思い出そう、と思った。
取り戻そう、と思った。
サーキット走行にワクワクしていた、過去の自分を。
まずは、速いクラスの走りを見て、それを自分の走りに取り入れようと。
2回目の走行枠へ。
1コーナーが上手くいかない。左コーナーが上手くいかない。ヘアピンが上手くいかない。最終コーナーが上手くいかない。1周を上手くまとめることができない。
ミスと言えないぐらいのミスが出る。
というより、コーナーリング速度が上げられない。
こんなもんじゃない。
もっとバンク角を深くしたい。もっとスロットルを開けたい。もっとブレーキを深くしたい。
だが、右手の握力が無い。腕に力が入る。体が固まっていく。
タイヤや車体から伝わる限界はまだまだ先。もっと挑戦できるはずなのだが。
チェッカーが振られ、ピットへ。
バイクを停め、ヘルメットを脱ぐと、意外なほど汗をかいていることに気付いた。
自分として頑張ってはいるのだろう。それがラップタイムに直結していないだけで。
ピットでは話す相手もいない。こういう時は、あーでもないこーでもないとしゃべりたいものだが。
隣のライダーさんは彼女さんと談笑中。友達はもちろん、家族連れで来ているライダーさんもいる。少しうらやましい。
孤独は寂しい。
少し経つとラップタイムが張り出された。
2年前のベストから1秒以上も遅い。
大きな1秒だ。今日の状態で、これを更新していくイメージが湧かない。
3回目の走行前に、小雨がパラついた。
早えーよ。と心の中でつぶやいて、3回目スタート。
路面はそれほど濡れていないものの、気持ちがくじける。私は雨のライディングに全く自信が無い。
そんな私と心意気が違うのか、参加が少ないはずのクラスなのに、ビュンビュン抜かれる。
彼らはまだラップタイム更新を目指しているのだろう。
しかし弱気だった私も、路面が乾いてきたのを実感して、遅まきながらスピードを上げていく。
抜かされた前走のバイクを追いかけると、2~3周ほどでかなり追いついた。
次の周回で抜けそうだ。
ストレートはこっちが速い。1コーナーでインに突っ込む。
握力の無い右手だが、その1回のブレーキングに集中する。そして抜いた後のラインが膨らまないように。
次の週がチェッカーだった。
私なりには少し戦えた。
ピット右隣には珍しいTRX850。
クラスを変更されて、同じ組で走っていたようだ。
少ない自走組ということもあり、勝手にシンパシーを感じている。
それぞれの戦いがある。
昼休憩の時間に体験走行がある。
お子様も走る。かわいい。
ここで雨が強まった。
が、スケジュールはそのまま、レースが始まった。
濡れた路面にみんな深くバンクして突っ込んでいく。すごいな。
午後はダメっぽい。路面は完全ウェット。
速いクラスの枠が始まったが、誰もコースに出て行かない。逆に1台、2台と出て行くと注目の的。
コースサイドに傘が並ぶ。
他のクラスではバイクを片付ける人も出てきた。サーキットを後にする人も。
私の最終4枠目はどうだろうか。
路面はウエットだが、乾きつつある。ピットから空ばかり見ている。
走れるかもしれないが、ラップタイムとの勝負は終わった。