男は夢を見た。
夢の中で男は「きゅうしゅう大学」のキャンパスに立っていた。
男はこれから始まる大学生活に胸を弾ませて辺りを見渡した。
真緑のキャンパスに、綺麗な講義棟、そして満開の桜並木。
そしてキャンパスの中央にはお洒落なカフェや学生食堂があり、数多くの生徒でにぎわっている。
男は周りに映る景色に目を輝かせながら、あることをふと思い出す。
「そうだ、今日はクラスオリエンテーションの日だ」
そう、今日は大学登校日の初日で、クラスの対面式があるんだった。
男はこれを楽しみに今日ここまで来たのだ。
いや、もっと言うなら今日この日のために今まで死ぬ思いで勉強して受験戦争を戦い抜いたのだ。
男は講義棟の階段を上り、指定された教室を目指す。
学生便覧を確かめながら、自分のクラスが記載されている部屋までたどり着くと、ゆっくりと扉を開いた。
そこには自分以外の全てのクラスメイトが既にそろっていたようだった。
男は軽く部屋の中を見渡す。
「・・・やっぱり」
男は喜びを隠し切れず、声に出す。教室にいる全員が男を見る。
「やっぱり、みんなも受かってたんだね!」
教室にいる全員はまだ男を見続けている。彼らに感情は見いだせない。
「俺、帰ってきたよ! 約束どおり、帰ってきたよ!」
教室にいるクラスメイトは全員、小学生の時の男の同級生たち、まさに彼らだった。
きっと彼らは今まで“ふくおか”に留まって、順調にきゅうしゅう大学に受かることができたんだ。
彼らは男の言葉にこれといって反応を示さない。
男はもう一度言う。
「俺、帰ってきたよ!」
すると彼らの中の1人がゆっくりと立ち上がってこう言った。
「3ヶ月、長かったね」
彼はあの近所でいちばん仲の良い幼馴染だった。男は言う。
「ああ、確かに3ヶ月じゃなかったけど、こうしてここに帰って来れた。遅くなったけど今から一緒に遊ぼう!死ぬほど楽しもう!」
大学生になった幼馴染はこう言う。
「もう遅いよ」
「・・・え?」
困惑する男をクラスの全員がじっと見続けている。そして誰からとも無く次々と口を開いた。
「もう遅い」
「手遅れ」
「さよなら」
・・・
そして最後に幼馴染の彼がこう言う。
「きみはここに帰って来るべきじゃなかったんだ」
・・・
そこで男は目を覚ました。
夢か・・・、男は息をついた。
それはここ“せんだい”に来て初めての朝のことだった。
コミブロ最終回企画 『 One Emblem Has More Stories 』
第7説 ~BLOG works me.(前編)~
―1年と6ヶ月前、まつやま―
まつやまでは既にセミが鳴き始めた。外に出ただけでもじんわりと汗がにじむ。
6月。
男は今年、受験生であると同時に最高学年になった。
つまりそれは、まつやまひがしの数ある全ての行事に「積極的に」関わる必要がある、ということを意味する。
男は決してこの2年間、消極的に行事に参加していたわけではない。自分のやれることを最大限やってきたつもりだ。
しかし最高学年ともなれば、少なくとも自己ベストの主体性を見せなければいけないことは確かだ。
男はこれまでの自分の人生での学校行事を思い出してみた。
徒競走で転び、最下位に終わってトラウマができた小学校の運動会。
特に見たいものも無く、たこ焼きだけ買って帰った中学校の文化祭。
生徒会役員の選挙に落選して、それ以来ことごとく学校行事をサボった中学時代・・・
男は自分の「学校行事」との縁の無さを実感した。
しかしせっかくまつやまひがしに来たからには、そんな自分を脱却せねば。そう思いながらここで2年間を過ごした。
そんな男に「運動会で幹部をやってくれないか」というお誘いが舞い降りたのは、セミが丁度鳴き始めたこの季節だった。
6月。
「ぐらげき」なんて見たことも無いのに、どうして自分に「副ぐらげき長」が務まるだろうか。
正直、嬉しさより不安の方が大きかった。
どうしてぐらげき長は、その補佐に自分を選んだのだろう。
男はもう一度、自分の学校行事での怠惰を思い出してみた。
するとどうしようもなく胸が痛んだ。
「・・・変わらなければ」
古い自分を脱ぎ捨てるには、このチャンスを生かすしかない。
不安はいつしか決意へと変わっていた。
7月、8月と男は演劇の資料を何度も見返し、劇中歌を探すためCDを借りては聞きを繰り返し、ぐらげきを共に作り上げる5人のパートナー達と何度も徹夜で会議を重ねた。
そして男はその過程で、かけがえのない仲間を得た。
この努力は一生忘れることは無いと言いきれる。
そんなとき1つの問題が浮上した。
それは思ったよりも深刻な問題だった。
自分達のぐらげき全体が根底から崩れかねない、重要な問題で、解決が急がれた。
―continued to 第8説///