周りではすすり泣く声が多く聞こえた。
おそらく感涙だと思われる。
達成感?それとも寂寥感?
どちらだとしても、この日は誰もが自分に誇りを持ち、涙を流すべき日だった。おそらく世間的にも。
特に女子はみんなと言っていいほど涙を流していた。友人同士で抱き合う姿もあちこちで見られた。
誰もが感慨に浸り、「今」という時間を噛み締めていた。
男ももちろんその1人だった。
しかし、他の人々と違うことが1つだけあった。
それは、「全く涙を見せない」ことであった。
男はあの日以来、もうここでは二度と涙を流すまい・と心に強く誓っていたからだ。
最後のHRが始まって、クラスの全員がぞろぞろと席についた。
クラス担任の先生が重苦しく式辞を述べている間、男はずっと他のことを考えていた。
「これで・・・良かったんだよな」
HRが終わり、担任が「3年3組、解散!」とぎこちなく叫んでから、男は改めて、手元の紙切れを広げてみた。
そこには大きな文字で「まつやまひがし高校、卒業証書」と書かれていた。
男はざわつく教室の中でひとり、ゆっくりと目を閉じた。
そしてこんな声を聞いた。
「これは、“始まり”に過ぎないんだ」
コミブロ最終回企画 『 One Emblem Has More Stories 』
第10説 ~The Day Of Decision -Truth mix- ~
―1年と68日前、まつやま―
運動会も終わり、3年部は一気に受験モードになった。
が、受験モードに切り替わったのは先生方だけで、生徒の方はまだ運動会の余韻に浸っているようだった。
そんなとき、夏休みに受けた模試の結果が帰ってきた。
結果は見るまでもなく「最悪」だった。
今までC判定をもらっていた“こうべ大学”にE判定が付いた。
男は志望校をここできっぱりと変えようと思った。
それは身の丈にあってないからではなく、この大学を目指す意味が見えなくなってきたからだ。
このまま行くと、意気は上がらず、判定もEのままずるずると引きずってしまいそうだ。
さてどうしたものか。
今自分に必要なのは「やる気を上げてくれる何か」と、「大学にまつわる広い情報網」だった。
その2つを兼ね備えるまさに“神器”は存在するのだろうか。
「まつやまひがしに恩返しがしたい」
これは前々から男が思っていたことで、自分ができる何かを必ず返そうと考えていた。
今で言うなら、きっとそれは「仲間の受験意識を高めること」だろうと思った。
しかし、それは1人で成せることではない。
「受験は団体戦」
そんな言葉を進路課長が集会で私たちに投げかけていたのを思い出した。
―受験意識を高め、大学の広い情報を得、かつみんなで作り上げるもの・・・
そこで男はひらめいた。
男は気づけば自分の部屋のパソコンの前に座っていた。
夜なのに電気もつけず、コンピュータの放つ明かりだけを頼りに自分の位置を確かめながら座った。
男はブログ会社の新規作成フォームに個人情報を入力し、IDとパスワードを取得した。
ここまでの作業に全く迷いは無かった。
しかし最後に確認でパスワードを入力する時は、さすがに緊張した。
男はEnterボタンを押した。
思ったより強く押してしまったようで、部屋中にその「カチッ」という音が響いた。
「あなたのパスワードを認定します。作業完了です」
コンピュータのウィンドウにその言葉が表示されて、男はひとまず息をついた。少し笑みがこぼれた。
これは、学校行事の余韻を断ち切るための「終わり」と心を受験モードに切り替えるための「始まり」を同時に意味した。
男は10秒ほどのブログアップロードの間、ふと何気なく卓上に置かれていたカレンダーに目をやった。
今日は、9月21日か。
もうこの時点で運動会が終わってから10日以上経っていた。
男は軽く深呼吸して、もう一度コンピュータの画面に目をやった。
するとこう表示されている。
「最後に画像データを入力してください」
男は焦った。まだ作業は終わってないじゃないか。
しかも「画像データ」と言うことは写真をパソコンに取り込めということだろう。
男は真っ暗な部屋を見渡しながら、ふと一枚の壁紙を見つけた。
『誰にも目指してるゴールがある』と書かれた一枚の壁紙である。
それは男がとある決意を込めて自分で作った壁紙で、偶然目についたことに喜びを感じずにはいられなかった。
男はそれを携帯のカメラで撮って、パソコンにメールで転送し、ブログの画像データ欄に貼り付けた。
しかし後から知人からのメールで気づいたのだが、その壁紙には「○」という漢字一文字で男の名前が記されていたのだ。
しかしそれは大した問題ではなかった。
「それでは実際にブログにログインします。パスワードを再入力してください」
コンピュータに急かされて、男はもう一度、4つの数字でパスワードを入力した。
すると画面には、初期設定ながらほぼ完成形の「ブログ」の姿が現れた。
男はこれもとある決意を込めて「勝ち抜くブログ」と名づけた。
「勝ち抜くブログか・・・」
男は実際口に出してみると、何故か笑いがこみ上げてきた。
それは自分がこれから管理人をやっていくという覚悟の笑いだったのかもしれない。
こうして「勝ち抜くブログfeat.東高生
」は生まれた。
これが正しいことだったかは、男には分からない。おそらく誰にもわからないだろう。
ただ、男のまつやまひがしでの集大成として、「勝ち抜くブログ」は生まれた。
そしてそれを前身にして、この「大学コミュニティブログ」が生まれた。
これだけが事実である。
これらの事実について是非を考えることはしないし、できる自信も無い。
ただ、男にとってこれらの事実は、少なくとも人生の中で大きな意味を持ったし、ひとつの『駅』でもあった。
しかし、何度も言うように、これは「通過点」でしかない。
念のため、もう一度言っておこう。
これはあくまで「通過点」なんだ・と。
―continued to “終結”///