読書感想文69 道尾秀介 カラスの親指 | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

はい―面白かったよー。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

道尾秀介さんの「カラスの親指」を読みましたよ。日本推理作家協会賞受賞作。ミステリーを読もうと決めたので、図書館で借りた純文学はすべてすっ飛ばして夫の本棚からおススメを借りました。夫、道尾秀介さん好きなのね。私もこないだ読んだ「月と蟹」が良かったから、かなり期待をして読み始めた今作。うん、面白かった。結構な長編ですがあっという間に読了。

 

読み終えての感想は「ちっくしょう、これがペテンか」。ミステリーって言うかペテンだね。ペテン師に綺麗に騙されて、抱えてたものが全部なくなっちゃったって感じ。ばっと風が吹いて目をつぶってる間に何もかもがなくなっちゃってるって感じ。

 

終盤まではドロドロの復讐劇なんですが。最後の最後で「実は恐れるべきものなんてなかったんだ」って気付く。これ、島田荘司さんの「異邦の騎士」でも同じ読後感を持ったんだよな。

 

かなりな高等技術を要しそうな「カラスの親指」、ざっくりあらすじを紹介してみますね。

 

 

 

主人公は武沢という四十代半ばの詐欺師。過去に闇金に身ぐるみはがされ家に火をつけられ娘を殺された過去を持ちます。もうどこを振っても金は出んとなった時に、闇金の仕事を手伝わされていたんですね。でもそれがいやんなっちゃって、警察に証拠を提出して闇金を告発しますが、その報復として娘を殺されてしまう。それからは詐欺師として身をかくして生きていました。そんな武沢が出会ったのがカギ屋のテツさん。

 

テツさんとタケさんはバディとなって小さな詐欺を働きともに暮らします。そのうちひょんなことから女スリのまひろ、その姉のやひろ、その彼氏の貫太郎も転がり込んできて一味は大所帯に。やがてタケさんが恨みを持つ闇金に、テツさんもやひろもまひろも人生をめちゃくちゃにされていたのだとわかります。5人は闇金への復讐を誓い大掛かりなペテンを仕掛ける。果たしてそれはうまくいくのか……!

 

……というのが表向きの冒険活劇で。ここまでも謎がちりばめられていてハラハラして。

 

結局タケさんの仕掛けたペテンは失敗に終わります。けれど闇金グループはもうタケさんへの復讐は終えたと宣言します。もう追われることもなくなり平穏な日々を取り戻した5人。復讐は完結したとして新たな日常が始まる。でも本当の謎解きはここからなんですね。

 

あまりにもスムーズに転がり過ぎた一連の流れに、疑問を抱くタケさん。確かにペテンは失敗したけれど、5人は結束して絆を深め、失敗の後にも誰も傷を負っていない。平和な日常がやってきた。まるでここへ誘導されていたかのように。

 

スリと無職だったやひろとまひろは働きだしました。まるでダメ男だった貫太郎までも別人のよう。タケさんにも詐欺を続ける理由はなくなった。

 

最後にタケさんは気付きます。彼らをこの平穏に導いたのは、ずっと行動を共にしていた、誰よりも有能なペテン師だったのだということに。

 

 

 

 

ああ、面白かった。        

 

素直に面白かった。よかったねえ、と思った。良い読後感ってこういうのだね。ほんと、すてきな作品でした。

 

上質な作品を読むとほんとに幸せな気持ちになるね。お金をとれる小説、ってこういうのなんだな。ちゃんと読者を「楽しませる」ことができる作品。こういうのが書けるようにならなきゃいけないんだな。

 

鍛錬します。ええ。というわけで。

 

ではまた―。