旅の2日目あたりでイメージしていたのは、山陰の山間を通って秋吉台まで行き、帰りは広島岡山の山陽側で、全行程海を見ずに、というルート。

でも気が変わった。

帰路も山陰にする。

「陽」はダメだが、海は見てもいい、と自分に課したルールを変更する。

心の変化こそが、旅に出た理由なのかもしれない。

 

そうと決まれば、さっそく日本海を目指す。

ダム湖沿い、古い温泉旅館、低い山と細い川の、これといって特徴のない中国地方の風景。非電化単線の山陰本線の踏切を渡って、湯谷湾。

曇り空の日本海はうらぶれた雰囲気で、「陰」のイメージ。

突き出た半島は木が生い茂り、最後は覆いかぶさるような細い道になり、キャンプ場のある岬に出た。

川尻岬。

ツーリングマップルには「本州最西北端の岬」と書いてある。西北とは分かりにくいが、果ての感じはある。

風が強く、高波がしぶきを上げている。

岬の先端への道はロープでふさがれていた。そうでなくても、今日の風では怖いほど。

暗い海に、暗い空。海鳥が舞う。悪くない。

 

そのまま狭い険道で半島巡り。森と棚田を抜けて、次の目的地。

元乃隅稲成神社。

海に向かう階段の参道に、赤い鳥居がずらっと並ぶ。なかなか絶景。

しかし、鳥居の損傷がひどいという理由で、通行禁止になっていた。

まぁ、人でごった返すような観光地じゃないのが逆に救いか。悪くない。

 

断崖の急坂を下りて、暗い漁港へ。

暗さを良しとする今の心情だが、小さな漁村はいかにも陰として、生活には不便だろうと思う。

旅に出るとこういう場所を走ることが多く、その度に思うのだが、何でここに暮らしているのだろう、と。

それでも生きていく、という感じか。悪くない。

 

海沿いのR191を行き、萩へ。

夕方が近づき、土産を買うなら最後のタイミングになる。

道の駅「萩しーまーと」

が、休館日。おおう、呪われてるな。

 

まぁ土産はいい。1日の行程を終えるタイミングでもあるので、風呂探しも。

さいわい、次の道の駅「阿武町」は、温泉併設らしい。

で、到着すると、温泉が定休日。うーむ、呪いがすごいな。

 

海沿いの快走路を走っていると、横を走る山陰本線に国鉄色のキハ40が。

小さな駅に着いて、高校生を下ろしているのを横目に、先回りしたら一緒に写真を撮れるかも、と。

道路脇にクルマを停めると、タタンタタン、とやってきた。

狙い撃ちの1枚。でもクルマの主張が強すぎたな、と反省。

 

しかし、またしても先回りのチャンスが。

どこか良い場所は、とにわかに撮り鉄の熱が高まる。

小さな駐車スペースは、線路と海を見下ろす、ちょっとした高台。

そこに先ほど追い抜いたキハがやってきて、狙い撃ち。

なかなか良いタイミングと構図で撮れたのでは。追っかけ撮り鉄は、一発勝負の緊張感が良い。

 

オーディオからVAMPSが流れてきた。

すでにL’Arc~en~Cielで成功していたHYDEだが、VAMPSでは自分のやりたかったロックを作っていると言っていた。それが色濃く出た、ヘビーでハードな楽曲が続く。

やっぱり好きなことをやるしかない。

自分らしくやるしかない。

 

道の駅「ゆとりパークたまがわ」

ここをキャンプ地とする。

すぐ近くの田万川温泉は立派な施設だが、貸し切り状態。心に溜まった澱を流す。

夕食は隣のコンビニで、今日も酒とツマミを。

今日学んだのは、それでも生きていく、ということ。

津和野は白壁と掘割が有名な観光地だが、今の私には必要ない。

国道9号で山口県に入る。

天気は暗い曇りから明るい曇りに。気温は20℃を超え、路面も乾いた。

R9は山陰の大動脈。京都から550km。ここまで来ると、もう1日では帰れない。

小さな盆地を走ると、廃墟になった家が目につく。自然の力で壊れるままにされる様は、どこか北海道を想起させる。

長閑な田舎、を少し超えた、寂しい風景。

隣を走るJR山口線に、国鉄色のキハ40単行が行く。

 

道の駅「長門峡」

ここは土産売り場に精肉店が入っている。

まだ11時過ぎだが、レストランが開いていたので、田舎を応援するような気持ちもあり、ここで昼食にする。

1日10食限定の和牛ラーメンに興味が湧いたが、なぜか売り切れ。まさか開店20分で完売したというのだろうか。

ドラフト外れ1位の肉うどん。うまいけど、ドラ1が欲しかったな。

滋賀県の天気予報を見る。1時間に40ミリの猛烈な雨とか。

しかし今の私にできることは何も無い。

 

西へ向かう。

山口県の天候は回復傾向。一瞬晴れた。止まない雨は無い、というやつ。

 

秋吉台。

今回の旅の目的地と言ってもいい。

中国地方といえば、ここ。とイメージしていた。

木の無い丘陵地に石灰岩が露出する、荒涼とした風景。

出発前の心の中を映し出した風景というか。

 

有名観光地なので、バスやクルマがバンバン走っているものだと思っていたが、予想に反して、ほとんど誰も来ない。

ならば、とクルマを停めて、写真を撮る。

一応、見通しの良さそうな場所を選んで。

 

前回、RX-8でここに来たのは、22年1月だった。

草木が茶色に枯れ、石灰岩の露出も多く、カルスト地形がよく分かった。

今日は緑に覆われて、逆に生命の息吹を感じるというか。

曇り空なことが、逆に雰囲気を保ってくれている。

晴天だったら、爽やかに感じて、逆に興ざめだったかも。

 

旅3日目にして、初めてバイクとすれ違った。郵便屋さん以外では初めて。

「GSX1300R Hayabusa」縁があるな。

バイクは道や天候など、条件を選ぶ乗り物。

こうやって信号が無く、カーブが続くような道が最高。そして今日はもう雨の心配は無い。

BRZも道を選ぶ乗り物と言っていいかもしれない。

人や荷物をたくさん積めて移動が楽なクルマは、運転が楽しくないと断言していい。

BRZは運転が楽しいクルマだが、実用性に欠ける。使い方が限定される。

でもスイートスポットがあるというだけで、飽きずに運転を続けられる。

だからこそ、一般道で秋吉台くんだりまで来れるのだ。

 

若干の燃え尽きとともに、次のルートを考える。

ここまで来てしまうと、明日帰るのはもう無理。しかし帰宅のリミットは明後日の夜なので、もう少し足を延ばせる。

もう少し西へ、と思い、道の駅「蛍街道西ノ市」へ。

道の駅ばかり目指してしまうのは、バイク乗りの性。

この道の駅は前回も来た。日帰り温泉が併設されているのも魅力。一瞬入ろうかとも思ったが、行動を終えるタイミングの方が望ましい。

ここに来たのは、名前に「西」が入っていたから。

ただひたすらに西へ西へと走って来て、ここまで来たなら、「気が済むまで走った」と言えるんじゃないかと。

有名観光地を見ずに、海も見ずに、西市という場所(下関市らしい)にいる。

ちっぽけな行動力だが、こんなところまで来てしまった、という感覚は、自分を取り戻したようで、少しほっとする。

少し早く目が覚めた。

夜中はしっかり雨が降ったらしい。

朝も小雨。絶好のフクピカタイム。

BRZをいたわるように、昨日の汚れを落としてから、出発。

フクピカあればそれでいい。

 

邑南町に入る。「おうなん」と読むらしい。聞いたことない地名。

「邑」なんて、この地に生まれなかったら、一生使わないだろう文字。

朝イチ渓谷は、断魚渓。聞いたことない元観光地。

旧道で楽しむ。旅館の廃墟。断崖や奇岩というだけでは現代では観光にならない。

 

峠のトンネルを抜けて広島県に入る。

広島県でも石州瓦の赤い屋根が多い。寺の瓦も赤い。まだ石見の文化圏。

R433に入ると、吉川元春の館跡があった。

彼は毛利元就の次男で、戦での無敗伝説を持つ。石見を含めた広い地域を治めていた印象。

そういえば、先ほど細くなった江の川の上流部を橋で渡った。この辺りも支流の流域。

江の川は島根を代表する川だが、北広島町を源流に、三次市の辺りを流れて、島根へ入る。

中央分水嶺が県境にならず、広島県北部の水は日本海に流れる。

山陽と山陰を考えた時、広島岡山は大きく、鳥取島根は小さい。山河の地形とは関係ないようなところで県境の線が引かれている。山陽側が勢力を伸ばし、山陰側が負けたような構図に見える。吉川元春の時代はそうでもなかったのだろうか。

 

ツーリングマップルが勧めてきたK40を走る。

中国山地は高い山は無いが、ずっと続く地形の起伏に合わせて、道もアップダウンを繰り返す。そうやって少ない平地と小さな集落を結んでいる。

昔の人は、ここに住んでしまえ、と思ったのだろうか。そして現代では、道つくっちまえ、としたのか。

通学用のマイクロバスに小学生が乗り込む。見送るのはおじいさんおばあさん。現代のようでもあり、昔ながらの良さもある。

しばらくそのバスについて走ると、先を譲られた。横を追い抜くと、小学生の視線を感じた。

 

ツーリングマップルは大朝鹿野大規模林道なんて道を勧めてくる。

大規模林道はどこも手入れが行き届いていない。ここも草刈りがなされず、車線が狭くなっていた。

 

しかし誰もこんな道使わないだろう。橋のど真ん中にクルマを停めて、貸し切り感を味わう。

雨が強くなってきた。

 

島根県に入り、道の駅「匹見峡」

20代の頃のバイクツーリング、ここで一夜を明かしたことがある。

当時はスマホも情報も無く、真っ暗な山中をひた走って、たどり着いた道の駅は簡素すぎて、一夜を過ごすには厳しすぎる環境。

季節は秋で、雨が降り、とても寒かった。自販機のコーンポタージュを震える手で2本飲み干したのを思い出す。

ガラス張りのバス停の待合室は底冷えだったが、震えながら、朝が来るのをじっと待っていた。

しかし若い時の無謀さは今の時代には得られない経験で、今となっては良い思い出である。

 

さて、そんな思い出の地だが、メインの渓谷は見たことが無い。

昔のやり残した宿題を回収に、表匹見峡へ。

が、旧道は全面通行止。うーむ、呪いというか何というか。

 

西を目指してK42。

この道は手強い狭さ。絶対誰も来ない。賭けてもいい。(←何を?)

しかし、細い流れに沿う風情はなかなか良い。

 

峠に向かって登り始めると、森の中をくねくね。

教習所で習った「対向車絶対来ないだろう運転」で行く。賭けているし。(←何を?)

万が一来たら、退避は難しい。

 

峠は切り通しに無理やりトンネルが設けられたような、珍しい構造。

こういう方が崩れにくいのかな。

 

山を下ると、やっと道の狭さから解放され、2車線になった。

9月から生活道路の制限速度が30km/hになった。あの山の険道ではそれも難しいが。

2車線は何キロだっけか。80km/hぐらい?(←しらじら)

子供から青年に成長する頃、新幹線はどんどんスピードアップし、クルマ雑誌の筑波ラップタイムはどんどん更新された。そのニュースにワクワクしていた。てっきりこのまま速い時代になるんだと思っていた。

コンピュータの処理速度は上がっても、交通の流れは逆に遅くなっていると感じる。

BRZに乗る私など、すっかり社会不適合者。

周囲にそんなに優しくなれない。生きづらいとすら感じてしまう。それも時代適合への難しさの、ほんの一例。

 

結局、国道に出るまで、1台のクルマともすれ違わなかった。賭けは私の勝ち。

道の駅「かきのきむら」に着く頃、空には晴れ間も出てきた。これも勝ちと言っていいかな。

例に漏れず、険道のあとは車体がドロドロだが、フクピカあればそれでいい。

険道を抜け、やっと普通の国道に出た。

おぉすげぇ、2車線もある、なんて不思議に感動したりして。

R314で島根県へ。

県境付近の、道の駅「おろちループ」

やけにクルマが少ないと思ったら、なぜか今日だけ営業が15時までと張り紙。現在15時10分。呪いが続いている。

 

そのループ橋で一気に高度を下げる。高低差は100m以上らしい。

 

しかしここは鉄道の方が有名かもしれない。

JR木次線の出雲坂根駅。鉄道ファンならみんな知ってる、3段スイッチバック。

以前訪れた時と違い、駅舎が新しくなって、「スイッチバックコーヒー」というカフェができていた。閉まってたけど。それは呪いだからしょうがない。

 

道の駅「おろちの里」

土産売り場はしじみ推し。今回の旅では、そもそも土産を買うつもりもなかったが、少し気分が変わった。家から遠く離れると、やっぱり家の者たちの顔が浮かぶ。

 

K40。

聖書(ツーリングマップル)にワインディングと書いてあったので、行かない訳にいかない。

大好物の、やや古い設計のワインディング。

 

三瓶山。…の山頂付近は雲。

誰もいないスキー場の駐車場。誰も来ないようなところばかり走っている。

 

そろそろ夜の準備。まずは風呂。

三瓶温泉の少し外れにある、公衆浴場の「亀の湯」に行ってみる。

ここは雰囲気が素晴らしい。その歴史は120年だという。今日何度目かの、本物のレトロ。

源泉がぬるいらしく、17時から加温と書いてあったが、それでもぬるめでありがたい。

1人いた先客が上がって、貸し切り状態。

硫黄色のにごり湯を存分に楽しむ。

 

江の川と三江線の跡を見ながら、ゆっくりクルマを走らせる。

窓を開けて、湯上がりポカポカの体を少し冷ます。風が心地良い。

すっかり毒気が抜かれて、工事中の信号待ちでもイライラしない。

道の駅「かわもと」に到着。

ここは川本町と言うところらしい。どこにでもあるような地名。逆に今自分がどこにいるのか分からない感じがいい。

ここをキャンプ地とする。

 

コンビニ「ローソン・ポプラ」が併設されている。

贅沢な夕食は必要ない。酒とツマミ。それだけで生きていける。

ダメ人間の典型のようだが、私はそんなもの。

いつも志高く生きていけない。何もかも嫌になって逃げることもある。

それでも今だけを生きていけるようにと走り出した。

BRZは日常感があまり無い、感覚的にはバイクに近い乗り物。

オーバースピード気味にコーナーに進入しても、絶対破綻しない。クルクルとよく曲がる。

運転に集中することで、無心になれる。求めているのは、それだ。

 

落ち込んだ時に思いを打ち明ける友人が1人だけいる。

今の気持ちのままLINEしてみると「気が済むまで走ればいい」と返事が返ってきた。

いい言葉を持ってるな。

家族や親兄弟とも違う、楽しいだけの友達とも違う、そんな友人がいることが嬉しい。

コンビニで買った安い酒だが、少し酔った。

今日はこれまで。

明日も走ろう、気が済むまで。

隼駅前からは走ろうと思っていたR482にいよいよ合流。

いよいよ、とか言って、ただの田舎道なんだけど。

「まぢトンネル」という変な名前のトンネルを抜けて、JR因美線を渡って、名も無きダム(いや、名前はあるんだろうけど)を横目に過ぎて、岡山県境の辰巳峠へ。

峠っぽい峠道(イミフ?)。

雨のワインディングは滑りやすい路面が楽しい。

雑念から離れて、今この瞬間に意識が向く感じがたまらない。

 

人形峠で再び鳥取県へ。

いや、もうここが何県でもいいんだけど。中国山地のど真ん中を行っているので、何度も県境をまたぐ。

旧道の峠道は昭和っぽいワイルド感が良い。走りごたえのある、こういう道を求めてやってきた。

 

峠を走れば腹も減る。正午近いので、近くの道の駅「三朝・楽市楽座」へ。

…行ったら、つぶれてる。ツーリングマップルが2021年度版では情報が古いか。

しかしつぶれるとは何と不景気な。

しからば、と走り、道の駅「蒜山高原」へ。

…行ったら、今度は定休日。

何だ。呪われてるな。蒜山も雨雲に隠れて何も見えないし。

 

道の駅「風の家」で、やっと昼食にありつく。

ご当地B級グルメの蒜山焼きそば。B級なんて卑下しなくても、私的にはA級。

食べながら午後をプランニング。

鳥取県は見るものが何も無い(←失礼)。唯一の見どころ走りどころと思っていた、大山一周はやめにする。また天気の良い日に。

今日は暗くなるまで西に向かって走ろう。計画なんてあるようで、無い。

 

ツーリングマップルに誘われて、名も無い舗装林道や快走の県道、とにかく誰もいない道へ。

古い小学校を発見。美しさに惹かれて、つい立ち寄る。今は高齢者向けのナントカセンターになっているらしい。古い駅舎と同じく、残して欲しい文化遺産。

 

R181、R180、R183と繋いで走る。午前のR482もそうだが、国鉄型特急電車の型式を思い出す数字の羅列。うむ、どうでもいい。

そのR183で広島県へ。

鳥取と広島が接しているのは意外だった。おかげでこの辺りの4県の配置が分かった。

 

県道444号。

次の道へショートカットしようと選んだ道だが、険道らしさ満載で、のっけから手強い印象。

苔のセンターラインが美しい。…とか言ってる場合じゃないか。

 

暗い杉林の中、山側に申し訳程度に積まれた石垣が美しい。

…とか言ってる場合じゃなく。

 

「走行注意レベル4」の看板。

何だ?レベル4って。ここまでも相当悪かったが、レベル3.9だったってことか。

っていうか、最大レベルはいくつなんだ?

 

ははーん、なるほど、レベル4ね。

狭いし、断崖だし、路肩下がってるし、ガードレール無いし、落石多いし。

大きな落石は、クルマから下りて道路脇へ蹴っ飛ばす。それがもう7~8回。誰もこの道を使おうとしないらしい。

少なくともBRZで来る道ではないらしい。

 

K444。この道は最凶クラスと言っていい。

そういえば、不吉なナンバーがフィーバーしてるじゃないか。

避けようのない完全1車線で、横から伸びた草や枯枝がBRZの車体をかすめる。

自分の脇腹を枝でガッとやったようで気が気じゃない。こういう人馬一体感は嫌だな。

もうこんな道なんて行かないよ絶対。

とは言いきれないよ絶対。

って感じ。何だそりゃ、と思うが、これは私の性癖なので諦めるしかない。