今更ながら、「インストール」を読んでみました。
こんばんは、渋谷です。
綿矢りささんが17歳で文藝賞を受賞した作品、「インストール」。
話題になってたから読んでたかなーと思いつつ、はっきり記憶になかったのでもう一度手に取ってみました。するとほぼ中身には記憶がなかった。でもびっくりすることに、登場人物の名前が今私が書いてる話とふたりもかぶってるのよね。
「雅」「唯」。あまりある名前じゃないのにふたつも同じ名前を使ってた。……ということは、私やっぱりこの作品昔読んだことあったのかなあ。
名前もかぶってるし背景も若干近いものがあるんです。むかーし昔に読んで、無意識に植えつけられてたのかも知れない。やべー……。こうやってパクリって発生していくんだろうか。まあ全然話の内容は違うから、気にしなくていっか。
というわけでもしかしたら再読だったかもしれない「インストール」、綿矢りささんのデビュー作ですが、いかにも綿矢りささんらしい作品でした。
主人公の朝子ちゃんは受験生。17歳です。予備校を掛け持ちしちゃうような真面目な子なんですが、自分のこの先の人生がすでに読めちゃってるような気がしてます。「みんなと同じ生活を送るのが嫌」なんですって。まあこれぐらいの年頃にはよく思うやつです。「私は他のみんなとは違う!私には特別な何かがあるんだー!」
そんなこと言いながらみんなと同じ格好しておんなじ音楽聴いて流行を押さえて生きていく愚かしさよ。一般的な女の子は口だけですが、朝子ちゃんは違います。友達の光一くんの進言に従ってホントに登校拒否児になっちゃいます。シングルで育ててくれてるお母さんの目を盗んで自室の家具をピアノまで捨てちゃうし。うーん、ロックだね!
部屋に鎮座していた壊れたパソコンも捨てちゃいます。マンションのごみ捨て場で運搬に疲れ切って寝っ転がっていると、とある少年に声をかけられます。かずよしくん、というこの小6の少年もかなりの曲者。朝子ちゃんからパソコンを譲り受け、自分でOSをインストールし(多分そういう事なのかな。自分で修理したと言うことでしたが)、そのパソコンを使ってエロチャットでひと儲けしようと企むのです……!
登校拒否の朝子ちゃんが午前の部、帰宅後のかずよしくんが午後の部を担って、「雅」という風俗嬢を名乗ってのエロチャットバイトが始まります。場所はかずよしくんちの押入れのなか。かずよしくんちは最近後妻さんが入って引っ越してきたばかりです。昼間は誰もいないかずよしくんちに合鍵で堂々と侵入して、処女朝子ちゃんはエロの世界に引き込まれていきます。
……17歳の性への興味やね。あっさりと書かれてますが、朝子ちゃんのパンツは濡れちゃっています。そうでありながら、「普通の大人になりたくない」朝子ちゃんは「だからってこんなことを求めていた訳じゃない」という気もします。かずよしくんは後妻さんの鮮やかなオレンジのブラを目にしながら生活をしている。どうしてかずよしくんがこんな妙なバイトをしようと企んだのか、分かっていくうちに朝子ちゃんの心にも変化が生まれてきます。
やがてお母さんにサボりがバレ、部屋の家財一式を捨てたこともバレた朝子ちゃん。
お母さんは「いじめにでもあってるの?」と訊いてくれます。それだけで多分気が済んじゃったんだよねえ。お母さんの気を引きたかった。お母さんも余裕がなくて朝子ちゃんのことを振り返ることができなかった。それに気付いて、もういいかという気になったのかなと思います。
かずよしくんにも、「あんたは子供なんだからお母さんに甘えなよ」的な言葉を投げかけ、朝子ちゃんは再び登校することを決意します。なにも変わらないけれど、自分の力でなにかを変えなければならないと気付いた。そんな感じでしょうか。青春、青春やねえ……。
まあはっきり言えば、青臭い青春の記録です。誰しもこの年頃には考えるようなことです。この朝子ちゃんはちょっとだけ素直な子なので、自分に湧いた疑念を見ないふりをせず、ちゃんと試してみたんですね。自分という存在は愛されているのか、本当に価値があるのか。
そんなこと、わからないまま大人になる人が大半だと思いますが。「自分の価値」とか「自分には愛される理由があるのか」なんて大人になったって分からない。分からないままみんな悩んでるんだよね。一度日常も家財も捨て去って本気の「自分探し」をやってみた朝子ちゃんはなかなかの強者だと思う。でも、これきっと今の綿矢さんが書いたら、こんなきれいにまとまったラストにはならないんだろうなあ。
だって一度スカトロの世界まで知ってしまった17歳処女が、普通の青春に戻れるはずがない。特に朝子ちゃんは無鉄砲。エロチャットから足を洗って同い年とノーマル初体験とかそんな清いことをするはずない。さあ、その先はどうなるのやら……。
そんな訳で、面白かったんですが少し物足りなかった「インストール」。でもこのお話を、主人公朝子ちゃんと同い年の綿矢さんが書いただなんて本当に驚きです。
生まれながらの作家、なんでしょうね。きっとこの時点で風俗もエロチャットもスカトロも身近にはなかっただろう17歳の綿矢さん、知識からこれを書いたのだとしたらすごいと思う。意外に色々物知りだったという可能性もありますが。
にしたって17歳でこれだけのものが書けるってすごいなあ。天才、というのはこういう方のことを言うんでしょうね。
という訳で、綿矢さんはこの先も読んでいきたいと思います。面白かった!
ではではまたー。