読書感想文161 中村文則 土の中の子供 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

悲しいお別れがありました。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今日、大変に悲しいお別れがありましたよ。

 

結構落ち込んでいます。まあくだらない話なんですけど、子供が持ち帰って夏休みの間お世話していた、朝顔を学校に返しちゃったのです。

 

「朝顔のタネ植えたんだー」みたいな話は7月頭に聞いてたんですね。で、夏休み前に持って帰って観察日記もつけたわけです。

 

私としては、「この朝顔はもううちの子なんだ」と思い、ベランダにネットをかけて、それに這わせて大繁殖を試みたのです。いい具合に朝顔ちゃんは蔓を伸ばし、うちのベランダを華やかにしてくれていたのですが。

 

夏休み明けに「また学校に持ってきてくださーい」なんて馬鹿なプリントが入ってやがるんだよ。ばかばかばーか、この子はもううちの子だっ。誰が学校なんかに返すもんか!

 

……なんてことも言えるはずもなくね、ネットに絡まった蔓を鉢に戻し、車で今日持って行きました。子供が持てるような重さのもんじゃないからね。したら、三分の一の朝顔が枯れてるの。だよねー、先生ちゃんと言っといてくれなきゃ、枯らす家庭はあるって。ていうか、鉢ごと処分しちゃった家もあるんじゃない?

 

うちは逆に愛着が湧いちゃって仕方なかったんですけどねえ。一緒の鉢に別の花の苗を植え足して、なんかものすごいボリュームになってるのもあった。笑った。でも、枯れちゃってる子は結構心に傷を負っちゃうんじゃないかなあ。先生、ホントに言葉が足りてないですよ。

 

そんなわけで悲しいお別れとなりました。けどね、この朝顔ちゃんのタネをまたベランダの鉢に撒くのだ。芽が出るかなー。まあ、季節的に不向きかもしれませんけどね。

 

楽しみです。そんなわけで本を読んだ話。中村文則さんの芥川賞受賞作、「土の中の子供」を読みました。

 

 

 

 

この作品は短編集で、

 

土の中の子供

蜘蛛の声

 

が収録されています。

 

芥川賞受賞作の「土の中の子供」は、はっきり言っちゃえば児童虐待の話ですね。実の親に捨てられ、親戚に暴力を振るわれながら育てられた子供が成長して、死の手前にあるものを求めるお話です。

 

主人公の「私」は27歳のタクシー運転手。最近白湯子という女を拾って同棲しています。

 

この主人公が虐待を受けた青年なんですが、冒頭からいきなり暴走族にぼっこぼこにされちゃいます。自分から因縁つけに行っちゃったんですね。他にもビルの屋上から飛び降りてみたり、車のアクセル踏み込んでガードレールに突っ込んでっちゃったりするんです。この青年なりの「生と死」が描かれた短編なんですが、これは、分かる人じゃないと分からない世界なんだろうなー。

 

「生きて行くのが嫌だから死ぬ」という、単純な理由で彼は死を求めているんじゃないんですね。もともと、はっきりと「死にたい」と思っているわけでもない。

 

ヘドロの川に捨てられた壊れた自転車、そういったもののようになってしまいたいと彼は思っているんです。それって死にたいって状態なんじゃないの?って思うんですが、違うんですよね。彼を死に至らしめる暴力の先に、彼はもっとも本質に近い自分に出会えるのではないかと思っているんです。死にたいわけじゃない。彼の本心は死を恐れている。

 

彼女の白湯子というのは、無保険で飲んだくれの困った女なんですが、この女を守って生きて行こうという意思も感じられます。決して自暴自棄になって人生を放りだそうとしているわけじゃない。でも彼は、どうしても自分の身を危険にさらしたいと欲求にあらがえないのです。

 

 

 

 

結局のところ、死ぬ寸前までの虐待を受け、山中に埋められるという経験ののちに生き延びた彼は、自分に根付いた恐怖を克服し、強さを得るためにわざわざ死にそうな状況を作り出し、その中に飛び込んでいってしまっていたんです。死ぬために危険に身を投じるのではなく、「自分には生き抜く強さがある」と証明するためにわざわざ死にかけてみる。……めんどい男やなー。でも気持ちは分かる。破滅願望ってちょっとこの感情に近いよね。

 

どこまでやったら死ぬのか。意外に死なずに済むものなのか。どこまでやったら破滅するのか。私は破滅まではいかない運を持ち合わせているんだろうか。

 

いったん死の淵を見た人間は、妙なことをし始めてしまうものなのかも知れません。けれど彼には白湯子という守るべき女ができました。良かったね。もう克服して見せなくても君は強い。守るべきものを持った人間は、何も持っていなくても何者よりも強いのです。

 

 

 

 

……と、いうわけでドストライクだったぞ「土の中の子供」。この作品は暴力描写がたっぷりでしたが、中村さんって書き方が上手いなー。「暴力があった」ことは分かるんだけど、エグさがない。すっと読み飛ばせるエグさ。上品な暴力描写とでも言いましょうか。私もこんな風に書けるようになりたいな。

 

私も今児童虐待の話を書いているので、参考になりました。やっぱキーワードは「淡々と」やな。淡々と書く。なんなら爽やかに書く。ねちこい話ほどさらっと流さんといかんね。

 

さあ、次は今村夏子さんの太宰治賞受賞作の「こちらあみ子」。デビュー作でしたっけ?芥川賞受賞おめでとうございます!こちらの評判も非常に良かったそうなので、楽しみ。

 

そんなわけで、またっ!