読書感想文59 カズオ・イシグロ わたしを離さないで | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

はい、読みましたー。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

お花見行ってきました!

 

 
樹齢500年ですって。ぽつんと一軒家並みの山の上でしたが満開で人がすごかった!
 
いやー、春だね。とっても綺麗でした。
 
 
 
で、カズオ・イシグロさんの「わたしを離さないで」。カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞をとって、その後綾瀬はるかさん主演でドラマ化された作品ですね。私は見てません。でもなんとなく気になっていた作品。図書館で予約して読んでみました。うーん、圧巻でした。
 
主人公はキャシーという31歳の女の子。職業は「介護人」です。
 
彼女は特殊な施設で16歳まで育ち、その後介護人となりました。その施設がどういったものなのかはなかなか明かされず、外国にありがちな寄宿学校での子供時代が書き連ねられていきます。だから最初のうちは不穏な雰囲気は流れつついまいち要領を得ません。なんかおかしい学校だな、という感じ。
 
読み進めていくうちにこの施設の違和感があらわになっていきます。一切校外に出ることは許されず、芸術を奨励して週に一度の健康診断が義務付けられているこの学校。そこはクローンとして誕生した子供たちが、臓器提供できるようになるまで、時間を過ごすための施設だったのです……!
 
 
 
最近こういう設定ってよく見られるようになりましたが、このカズオ・イシグロさんがはしりなんでしょうかね。日本での発行が2006年となっています。食料として育てられる子供、とか。なんかどっかで読んだような気がする。しかも複数回。でもそういうのっていわゆるエンタメとして読んだ覚えがあるんですが、この「わたしを離さないで」はホラーとかそういう立ち位置じゃないんだよな。人間ドラマ。
 
「介護人」という職業は施設出身者全員が一度は通る道なのですが、それは「提供者」を介護するのが仕事。介護人は提供者(要は臓器を数回に分けて摘出されるのでしょう)の介護をしたのち、次には自分が提供者に回る運命にあります。優秀な介護人だったキャシーは長年介護者を続け、施設でともに育ったルースとトミーという、幼馴染も看取ることになります。
 
トミーとルースは若かりし頃恋人同士でした。でもトミーとキャシーも憎からず思いあっていた間柄。クローンとして生まれ、いずれ臓器を抜かれ死んでいく運命であることに反発せず、諦めの中で愛と自尊心を捨てずに誇りを持って人生を全うしようとする3人。トミーとルースの命の終わりを迎え、そこにドラマが起こる。

ルースはトミーを独占したいばかりに、親友であるキャシーを陥れていました。その告白を残し、死んでいくルース。そこでキャシーとトミーはお互いを愛していたことを確認しあい、ふたりに襲い来る提供者としての使命から逃れようとする。せっかく好き合ってたって分かったんだもん、そりゃそうだよね!

これから大立ち回りが始まると思ってました。だってこの子達可哀想だもん。トミーはもうすでに3回目の提供を終えており、次に提供したら間違いなく死んじゃいます。キャシーももうすぐ提供者に回ることが決まってる。さあ戦え!運命に抗え!ふたりでケツまくって逃げてもいい!

なんなら心中したっていい!だって君たちの身体は君たちだけのものじゃないかー!



……と、読んでる私は思ったんですがね。いやいや。とんでもない。カズオ・イシグロはそんなに薄っぺらくなかった。トミーはキャシーを介護人から外し、静かに4回目の提供に挑みます。

もちろん死んじゃうトミー。キャシーは悲しみに沈みながらも、己の運命を受け入れ、提供者として命を捧げることを決心するのです……。

いやね、可哀想だけどね。

これ、このふたりが自分の意思を貫いたらこういう余韻は残らんかったわね。「すっきりしたー!エンターテイメントってこうじゃなきゃね!」ていう作品ももちろん楽しいんですが。

愛し合うふたりが運命に巻かれていく姿。美しかった。ほんと、切なくて深夜に一気読みしました。

面白かった「わたしを離さないで」。こういう「すっきりした!」だけじゃない作品が書けるようになりたいと切に思いました。

というわけで、また近いうちに!