共有物分割により,価格賠償として他の不動産が交付された場合の登記手続について



平成24年司法書士試験の記述において,共有物分割が出題されました。


共有物分割の対象となる甲土地については,共有物分割を原因とする持分全部移転の登記となる点は問題がないと思いますが,共有物分割により持分を失った民事太郎が,価格賠償として,民事次郎から乙土地を譲り受けた場合の登記について,その登記原因が問題となります。



この点「共有物分割による交換」とするか,「共有物分割による贈与」とするか,あるいは,「共有物分割による代物弁済」とするか,問題となります。



これに関する文献としては,以下のようなものがあります。


「共有物分割による交換」については,『不動産登記総覧(新日本法規)』。


「共有物分割による贈与」については,『新訂不動産登記書式精義(香川保一編 テイハン)』。


「共有物分割による代物弁済」については,『新訂不動産登記書式精義(香川保一編 テイハン)』。




交換については,価格賠償として,土地を交換した場合とあり。

贈与については,価格賠償として金銭に代えて土地を贈与したときとあり。

代物弁済については,価格賠償として金銭をもって定め,その金銭債務の代物弁済として土地の所有権を移転した場合とあります。



つまり,ここから分かるのは,どのような法律行為により,当該土地が譲渡されたかという点にあります。



しかし,贈与については,金銭に代えて(金銭を支払うのではなく)土地を譲渡するのであれば,それは交換ではないかと考えられますので,この点は,私の能力では限界があり,もう少し勉強したいと思います。(あらかじめ,土地を譲渡することを決めていた場合に交換となるのでしょう)


交換と贈与の違いはどこから来るのか分かりませんが,譲渡する法律行為が明確にある場合は,これによると見ることができます。


あるいは,金銭の支払以外については,交換とする見解と,贈与とする見解があるのかもしれません。



本試験を見ると,交換とも贈与とも見ることができます。


しかし,当初から,乙土地を譲渡するという趣旨での共有物分割(価格賠償)であったのであれば,それはやはり,交換であると思います。



ですが,贈与でも正しいのではとも思ってしまいます。


いずれにしろ,価格をもって定めていない,代物弁済とはならない点は確かかと思います。



このように,「共有物分割による交換」が正解ではないかと思っていますが,「共有物分割による贈与」が不正解かは疑問ですので,この様に解答した方も,点はもらえるのではないかと。



次に,この点について,本試験の傾向から見て見ます。



本試験の択一では,登録免許税の問題で,「共有物分割による交換」の場合の税率を問うものがあります(平成10年19問)。



交換と贈与とが,見解によって,対立しているのであれば,本試験では,交換としている点から,今回の本試験の記述でも,「交換」ということがいえます。



このように,交換とする見解と,贈与とする見解があると考えた場合に,次の資料が参考になります。


それは,法務省から発出された通達(登記記録例)には,「共有物分割による交換」とする所有権移転の登記の記録例があります。

これは,共有物分割があった場合の他の不動産の登記記録の例として掲載しています。





以上,無益的考察であったかもしれませんが,私的に,気になった点ですので,今回取り上げて見ました。























【登記攻略メモ005】 根抵当権の分割譲渡後の極度額の変更と利害関係人




今回は,根抵当権の分割譲渡後の極度額の変更と利害関係人について見ていきたいと思います。



根抵当権の分割譲渡がされた後,原根抵当権において,極度額増額の変更をする場合,譲受根抵当権の根抵当権者は,利害関係人に当たるか。



答えは,『利害関係人に該当する。』です。



分割譲渡を受けた根抵当権は,分割後の原根抵当権と同順位となるので,分割譲渡後の原根抵当権が極度額を増額すれば,分割譲渡を受けた根抵当権者にとって不利益となるからです。



よって,分割譲渡後に,原根抵当権の極度額の増額の変更をするときは,譲受根抵当権の根抵当権者の承諾を得る必要があり(民法398条の5),この登記の申請において,その者の承諾証明情報を提供する必要があるということになります。



なお,根抵当権の分割譲渡が仮登記によってなされている場合においても同様に,原根抵当権の極度額増額の変更においては,分割譲渡を受けた根抵当権者の承諾が必要であるとされています。




《登記攻略メモ》


□ 分割譲渡後に,原根抵当権の極度額の増額の変更をするときは,譲受根抵当権の根抵当権者の承諾を得る必要がある。


□ 分割譲渡を受けた根抵当権は,分割後の原根抵当権と同順位となる


□ 1番根抵当権が分割譲渡した場合,原根抵当権は,『1番(あ)根抵当権』となり,譲受根抵当権は,『1番(い)根抵当権』となります。
















【登記攻略メモ004】 破産と根抵当権の元本確定の効力の消滅



今回は,破産と根抵当権の元本確定の効力についてみていきたいと思います。

※一部,根抵当権登記の実務という本に基づいた見解とさせていただきます。



まず,元本確定事由の一つとして,債務者又は設定者の破産手続開始の決定(民法398条の201項第4号)があります。設定者等にはさんがあれば,根抵当権の元本は確定するということです。



しかし,破産手続開始の決定の効力が消滅したときは,元本は確定しなかったことになります(同条2項本文)。ただし,これにより確定したとして,根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは,破産手続開始決定の効力が消滅しても,元本は確定します(同条2項ただし書)。



では,この『破産手続開始の決定の効力の消滅』とは,どのようなものか。


この点については,次の2点に分けて考える必要があります。



① 破産手続き開始決定の取消し

② 破産廃止




≪① 破産手続き開始決定の取消し≫

この取消しは,破産手続開始の申し立てに対する不服申立により,その開始決定が取り消されることであり,この取消しがあると,破産の効果が遡及的に消滅します。そして,この取消し決定が確定すると,破産手続は終了します。これにより,破産申立をした債務者又は設定者は,破産手続開始決定を受けなかったことになります。


よって,この取消しについては,民法398条の202項の『破産手続開始の決定の効力の消滅』に含まれるとされ,取消しの場合は,元本は確定しないということになります。





≪② 破産廃止≫

破産廃止には,同時廃止,異時廃止,同意廃止とがあります。いずれにおいても,破産廃止が確定することにより,破産手続が将来に向かって中止されるだけであり,①のように遡及的に消滅するということにはなりません。


よって,破産廃止については,民法398条の202項の『破産手続開始の決定の効力の消滅』に含まれないとされ,破産廃止の場合は,元本は確定した状態ということになります。


なお,同意廃止の場合は,民法398条の202項の『破産手続開始の決定の効力の消滅』に含まれるとされ,この場合は,元本は確定しないと解されているようです。






《登記攻略メモ》

□ 根抵当権の設定者又は債務者の破産手続開始の決定があれば,元本は確定する。


□ しかし,破産手続開始決定の効力が消滅したときは,原則として,元本は確定しなかったことになる(2項本文)。


□ 破産手続開始決定の効力が消滅したとしても,元本が確定したとして,債権の譲渡等により根抵当権を取得した者等があるときは,元本は確定する。(上記の例外 2項ただし書)


□ 破産開始決定の取消しがあれば,元本は確定しない。ただし,2項ただし書。


□ 破産廃止のときは,元本は確定したまま。ただし,同意廃止。