3分読書、読んで頂き、ありがとうございます。

これまで書いた作品も、読んで頂ければと思います。

地球の選択 - 二つの未来 

では、「寺院の古時計」を読んでみてください。

爆 笑爆 笑爆 笑


夜は深く、雨は降り続けていた。遠い親戚の法事のため、山奥にある古びた寺院に足を運んだ男、高橋は、門をくぐるとすぐに、異様な気配を感じ取った。目の前に現れたのは、奇妙に鳴り続ける古時計だった。その針は、時間を示すどころか、混沌とした動きを見せている。高橋は不安を感じながらも、法事のために進むしかなかった。


法事が行われる本堂に入ると、外の雨音さえ遮るような静寂が支配していた。高橋はその場に足を踏み入れた瞬間、心臓の鼓動を自分の耳で聞くことができるほどの静けさに包まれた。古時計の不気味な音は完全に消え去り、その代わりにこの奇妙な静寂が彼の不安を煽った。本堂の空気は重く、一歩一歩進むごとに彼の体が鉛のように重く感じられた。

周りを見渡すと、参列者たちも同じように感じているようだった。彼らの顔には、この場にふさわしい落ち着きや悲しみではなく、言葉にできない緊張が浮かんでいる。ある者は唇をかみしめ、ある者は遠くを見つめるが、その目は虚空を見ているかのようだった。参列者たちの間には、この寺院、この法事が何か不吉なものを秘めているという無言の了解が流れている。

高橋は僧侶たちの準備が整うのを見守りながら、この静寂が何を意味しているのか、そしてなぜ自分を含めた参列者全員がこのような重苦しい雰囲気の中にいるのか、その理由を探ろうとした。しかし、考えれば考えるほど、彼の中の不安は大きくなるばかりだった。そして、読経が始まると、その声だけが不気味な静寂を破り、本堂に響き渡った。

読経の声は、通常ならば心を落ち着け、故人への哀悼の気持ちを新たにするものだが、この夜、この寺院では、それがさらに高橋の不安を煽る。読経が進むにつれ、彼は何かがおかしいと感じ始めた。この法事、この寺院には、見えない何かが潜んでいる――それは、ただの古時計の音や静けさ以上のものだった。

高橋はこの不安を振り払おうとしたが、できることは何もなかった。静寂の中で、彼はただ、これから何が起こるのかを恐れるばかりだった。

法事は厳かに進行する。しかし、高橋の心は穏やかではいられなかった。読経の声の裏で、時計の針が不規則に動く音が、彼の耳にだけ響いているように感じられた。参列者たちも何かを感じ取っているようで、時折、お互いに不安げな視線を交わしていた。

法事が終わり、一息つこうとしたその時、突如として全ての灯りが消え、寺院は真っ暗になった。そして、再び古時計が高橋の目の前に現れ、今度は地下へと続く扉を示した。好奇心に駆られ、恐怖を押し殺して扉を開けた高橋は、地下へと降りていった。

地下の部屋に足を踏み入れた瞬間、高橋の目に飛び込んできたのは、想像を絶する恐怖の光景だった。時計の歯車と人間の骨が無秩序に散乱し、その中央には巨大な時計の像が、まるでこの場を支配する王のように鎮座していた。時計の像の目は、深淵からの光を放ち、高橋をじっと見つめているようだった。その目は、言葉にできない恐怖を彼の心に植え付けた。


「ようこそ、我々の永遠へ」という声は、どこからともなく響き渡り、その声の主が時計の像であることを高橋は直感した。寺院の僧侶たちが一斉に高橋の方を向き、彼らの目には冷たい決意が宿っていた。彼らは古来からこの地に伝わる「時の神」を崇拝し、その神に人々を犠牲にしてきた。犠牲者たちの骨は、時の神への捧げ物としてこの地下の部屋に蓄積されていたのだ。

高橋は恐怖で身動きが取れなくなり、自らの運命を受け入れざるを得なかった。しかし、彼の心の奥底では、この非情な儀式に終止符を打つ方法を模索していた。時計の像の目が一瞬輝きを増すと、高橋はふと、古時計の鳴り始めた瞬間に感じた不吉な予感と、法事で感じた不安がこの瞬間につながっていることに気づいた。

「これが、あの古時計が警告していたことか…」高橋は思った。彼は深呼吸をして、恐怖を抑え込みながら、僧侶たちの間を歩き始めた。彼の目は、時計の像に固定されていた。その時、彼の内に湧き上がる一筋の希望が、この恐ろしい運命を変える鍵かもしれないという直感があった。

僧侶たちが高橋を取り囲む中、時計の像の目が突如として彼に向けられ、高橋はその瞬間を逃さず、心の中で強く願った。「この呪いを断ち切る!」と。すると、不可解なことに、時計の像の目の光が急に弱まり、周りの空気が変わり始めた。歯車と骨が散乱する地下室に、一筋の光が差し込み、高橋はその光を追って外へと駆け出した。

彼が地下室を抜け出たとき、背後で何かが崩れ落ちる音がした。振り返ると、寺院が崩れ始め、時計の像もその姿を消していた。高橋はこの寺院の恐ろしい秘密を終わらせ、時の呪いから逃れたのだった。夜が明け、彼は新たな人生を歩み始めることを誓った。その日から、高橋は時間というものを全く違う視点で見るようになった。時計の針が刻む一瞬一瞬が、いかに貴重で、かけがえのないものかを深く理解したのだ。

高橋が寺院から逃れた後、その地にはもう古い寺院は存在しなかった。かわりに、そこには新緑が茂る小さな丘が広がっていた。地下室での出来事は、まるで夢のように思えたが、彼の心に残る深い恐怖と教訓は、決して忘れることができない現実だった。

寺院の体験は、高橋にとって人生を変える出来事となった。時間というものを当たり前と思わず、一瞬一瞬を大切に生きることの重要性を、彼は痛感した。そして、どんなに恐ろしい運命に直面しても、希望を持ち続ける勇気が、それを乗り越える力になることを学んだ。

この物語は、恐怖を超えた先にある希望と、時間の価値について語りかける。高橋が寺院の呪いを断ち切り、新たな人生を歩み始めたように、私たちも自身の人生において直面する困難や恐怖に打ち勝ち、前向きな未来を切り開くことができるのだ。

夜の雷鳴が遠ざかり、新しい朝が訪れる。寺院の古時計は、時間の流れの中で私たちが忘れがちな、生きることの本質と、希望を見出す力の物語である。