読書感想文96 山田詠美 風味絶佳 | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

すごい、めっちゃ面白かった……!

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

山田詠美さんの「風味絶佳」を読みましたよー!エリカ様で映画化したやつですね。柳楽優弥くんも出てたみたいですね。だからこの本も長編の恋愛ものなんだと思って読み始めました。でも間違い。短編集なんですね。表題作の「風味絶佳」も短編の中の一本。

 

収録作が

 

間食

夕餉

風味絶佳

海の庭

アトリエ

春眠

 

の6作となっています。これがねえ、どれも甲乙つけがたい傑作!粒ぞろいの短編集、もう、私が求めてたのはこれなんです。どれもこれも個性的。登場人物も設定もひねってあって、短い中に起承転結をぎゅうぎゅうに詰め込んでる。これなの、私はこんなのが読みたかったのよ!

 

ほんとどれも良かったんですが、なかでも私が特にいいなと思ったのは、「夕餉」と「アトリエ」です。

 

 

 

「夕餉」はお金持ちの人妻が、ゴミの収集人と恋に落ちて同棲を始める話です。人妻にはプライドばっか高くて性格の悪い夫がいるんですが、耐え切れず飛び出してゴミ収集人の部屋に転がり込んじゃいます。そこで人妻は、男に手をかけた世界各地のあらゆる料理を食べさせます。その料理の過程の描写の美しいこと!

 

山田さんは多分料理をしっかりやられる方なんですね。目の前で本格的なミネストローネやミラノ風カツレツが、とっても楽しそうにおいしそうにリズミカルに出来上がっていきます。女は男に心を込めた料理をささげることで、男のすべてを自分のものにしようとします。「身体を酷使する仕事をするあの人に、活力の出るものを食べさせてあげたい」なんて言うのは建前で、本音は食、住、セックスで男を取り込み、ほかの女なんて目に入らないぐらいに自分に夢中にさせたい、要は支配したい、と思っているんです。

 

これ、ちょっと聞くと怖いけど、古い形の夫婦ってこういうもんよね。家事ができないお父さんと、家事をさせない専業主婦のお母さん。あ、うちもそれか。夫は妻から稼ぐ力を奪って束縛する。妻は夫から生活力を奪って束縛する。

 

束縛って言い方すると窮屈だけど、これがうまくはまる夫婦もいるんですよね。でもこのお話の中では、いつ怪我をするやもしれない男の職業を思って、女は憐憫の情をもって男を束縛したいと願う。「憐れみに肉体が加わると恋になる」んだって。なにこの名言。確かに、恋の正体って憐れみとか独占欲とかなのかもしれない。そこにセックスというフィルターがかかって、自分はその人を愛してるんだって勘違いをするのかも知れない。

 

だってセックスなくなると夫婦は急に家族になりますからねえ。女は男との生活を守るために、夫と対決しに行くことを決めてお話は終わります。どーなんねんここから。気になるラスト。いびつな主人公は、夫とうまく別れられても多分妙な未来が待ってるんじゃないかな。その不穏な予感まで含めて面白かった。ざわざわぞわぞわ、楽しかったです。

 

 

 

「アトリエ」はもっといびつ。汚水層の清掃を生業にする男が、自分に極端に自信のない女と結婚し、姑(男の母親ですね)にいびられ縮こまってるところを可愛がるのにハマっちゃうお話です。

 

女には頼れる身内もなく、夫だけしか頼る相手はいません。夫は母親に妻をいびらせ、妻が自信を失って我を忘れてる状態にしてから抱くんですね。しかも変態のねっちょりセックス。精神的に支配したくてしょうがないんです。この短編集にはこういうお話が多かった。愛しているという言葉を使いながら、その実自分の満足のために相手を支配しようとする。でも巷に流布する愛って、結局はそういうもんだよね?

 

相手のためなら死んでもいい、なんて言いきれる愛って全体の何パーセントぐらいなんだろう。それが見つからないから、人間は恋愛小説を読むのかも知れませんね。で、結局この嫁さんはいびられたり変態セックスしたりしてるうちに気が狂っちゃいます。その後悔で夫の方もおかしくなっちゃう。すごい迫力でした。こんなの短編でさらっと書けちゃうって、山田さんてほんとにすごい作家さんなんだな―……。

 

 

 

映画にもなった「風味絶佳」は、夏木マリさん演じたおばあちゃんがめちゃめちゃかっこよくてクールでした。dr.くれはでしたねほとんど。山田さんが書く登場人物ってクセがある人ばかりでホントにおもしろい。そりゃこんなメンツ揃えたら面白い話にもなるよなあ。

 

ちょっとハマっちゃいそう。山田詠美さん、もっと読みたいと思います。クリーンヒット。私もこんなのが書けるようになりたいな。

 

というわけで寝なくっちゃ。おやすみなさいー!