだねアリーシャ」
「おーい、なにしてんだよ、みんな。日が暮れちゃうよ」
スレイが登山道から手を振っている姿を木々の間に見つけて、アリーシャとミクリオは手を振り返した。
「ああ、すぐ行くよ」
木々の向こうで無邪気に手を振るスレイを眺めながら、エドナは肩に傘をかついで嘲るような顔で呟いた。
「単純よね」
「エドナ様は単純な者はお嫌いなのですか」
心配そうに尋ねるアリーシャに、エドナは少し表情をやわらげて答えた。
「単純なあの子は嫌いじゃないわよ」
アリーシャはエドナの口調の変化に気づいたのか、ほっと胸をなでおろした。
「さあ行こうか。スレイが痺れを切らして待っている」
ミクリオに促されて、エドナとアリーシャは登山道に入った。
「やっときた。みんな早くっ」
なかなか歩いてこない仲間たちをせっつきながら、スレイはどんどん鬱蒼とした登山道を進んでいく。
「スレイ、そんなに急ぐと前みたいに途中でバテるよ」
「へーき、へーき。心配性だな、ミクリオは」
「……誰のせいだと思っているんだ」
草をかき分けて登山道を進む、親友の背中を眺めながらミクリオは溜め息をついた。
「お守り役も大変ね、ミボ」
「ぜんぜん成長しなくて参るよ」
「アナタもボウヤですものね」
「なっ……」
くすくす笑うエドナと、絶句するミクリオに挟まれて、アリーシャはどうしていいかわからず、瞬きを繰り返しながら左右を交互に見ている。
「エドナ様、ミクリオ様はもく充分大人だと思いますが……」
「あら、アリーシャはスレイだけがまだ子供だと思っているのかしら」
「そ、それは……」
可哀想なぐらいに狼狽えるアリーシャを、エドナが楽しそうに眺めているのを見かねて、ミクリオが口を挟んだ。
「アリーシャ、本気にしなくていいよ。エドナは君の反応を見て楽しんでいるんだから」
「……チッ」
「そこで、なんで舌打ちをするんだ」
「するわよ。せっかくかわいいアリーシャを堪能していたのに、ミボが邪魔をするんですもの」
なぜ見知らぬ男が自分たちに敵意を剥きだしにするのか、心当たりがないのだが本能が危険を感じ取ったのだろう。
戸惑いながらも身構えるスレイとアリーシャの様子を見て、男は喉の奥でくっくっと笑った。
「なるほど。俺サマが見えてないってワケか……。こいつは愉快だぜ」
黒ずくめの男は両手を広げた。その掌にはどうやったのか青白い炎が灯っている。
「スレイ、アリーシャ。そいつはあのキツネ男だっ」
「ミクリオ様、それは本当ですかっ」
「アリーシャ、ミクリオはなんて……」
「あの男はキツネ男だと言っておられる」
「ホントか、ミクリオッ」
「僕が間違えるはずがないだろう。とおっしゃっているよ」
「くっ……」
スレイはバスケットを下ろすとその前に立ち、儀礼剣を抜いて構えた。
「マズいときに見つかったわね」
「ああ、最悪だ」
エドナはふと、スレイたちを遠まきに見ている兵士たちに視線を向けた。
「見張りはなにしてるのよ」
「高みの見物じゃないか」
「……仕事しなさいよ、まったく」
「死んだら儲けものだろうしね」
エドナは溜め息をつくと傘を構えた。
「丸焼きにしてやるぜ」
キツネ男は邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりをすると、右手にまとった炎をスレイに突き出した。
「うわっ」
スレイは叫び声をあげて左肩を引いた。キツネ男の右手は宙を掴み、その動きに少し遅れて炎が揺らいだ。
しかしキツネ男は動じることなく、すかさずスレイの隣りにいるアリーシャに左手の炎を放った。
「危ないっ。ツインフロウッ」
その声とともに水の流れが、アリーシャに襲いかかろうとしていた炎を打ち消した。
「……っ。ミクリオ様、ありがとうございます」
「チッ。相変わらずこざかしい奴だ。これでも食らえっ」
キツネ男は吐き捨てると、いくつもの火の玉を乱れ打った。
キツネ男の手を離れた火の玉は、まるで意思を持っているかのようにスレイたちの周囲を舞っている。
「その炎に触れちゃダメよ」
「承知しました、エドナ様。スレイ、その炎に触れてはならないそうだ」
「わかったよ。ありがとうエドナ、アリーシャ」
スレイは炎をかわしながら応じた。
アリーシャも巧みに身を翻し、ミクリオは氷の粒を宙に留まらせて、火の玉と相殺させていく。
エドナはというと、傘を広げて回転させて、火の玉を散らしている。
「チッ……ちょこまかとうっとうしい」
忌まわしげに舌打ちをすると、キツネ男はナイフを右手に握って、スレイに襲いかかった。
「くっ……」
スレイはとっさに儀礼剣でナイフを弾いたが、二つの刃物がぶつかった際の、金属のこすれ合う耳障りな音に、少年は顔をしかめた。
「いつまでも俺の邪魔をするんじゃねえっ」
「まだアリーシャをつけ狙うのかっ」
再び襲いくるキツネ男の刃を、スレイはもう一度受け流した。
「……なんて力だ」
「これは仕事でもあるんだ。暗殺ギルド"風の骨"のな」
舌なめずりしながらキツネ男が告げると、スレイとミクリオの表情が変わった。
「なんだって」
「バカな。風の骨は依頼を破棄していたぞ」
ミクリオの言葉にキツネ男は声を荒げた。
「なんだとっ。いったい誰がそんな勝手なことを……」
「頭領と呼ばれてた女がそう言っていた。お前は知らなかったのか」
「そんな……嘘だっ。確かに頭領は依頼を受けていた。嘘をつくんじゃねえっ」
叫び声をあげてキツネ男はミクリオに炎の玉を放った。
「ミクリオ様」
アリーシャの悲鳴に重なるようにして、一瞬キツネ男の憑魔の姿と、彼の放った炎の先にいるミクリオとエドナがスレイの瞳に映った。
しかしその直後に激しい痛みを眼球に覚えて、スレイは右手で目を押さえた。
「スレイ、大丈夫かっ」
そのままうずくまるスレイを気づかう、アリーシャの呼びかけを聞いたキツネ男の動きが、ほんの少しの間止まった。
その隙を見逃さずにエドナは術でキツネ男を押さえつける。
「エアプレッシャー」
「ぐっ……」
地面に伏すことを強いられたキツネ男に、追い打ちをかけようとミクリオが詠唱を始めたとき、急に辺りに霧が立ちこめてきた。
「ここまでだ。キツネ、退くぞ」
「ま、待ってくれ。俺はまだやれるっ……」
いつ現れたのか、倒れたキツネ男の傍には黒い少女が立っていた。
薄布の服も、ブーツも髪も黒いなかで、赤い花びらの髪飾りだけが彼女を彩っている。
少女はうずくまるスレイと彼の仲間を一瞥すると、冷めた目でキツネ男を見下ろした。
「くっ……」
屈辱の呻き声を残してキツネ男と黒い少女は、霧とともにスレイたちの前からかき消えた。
霧が晴れるのを待たずに、アリーシャはスレイの傍にしゃがみこんだ。
「大丈夫か、スレイ。頭が痛むのか」
天族二人がスレイに駆け寄り、姫騎士に続いてスレイに声をかける。
「どうした、スレイ」
「具合が悪いの」
自分の周囲に集まった三人の仲間を、スレイは辛そうな表情で見上げた。
「うん、ありがとうみんな。少しよくなってきたよ」
「……え」
「スレイ……」
「もしかして、ワタシたちも見えるの」
三人の反応をスレイはきょとんとした顔で眺めていたが、やがて意味がわかったのか、雲が晴れたような笑顔を見せた。
「ミクリオ、エドナ。見える、オレ二人が見えるよ」
はじけるような笑顔で、スレイは勢いよく立ちあがった。
「……いてててて」
だがすぐに頭を抱えて背中を丸めるスレイの顔を、アリーシャが心配そうに覗きこんだ。
「大丈夫か」
「しょうがない奴だな。少し落ち着いたらどうだい」
呆れたように肩をすくめるミクリオに、スレイは歯を見せた。
「今まで助けてくれたんだろう。ありがとな」
嬉しそうにミクリオに礼を言うスレイの頭を、後ろからエドナが傘でぽんっと叩いた。
「誰か忘れていないかしら」
スレイは右手を頭に乗せて振り向いた。
「もちろんエドナも。みんなありがとう」
スレイの口からお礼を聞いたエドナが、よろしいとばかりにうなづくと、スレイたちは声をあげて笑った。
「さあ、急いで清水を汲みにいこう。今の襲撃でかなりの時間を費やしてしまった」
「そうだな。急ごう」
「日暮れまでには着かなくちゃね」
スレイは奇跡的に無事だったバスケットを拾うと、天族二人にうなづいてみせた。
「うん、わかった。行こうアリーシャ」
「ああ」
スレイが差し出した右手に、アリーシャは嬉しそうな顔で左手を重ねた。
そうして今度は四人そろって、泉を目指して歩き始めた。
太陽が真上を少し過ぎた頃、スレイたちは泉へとつながる道の入り口にたどり着いた。
「あ、あった。ここを通ったんだよな」
道があるのを隠すように茂った木や草をかき分け、スレイは登山道に入っていった。
「さっきまでとはまるで別人だね」
「そうね。はしゃいでいるわね」
呆れた口調で嬉しそうな顔をして、二人の天族はスレイの後ろ姿を眺めた。
「そうですね。スレイもきっとお二人と同じ時間を共有できることが嬉しいんだと思いますよ」
そういうアリーシャもスレイたちと再会してから初めて見るような清々しい顔をしている。
ミクリオはしょうがないとばかりに息を吐いた。
「そうだねアリーシャ」
「おーい、なにしてんだよ、みんな。日が暮れちゃうよ」
スレイが登山道から手を振っている姿を木々の間に見つけて、アリーシャとミクリオは手を振り返した。
「ああ、すぐ行くよ」
木々の向こうで無邪気に手を振るスレイを眺めながら、エドナは肩に傘をかついで嘲るような顔で呟いた。
「単純よね」
「エドナ様は単純な者はお嫌いなのですか」
心配そうに尋ねるアリーシャに、エドナは少し表情をやわらげて答えた。
「単純なあの子は嫌いじゃないわよ」
アリーシャはエドナの口調の変化に気づいたのか、ほっと胸をなでおろした。
「さあ行こうか。スレイが痺れを切らして待っている」
ミクリオに促されて、エドナとアリーシャは登山道に入った。
「やっときた。みんな早くっ」
なかなか歩いてこない仲間たちをせっつきながら、スレイはどんどん鬱蒼とした登山道を進んでいく。
「スレイ、そんなに急ぐと前みたいに途中でバテるよ」
「へーき、へーき。心配性だな、ミクリオは」
「……誰のせいだと思っているんだ」
草をかき分けて登山道を進む、親友の背中を眺めながらミクリオは溜め息をついた。
「お守り役も大変ね、ミボ」
「ぜんぜん成長しなくて参るよ」
「アナタもボウヤですものね」
「なっ……」
くすくす笑うエドナと、絶句するミクリオに挟まれて、アリーシャはどうしていいかわからず、瞬きを繰り返しながら左右を交互に見ている。
「エドナ様、ミクリオ様はもく充分大人だと思いますが……」
「あら、アリーシャはスレイだけがまだ子供だと思っているのかしら」
「そ、それは……」
可哀想なぐらいに狼狽えるアリーシャを、エドナが楽しそうに眺めているのを見かねて、ミクリオが口を挟んだ。
「アリーシャ、本気にしなくていいよ。エドナは君の反応を見て楽しんでいるんだから」
「……チッ」
「そこで、なんで舌打ちをするんだ」
「するわよ。せっかくかわいいアリーシャを堪能していたのに、ミボが邪魔をするんですもの」
不服そうに呟くと、エドナは狭い山道で傘をさしてミクリオに背を向けた。