読書感想文34 田中慎弥 切れた鎖 | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

はい、めんどい。でも好き。

 

こんばんは、渋谷です。

 

 

 

この人めんどいですねー田中慎弥さん。「共喰い」で芥川賞獲ったとき、「もらっといてやる」って言ってた人ですね。めんどいですねーついでにこじれてる。


大学受験に失敗して以来延々ニートしてたんだって。バイトすら一瞬もせずに、33歳で作家としてデビューするまでシングルで育ててくれたお母さんに食べさせてもらってたって。ちょっと聞いただけで、女からするとかなり引く経歴の持ち主です。

 

でも、人間としてこんな人ってめっちゃ興味引かれますよね。何をどうしたらそんなことになったんだ。何を考えてどういう精神で作家を目指したんだ。そのめんどさの奥にあるものが見てみたい。というわけで、三島由紀夫賞受賞作の「切れた鎖」です。




この本は短編集で、「不意の償い」「蛹」「切れた鎖」の3編が収録されています。「蛹」は川端康成文学賞受賞作です。「蛹」はさなぎと読むのですね。


「不意の償い」は同じ団地の幼馴染ふたりが自宅で初えっちしてる最中、ふたりの両親計4名が働くスーパーが火事になってるのを窓の向こうに発見しちゃうところから、色々おかしくなっていく話。


親を亡くしたふたりは結婚します。けれど男は、自分たちがセックスしてたせいで両親が死んじゃったんじゃないかみたいな、妙な罪悪感に苛まれることになるのですね。


で、ある日出勤前の嫁さんになんかムラムラして玄関でやっちゃう男。嫌がる嫁を半ば犯した形なんですが、それで嫁さんは妊娠します。めでたいことであるはずなのに、なんか罪悪感が再燃してしまった男はそこからおかしくなっていく。


狂人が見る景色を文章でまざまざと見せつけられます。多分男の中にあるのはセックスに対する罪悪感。ああ火事か。もっと燃えればいいのに。親が帰ってこなければもっとセックスできるよなーと考えた自分が許せなかった。めんどーい。もちょっとカラッとしたら?と思いますけどね。この人はとても思いつめるタイプなんでしょうね。


簡単には表現できない複雑な心理描写です。自分が無理矢理やった時の子じゃないと思いたいばかりに嫁さんの不貞を疑ったりするんだぜ。子供が生まれる段になると男は正気を取り戻します。弱い……なんて弱いのだお兄ちゃん!


でも男の人ってそーなのかもね。繊細。まあ確かに嫁が孕んだところで、自分の子って確証はないわけで。 


だからって心の傷に翻弄されすぎよー。自分の夫がこんなかったらと思ったらぞっとしますよ。もっと強くなってちゃんと稼いできてよー。そんな具合に、嫁さんの立場に立ってあんまり冷静に読めませんでした。とにかく描写が怖かった。




「蛹」はカブトムシが主人公です。土中で幼虫してる間に色々見ちゃって、成虫になっても土から出てこれなくなったカブトムシの話。


カブトムシくんは幼虫だった時に母の死骸を見てしまいます。これまたセックスした上に卵産んで死んじゃう母親に、罪悪感を覚えて「自分はそんなことはしない」と思い込んじゃうんですね。


だから地上に出られなくなっちゃったんです。母を犯したくないんですね。だからずーっと土の中にいるカブトムシくん。これって引きこもってた田中さん自身のことなのかなと思います。


セックスに対する罪悪感も、田中さん自身が抱えてるものなのかなあ。……なにがあったんだ。一読者として心配です。




「切れた鎖」は名家である女系家族の断絶の話です。これはもう複雑。短編から中編の長さなんですが、内容の濃さは超、長編です。


私なんかがざっくり説明するのもはばかられる……。重くて多岐に渡るテーマ。バラして3つぐらいの長編がかけそうな重厚さ。女系家族に受け継がれるプライドと愛憎、枯れていく故郷への哀愁、自分を棄てていく男への憎しみ、その上人種差別に出生の秘密だ!


なんていう混乱と絶望の世界。でも田中さんが

男性作家だからか、どれだけ感情にまかれても登場人物は冷静さを失いません。めちゃくちゃな最後を迎えたっていいはずなのに。そうなるんだろうと思いながら読み進めていたのに。


うーん、田中慎弥さんという作家さん、すごい人なんですね。めんどい男、という印象は変わりませんが、好きだなあと思いますこの人。


結婚相手にしたいとは思いませんが、少し離れたところから観察していたい。だってこの方はとてもとても繊細な人。こんな男の人は見たことない。他の著作も読みたいと思います。特に「共喰い」。


若者の暴力と性への衝動だって。田中さんが書くそんなのって確実にむちゃくちゃだ。読みたい。菅田将暉主演で映画化とか。読みたい。映画もいいけど本で読みたい。


またひとり好きな人を見つけてしまいました。今回は男だね。読みたいけど、続くと結構病みそうなのでちょっとインターバルをおこうと思います。それぐらい濃くて深い泥沼みたいな人だった田中慎弥さん。


次はおすすめ頂いた本を読むよ!私はあまり読まないSF分野!


新しい発見が待ってるといいな。


ではまたー。