
論語 陽貨第十七
【原文】
子之武城聞弦歌之聲夫子莞爾而笑曰割雞焉用牛刀
zǐzhīwŭchéng wénxiángēzhīshēngfūzǐwǎnĕrérxiàoyuēgējī
yānyòngniúdāo
子游對曰昔者偃也聞諸夫子曰君子學道則愛人
zǐyóuduìyuēxīzhĕyǎnyĕwénzhūfūzǐyuējūnzǐxuédàozéàirén
小人學道則易使也子曰二三子偃之言是也前言戲之耳
xiǎorénxiáo/xuédàozéyìshǐyĕzǐyuēèrsānzǐyǎnzhīyánshìyĕ
qiányánhū/xìzhīĕr
【読み下し文】
子、武城に之き絃歌の声を聞く。夫子莞爾として笑いて曰く、鶏を割くに、
焉んぞ牛刀を用いん。子游対えて曰く、昔者偃や、諸を夫子に聞く。
曰く、君子道を学べば則ち人を愛し、小人道を学べば則ち使い易し、と。
子曰く、二三子、偃の言是なり。前言は之に戯れしのみ。
【語句解説】
之 ・・・行く。
武城 ・・・魯の国の地名。小さな町であった。
弦歌 ・・・琴の音に合わせて歌う
夫子 ・・・ 先生。孔子をさす
莞爾 ・・・にっこりと笑う。
雞 ・・・鶏
子游 ・・・孔子の弟子、孔門十哲のひとり。
対 ・・・お答えする。目上の人に使う。
偃 ・・・子游の名。わたくし。
諸 ・・・「これ」と読み、「これを~に」と訳す。
君子 ・・・ここでは為政者。
小人 ・・・ここでは一般の庶民。
易使也 ・・・ 従順になりやすい。
二三子 ・・・ お前たち。門人たちに呼びかけることば。
是 ・・・ 正しい。「ぜ」と読む。
前言 ・・・さっき言った言葉。
戯之 ・・・ 冗談をいう。「之」は「偃」をさす。
耳 ・・・「~のみ」と読み、「~だけだ」と訳す。断定の意を示す。「而已」に同じ。
【東郭解譯】
孔子先生は弟子達と魯の武城の町へ行ったのですね。武城は、弟子の子遊が治めていて、
町と通ると弦歌が聞こえており、孔子先生は善政を敷いていると認識してにっこり笑って
“鶏を処理するのにどうして牛刀を使う必要があろうか?”(孔子は武城の町を治むるに、
子游=牛刀のほどの力量ある人物であれば当然なことで、小さい刀でも充分であったな!)
と云ったそうです。子游はこれを聞いて、先生は昔、君子が道を学べば即ち人を愛し、小人
が道を学べば即ち使い易しと仰いましたね?と疑問を呈しました。
なにしろ孔門十哲といわれた子游ですから、自分が小人で使い易いと云われたと思い、
すかさず反論したのです。これを聞いて孔子は連れの弟子達を振り返り“”子游の云ったこと
は、本当じゃ、私が悪かった“と云ったとか。孔子先生は、相手を褒めた心算が、逆に誤解
されたなと覚り、謝っています。
着目したいのは、二人のやりとりであり、先生と生徒の呼吸が合っています。
師弟間に充分な信頼関係があるのが判ります。
現在、諺になっている「鶏を割くに、いずくんぞ牛刀を用いん」は、物事の処理に際して
適当な器(道具)を適用せよ!」と誤用を指摘することばですが、この論語を読みますと
孔子先生の言葉の誤用といったところでしょうか。まあ、適材適所を云った言葉ですね。
《2016.3.2 周南市 東郭》
※写真は「閑谷学校あいうえお論語」公益財団法人特別史跡旧閑谷学校顕彰保存会編です。