読書感想文115 加藤元 山姫抄 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

例のアレ、出してきました。

 
こんばんは、渋谷です。
 
 
 
オール読物出してきたなりよ。短編。かっきり100枚。ウェブ応募も出来ましたが、ちゃんと届くのか不安だったから(ファイルの形式とか……機械オンチやから)、印刷してレターパックで送ってきました。
 
だってオール読物さんたら、ファイル形式の指定がないんよ。はっきり「これで送ってこい!」って言ってくれりゃいいのに、オンチは自由にやれと言われると不安になるのよ。そこでやはり信じられるのはアナログ。追跡も出来るしね。ちゃんと到着したようでございます。
 
まあ、送ったらもうあとは知りまへん。なるようになれやわな。今のお話に集中するだけ。で、今日も小説現代長編新人賞受賞作ですよ。今日のお話は2009年の受賞作、加藤元さんの「山姫抄」です。
 
 
 
この加藤元さん、お名前から男性かと思っていたら女性でした。しかも結構な美人。1973年生まれ、日大芸術学部を中退なさった後10以上の職種を経験されたのちにこの賞の受賞となったそうです。
 
おう……。若干の既視感。私も仕事を転々としてきた口なので、親近感が沸きますね。夜のお勤めもなさってたとか。……他人とは思えんな。いや、私なんかと一緒にしちゃ申し訳ないのですが。なんか人間のタイプが一緒なのかなという感じがします。一回一緒に飲んでみたいような、そんな感じですね。
 
で、この「山姫抄」。これっ!やっぱり私の好きな世界でした!ちょっと田中慎弥さんの世界観に通じるものがあるのよ。嫌いな人にはとことん嫌がられる作風かも知れないとも思いますが、私は好き!めっちゃ面白くて2時間ちょいでノンストップの読了となりました!
 
主人公は30代ホステス一花ちゃん。流れ流れて、今のお勤め先は片田舎のお婆ママがひとりで営むスナックです。そこに現れる暴力的な客が智顕。この男は花火職人で、二年前に失踪した妻を持つ妻帯者です。一花ちゃんは自己中心的で破滅的な智顕に口説かれ、あっさり山奥の家で同棲を始めちゃいます。ほらもう、この設定からして私の好きなやつやん。陰鬱な匂いしかしない。
 
智顕が住む家は、かつての妻姿子(しなこ)の実家です。姿子はお金持ちのお嬢様で、智顕の暴れん坊父ちゃんが事故を起こして姿子以外の家族を殺してしまったという過去があります。姿子自身もその事故が原因で、足に障害が残りました。そして家出して2年。智顕は一花ちゃんに言うんですね。「姿子は絶対に戻ってこん。お前はここにおりゃあええ」
 
一花ちゃんの方にもいろいろ事情がありまして、彼女は幼い頃から幻覚に苛まれ現実から逃げ回っています。打ち上げられた腐乱死体にたかってた蟹を見ちゃったものだから、それ以来彼女の現実の中にはちょこちょこ蟹の幻影が紛れ込んでくる。この蟹を見ちゃうと、一花ちゃんはすべてを放りだして逃げ出しちゃいます。だから日本各地のスナックを転々としてるんですね。脳みそ食べられちゃいそうな感じがするんだって。グロ。
 
それがあって智顕のもとに転がり込んだわけですが、この智顕、智顕の実家の林田家、その林田家が属する集落の絶望的な闇が一花ちゃんを取り込んでいく。これがもう大迫力!郷土史や地元に伝わる「山姫伝説」、そして智顕の父吾郎の悪辣振りが絡んで、一花ちゃんは脱出不可能な蟻地獄に落ちていくことになるんです。智顕と姿子の住んでいた家を建てる際、沼を埋め立てた時に出てきた白骨遺体というサスペンスもいい味付けになっていて、もう、ページをめくる手が止まらなかった。受賞作だというのに、本当に面白い作品でした。
 
 
 
読後、何が面白かったのかと冷静に考えてみると、まずは智顕のキャラクター。分かりやすいDV男です。まだ本性を現す前のDV男。あいつらってね、本性晒す前はものすごく魅力的なんです。なんていうか、男のフェロモンみたいなものが出てるんです。肉食獣の鋭さと言うか、力を持つ者の不遜さと言うか。遺伝子に訴えかけてくる何かを持ってるんです。まあちゃんとした人生を送ってる、優しい男性の方が間違いなくいい男なんですよ?でもなんかあの危うさに惹かれる女っているんですよ。一緒に破滅したい、みたいな妙な感情が湧いてきちゃう。自己愛が足りない女に多い現象かもしれません。ぶん殴られるって行為も、一種「私を求めてくれてる」って実感に繋がってたりするわけで。
 
そんな智顕に閉じ込められる、田舎の陰鬱さ。私は田舎出身なのでとてもリアルだったんですが、あそこには空がないみたいな感じがするんですね。いや、あるんですけど。車がなければ生きていけないド田舎で、移動手段を持たなかったら本当に自由がないんです。
 
都会では考えられないぐらい、近隣が親密だし。そこに馴染まないと他に生きる手段がないっていう切迫感。閉じ込められてるんですよね、要は。だから田舎に移住して、すぐに都会に出戻っちゃう人の気持ちが私には痛いほどわかるよ。田舎ほど猟奇殺人多かったりするしね。同化するか、排除されるか。それがすべてとは言いませんが、移住前に風土についてはよくよく調べておいた方がいいと思うよ!高知に下戸が移住すると大変なことになるしね!
 
そこに絡んでくる、地元のちょっと怖い伝承。神隠しって、本当に神が隠したんでしょうか。子供が突如消えるって今でもある話ですが、今なら小児性愛者が逮捕されたりします。当時はちゃんとした捜査なんて行われなかった。犯人が分かっていたとしても、どうせもう子供が死んでいるなら、同じ村から犯罪者を出すのは果たして得策なのか?
 
一花ちゃんは智顕にからめとられ、そしてその土地にからめとられてしまいます。姿子はどこへ行ったのか。そもそも本当に失踪なのか。DV男の本領を発揮し始めた智顕のそばで、一花ちゃんはこれからどうなってしまうのでしょうか……!
 
 
 
あー、面白かった。私の好きなやつ。私もこんなの書きたいよー。土地の伝承と一族の闇を絡めて、みたいなの。そこにDV男と殺人が絡んでくるなんて面白くないわけがないやんか。
 
改めて加藤元さん、好きかも。他のお話も読んでみよっと。このところ新人賞受賞作を読んでますが、やっぱり受賞作が面白い人はその先も活躍されてますね。まあ……まあまあまあ、みたいな人はその後の著作が見当たりません。しょうがないわね。実力の世界やもんね。
 
加藤さんにはすでに数冊の刊行があるようで。楽しみだわ。ツイッターもフォローしよっと。
 
というわけでもうすぐ今日が終わる!12時前にアップして寝よっ。
 
おやすみなさい!