読書感想文35 菅浩江 永遠の森 博物館惑星 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

いやー、いろんな世界があるんやねえ。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

おすすめ頂いた、菅浩江さんの「永遠の森 博物館惑星」を読みました!私がなかなか読まないSF分野。子供の時に読んだ子供向けSFと、いっても新井素子さんぐらいまでかなあ。私のSF歴。久しぶりの世界観に、慣れるまで時間がかかりました。

 

でも慣れてみれば引き込まれました。最近の私にはなかった情緒的な感動。「バーンとなってがーんとなってあーあ!」みたいなのばっかに浸ってたから、久しぶりになんかほぐれたよ。そうそう、この本を読む前にテレビでやってた「ジョン・ウィック」を見たんですよね。キアヌ・リーブスのアクションもの。一度怒らせたらどうにもとまらない元殺し屋ジョン・ウィックが、とことん冷徹にしつこくみっちりと復讐を果たす話。いやー、キアヌ、かっこよかった!映画見ん派やけど男前は見るよ。内容も、すごく良かったです。

 

あれを見てから読み始めたから、余計になかなか入り込めなかった。だってとっても綺麗で優しい世界観。まずその世界の仕組みを理解するのに時間がかかった。この本の舞台は、ズバリ「博物館惑星」。ざっくり言うと、そこで働く脳内にパソコンをつないだ学芸員たちの日々の記録です。

 

 

この本は9篇からなる短編集です。1話目の初出は1993年。なんかまだパソコン通信の時代って感じがしますけど、いまググったらもうインターネットって概念は出来上がってた頃なんだって。主人公田代孝弘は、脳内に今で言うGoogle先生を埋め込んだ博物館学芸員です。

 

「こんな形のあれってなんだっけ」と思い浮かべるだけで、統括コンピューター「ムネーモシュネー」が「はい、こちらでしょうか」なんて具合に結果をはじき出してくれる。今は音声検索が最先端ですが、多分これ、この先主流になるんでしょうね。頭に輪っかつけて念を送ると全部パソコンにつながる、みたいな。テレビで既にそんなんやってた気がする。精度はまだまだなんでしょうが、きっとこれからこうなっていくんでしょうね。

 

先見の明、ですね。この時代になると「ああー、うんそうなるだろうね。わかるわかる」程度ですが、1993年に第1作の短編を読んだ少年少女たちは震え上がったであろう。「ええー21世紀すごいー!」

 

だってちょっと前までドラえもんは21世紀から来たって設定だったからね。北斗の拳は199X年だったし。軽く超えてもーたっちゅうの。なんだか、長生きしてしまったなあ。

 

話がそれました。そんな博物館「アフロディーテ」には日々美に関する厄介事が持ち込まれます。博物館ですので、収蔵されている品はもちろん美に関するもの。ここには物品だけでなく「動植物」「音楽」しまいには「海」まで収蔵されています。だって小惑星一つ分の巨大博物館。お人好しで仕事熱心な学芸員孝弘は、一つ一つの依頼に頭を悩ませるのです。

 

時には謎を解き時には部下の愚行に翻弄され、見ていて気の毒になるような苦労の数々。私の中で一番面白かったのは「永遠の森」という作品かな。

 

孝弘の直属の部下マシューは最新式のいわゆるOSを頭に内蔵しています。だから先輩たちにえらそーなのね。やな若造。独善的なエゴ丸出し男は自分の手柄のために結構な無理をやっちゃいます。刑事ものでもよくある「功を焦る新人」ってやつね。で、御多分に漏れず大失敗、大反省。人間ドラマです。そこに絡んでくる美術品の描写が良かった。愛憎劇と美しい植物時計。この作家さんは、ほんとにイマジネーションが豊かなんだなと思います。

 

手のひらサイズのドーム型の時計は、その時間を示して内部の景色を変えます。朝は若葉、夕方は紅葉みたいな。そんなんあったら確かに買うね。とても素敵。女性ならではの感性ですね。

 

そして9篇は独立した1話完結なのですが、少しずつ伏線が張られていて最終話「ラヴ・ソング」へと続いていきます。忙しい仕事を言い訳に、嫁をないがしろにしてきた孝弘くん。私は1話目から思ってました。事あるごとに「嫁が騒がしい」だの「相手をしてあげなきゃいけない」だの君は何を言っているんだ。

 

そんなん言ってたら嫁さん怒ってえらいことになるよ?と思っていたら案の定嫁独立宣言。でもちゃんと最終話に向けて話は集約されていき、最後には「そうなったか!」と胸を打つラストが待っていました。1冊の本を通して、ラブストーリーとしても読めた作品でした。すっきりの読後感です。

 

 

 

しかし思ったのよね、一言に「小説」といってもいろんなスタイルがあるんだなって。まあ、当然のことなんですが。

 

最近私、「色々削ぎ落とした作品」を多く読んでたんですね。説明しない作品。言葉は少ないし謎解きしない。自分で考えてねって話。だから、この「永遠の森」を読んでちょっとびっくりしたの。

 

ものすごく細かく説明するんですよ。もちろんSFだから世界観を説明してくれないとこちらもわからないから、地の説明文が多くなるのはわかるんです。でも、設定説明以外も細やかに説明する。こないだなんかで読んだのよね、片岡義男さんと江國香織さん(だったと思う)が対談をしていて。

 

「ドアを開ける」って書いたら「入って、ドアを閉めた」って描写もしたくなってしまうんだって。だから小説の中でなかなか時間が進まないんだって。私結構びっくりしたのよね。だって、ドア開けたら入って閉めるに決まってるやん。

 

それいちいち書くの?書いてたら話進まんくない?でもそういう丁寧な描写が、読む人間にリアリティを与えて読み込める小説になるっていうんですね。細部は違ったかもしれませんが、なんかすごく印象に残ったんです。

 

菅浩江さんもそういうタイプの作家さんなんだろうなあ。だからゆったりと落ち着いて読める短編に仕上がっているのかなと思いました。だってテーマが「美」だもんね。「バーンとなってがーんとなって」みたいなことしてちゃ表現出来んもんね。

 

私がなかなか手にしない分野の小説、おすすめ頂いた姉さん、ありがとうございました!綺麗なもの見て心が洗われたよ!姉さんのルーツがよくわかった。そしてまた「バーンガーンぎゃー!」みたいな小説を書く私。

 

なんか中編ぐらいで終わりそうな気がしてきた。エグいのはあんまり長くないほうがいいのかなと思いだして。短いほうがショックを与えられるような気がしたのね。「ショックを与えよう」って考えがもう「ぎゃー!」ですね笑

 

さあーひと心地ののちに再始動です!ひとり寂しく頑張りますっ。