読書感想文61 川上未映子 ヘヴン | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

あっという間に読んじゃいましたよ。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

いやー、昼間書いた「対岸の彼女」、ちょっとしっくりこなくて。

 

次はがっつりくるやつを読もう!と思って手にしたのが川上未映子さんの「ヘヴン」です。芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞作だって。どっちもよくわからない賞ですが、ほら、私の好きな田中慎弥さんがこの作品ほめてたし。デビュー作読んで面白かったし。

 

読んでがっつり川上未映子、読みごたえが半端なかったです!

 

 

 

この作品はいじめをテーマにしたものなんですね。中2。いじめとかしたいお年頃なのかなあ。中2のいじめとか非行とかってなんか年代ですよね。中1でも中3でもない。中2、14歳ってなんかエアポケットな年代なんでしょうか。子供でも大人でもない。受験前で時間があってでも受験に向けての緊張感もあって。わかる気がする。「なんも考えず自由に子ども時代を謳歌できる最後の時」って感じ?

 

中2の「僕」は斜視なので「ロンパリ」なんてあだ名をつけられてクラスでいじめられている男の子です。同じクラスには清潔感がないためにいじめられている「コジマ」という女の子もいます。コジマが主人公の机に手紙を仕込み、二人に交流が生まれます。コジマは主人公に「私たちは仲間です」なんてメッセージを送る。いじめられっ子同士、二人は周囲に気取られることなく心を通わせていきます。この描写がとっても痛々しい。

 

いじめの描写も読むのがいやんなるぐらいきついんですけどね。主人公とコジマのお互いを唯一とする切ないやりとりが痛かった。お互いに好意を抱いているんだけど学校では目もあわせない二人。お互いに自分がいじめられているさまを見られたくないと思い、いじめられている相手を見たくないと思ってるんです。気まずい気持ちになるんでしょう。辛いわね。自分の夫がどっかでぶん殴られてると想像するとうなづける。そんな姿は見たくないし、気付かないふりをしてあげなければと思う。

 

そんな二人は「抵抗しないことこそが強さだ」という結論に至っちゃっていじめに耐え続けます。いじめられたことのない私にはよくわからない理論。でもその理論をこの作品はすごくわかりやすく鼻先に突きつけてくれた。それが衝撃でした。

 

コジマが言うには、「私がいじめっ子たちの犠牲者なんだとしたら、あの子たちはもっと大きな力によって握りつぶされている犠牲者。だからいじめを受け続けることによってあの子たちを助けている。最終的にはあの子たちも自分たちの行動のおかしさに気付く。その気づきのために耐えてあげるんだ。だから私たちがいじめられていることにも意味があるんだ。私たちは強いんだ」

 

うーん、違うよね。親の立場になって考えてみると違うよね。て言うか私はいじめられたことがないからその考え方が理解できないんだ。でも貧しさが原因で離婚してしまった両親をもつコジマは、今現在お金持ちの後妻に収まっている母親への反発、そして貧しいまま生きている父親への思慕からお風呂に入らないし服も洗わない。まあ、そういう意地の張り方なら理解できるぞ!できれば口で言ってくれた方がわかりやすいけどな!そしてそこに主人公を巻き込んじゃダメなんだよ!

 

いじめの原因であると本人が思っているところの「斜視」を直す手術をしようとする主人公に「自分のいいところを殺すつもり!?」と詰め寄っちゃうコジマ。置いてけぼりにされるような気がしたんでしょうね。コジマは久々に会ったお父さんがあんまりにも落ちぶれてたもんで、そこに同調しちゃってハンストを始めちゃってるんです。だから主人公の手術が裏切りみたいに感じられたのかもしれない。でも自分の問題は自分で解決しなきゃ!まあ14歳の少女にそこまでを要求するのは酷ですわね。そうしているととうとう起こってはいけないことが起こる。二人の仲に勘付いたクラスのいじめっ子たちが二人に公衆の面前でセックスさせようとしちゃう。あーあ、子供ってホント残酷。昆虫の羽もぐのとおんなじ感覚かね。

 

この時ハンストも極まってがりっがりになってしまっていたコジマは、いじめっ子たちに「コジマの服を脱がせろ」と言われても抵抗し続ける主人公を尻目に自分で服を脱いじゃう。泣きながら大笑いしていじめっ子たちに迫っていく。それが大人たちの目に触れ二人は救われます。とりあえず……主人公は。

 

 

 

親にいじめを打ち明け、「もう学校なんか行かなくてもいいよ」という言葉で許される主人公。何に許されるかと言えば、自分自身で自分を縛り付ける鎖からです。ほんとはなんぼでも逃げればよかったんだ。学校になんて行かなくたって全然いいんだ。私なんかいじめられてもないのに学校なんかろくに行かなかったぞ。でも今現在全然困ってない!学校に大した意味はない!いじめで自殺をした子供の話を聞くたび、そんな風な思いが胸を掠めます。

 

なんかで読んだんですが、野生動物ってちょっとでも嫌なことがあるとすぐに逃げるんですって。自然界で生きてる動物たち。だって気候が合わないとか天敵がいるとか、そんなところで我慢してなんもいいことないですよね?すぐ逃げる。そこで根性論出して我慢するのは人間だけだって。なんか、うなづいちゃったのよねえ。

 

我慢に我慢を重ねちゃった主人公とコジマ。主人公は血のつながらない母親に救われすべてを吐き出すことができましたが、最後、コジマがどうなったかは書いてないんです。多分……多分なんだろうな。だって野外で服を脱ぎ棄て大笑いしながら泣くがりっがりの裸の少女。壊れやすい思春期の少女が、その後回復する時が来ますように。長い人生を笑顔で暮らせる日が来ますように。

 

 

 

そんなわけでフルボッコに近い衝撃を与えられてしまった川上未映子さん。うーん、痛いけど好きやわあ。わたしこういうの好き。こういう本気でぶん殴ってくるみたいなの好き。

 

芥川賞受賞作の「乳と卵」も読んでみたいと思います。面白かったです。さーねよ。

 

では、おやすみなさいー!