読書感想文160 井上荒野 そこへ行くな | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

うーん、なんかちょっと違う感じでした。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

「切羽へ」「潤一」が面白かった井上荒野さんをまた読んでみましたよー。「そこへ行くな」。題名が良くない?「そこへ行くな」。そこってどこやねん。

 

今書いてる短編がなんかもうけちょんけちょんの話で。田中慎弥さん風味の、神もなけりゃ仏もない地獄の環境に住んでる子供が、表面だけは綺麗につくろってたんだけど中身はえらいことだったんですよ、という話を書いてるんですね。最初はもっとマイルドにするはずだったのになかなかねー。こんなに日々にこにこして生活してるのに、パソコンの前に座ったら鬼畜みたいな話書きだしちゃうんですよねー。私の中の鬼畜成分を吐き出しちゃおうとしているのかも知れません。だいぶ吐いたけどまだ残ってるんだなー。

 

まあ、そんな話を書いてるので、いまいち薄味に感じたのかも知れません。この「そこへ行くな」は中央公論文芸賞受賞作の短編集です。

 

収録作が

 

遊園地

ガラスの学校

ベルモンドハイツ401

サークル

団地

野球場

病院

 

となっております。

 

題名の「そこへ行くな」が意味する通り、「そこ」で起きた不穏な話を集めた短編集なんですね。「そこ」が遊園地だったり団地だったり。

 

この井上荒野さんという方、前にも思ったんですが、セックスの描写が面白いのね。描写って言っても、実際の行為の場面でなく、「なんでその二人はセックスすることになったのか」「愛し合っているわけでもないふたりをセックスするに至らしめた理由は何なのか」っていうね。

 

「潤一」なんか、もうもろにそれで1冊の本を書いちゃったっていう話だったし。私はもういい大人なので、セックスそのものには大して興味がなくなってきてるんですが、所謂「性交」って行為は面白いなって思うんですよ。初潮迎える前の子供にも欲情する男はいるし、閉経を迎えてもセックスしたい女性もいる。子孫を残すことが目的なら、その思考って必要ないってことになりますもんね。

 

だから、子孫繁栄以外の欲求がセックスという行為にはのってるんでしょう。それが何なのか。肉欲と呼ばれるものなのか、承認欲と呼ばれるものなのか、それ自体が本能なのか、セックスというのは善なのか悪なのか。

 

……とか考えると面白いよね。「汚らしい!」とかって拒否するのはもったいない議題だと思うんです。

 

で、それが描かれていたのが「ベルモンドハイツ401」と「野球場」。……人間って、セックスって、因果なものやなあと思いました。

 

 

 

 

「ベルモンドハイツ401」は、三十代半ばの中学校の同級生たちが、ベルモンドハイツ401で飲み会して酔っぱらって、乱交しちゃったという話です。男3、女2。

 

いい大人が合意の上でやっちゃったことなので、笑って済ませりゃいいんじゃないかと思うんですが、女のうちの1人が「訴える!」とか言い出します。中学時代のパワーバランスが微妙に働き続ける5人の関係。そこに乱交しちゃったという事実が加わり、話は混迷を極めていくのです……。

 

「野球場」はなんかその逆。野球チームを作って球場を借りて練習している、飲食店の従業員の男の子たちが登場人物。

 

その野球場で事務なんかをしている冴えない女がいるんですが、この女が激しいヤリマンなんですね。この男の子たちと個別に関係を持っているのです。

 

「俺あいつとやっちゃった」

「え、マジで?俺もやったんですけど」

「うっそー、お前らよくあんな女抱けるなあ」

 

「よくあんな女抱けるなあ」なんて言ってる男も、実はもうやった後なのかも知れませんけどね。他のチームにも手当たり次第に手を出していた女。……どういう心理状態だったのか。一番知りたいのはそこなんですが、女の視点はまったく描かれていないので分かりません。さんざんやりまくった挙句、仕事を放りだして姿を消してしまった女。もうほとんどサイコホラーです。

 

 

 

 

井上さんの著作というのは、結末がはっきり描かれないものが多いようですね。作風と言うか。

 

私はその「なんでセックスするに至ったか、その欲望の正体は何なのか」みたいなのに面白味を覚える人間なので、結末がもやっていてもこの2作品は面白かった。でも、他のは本当になんだかよく分からんかったなあ。

 

狭い世界で生きる人間の日常を切り取った、もやっと小説、て感じですかねえ。「遊園地」はクズな男が際立っていたのでなかなかいい具合でしたがね。二つの家庭の間を行ったり来たりする亭主。これは恐らく井上さんのお父さんのことをモデルにしていたんだろうと思います。瀬戸内寂聴さんと長く不倫関係にあったそうだし。

 

あと、最後の「病院」だけ急に爽やか青春物語みたいになってたのが不思議だった。あれは中学生に読ませるためのやつですかね。ちょっと他の短編と毛色が違い過ぎる。

 

 

 

 

……と、いうわけで、「潤一」みたいな井上荒野さんの作品をまた探してみたいと思います。次は「掏摸」が面白かった山本文則さんの芥川賞受賞作を読むよー!

 

「土の中の子供」……おう、今私が書きたいことに近いのではないだろうか。楽しみ。というわけで。

 

またっ!