15.
今日からはまた休みもなく部活だけの毎日が始まる。
昨日までの旅行は、蓄積した部活の疲れや運転の疲れなどがありながらも、思う存分に楽しむことができた。
昨日までの三日間は、俺にとって、いや俺たちにとって一生の思い出となるものだろう。
しかし今回の旅行は、ただ単に楽しいだけのものではなかった。
美波の悩みを聞いたことやそれに対する真佑の反応が頭から離れることがなかったのだ。
それらの事は俺にとって、辺りを包み込み、平穏を破り、一瞬の時間に多大な被害をもたらす嵐のようだった。
美波は、早速だがしばらく部活を休むことにしたようだ。
美波から届いたメールには、「早速だけど、敦の言葉に甘えて少し休んで、ゆっくりと色々考えたい」と書かれていた。
そのメールを見て少なからず美波のことが心配になったが、元は俺が休んでいいと言いだしたのだから、そっとしておかなければならない。
それが、今の俺が美波にしてあげられる精一杯の事なのかもしれないと考えながら、「なんかあったらすぐに連絡してな」と簡単に返信した。
「おい、何で美波ちゃんいないんだよ!」
部活とバイトとの両立で苦労していながらも毎日欠かさず部活に顔をだし、人一倍働いていた美波が今日は来ていないことを部員は不思議に感じたのだろう。
特に美波に恋心を抱いているノブにとっては非常事態で、来て早々俺にそう切り出した。
「疲れ溜まってるみたいだから、しばらく休んでもらうことにしたからさ」
「なんかあったのか?」
ノブは事の重大さに気付いているのだろうが、美波のことをむやみやたらに他人に話すわけにはいかず、「なんもないよ」と言うことしかできなかった。
そのことを不満に感じていたのはノブの表情からすぐに読み取ることが出来たが、ノブは何も言わずに練習の支度を始めた。
いざ練習が始まってみると、美波の存在の大きさを実感した。
マネージャーは美波一人だけではないのが幸いであったが、美波は細かいことにもよく気が付き、練習の流れを見て小道具の準備なども小まめにしてくれていたが、残りのマネージャーはそういった点には中々気付けない。
普段美波がしてくれていたことを今日は選手自身がしなくてはならず、美波の存在のありがたさを選手一人一人が実感した。
無論、自分たちの練習のことを自分たちでやるのは当たり前であるため、選手は誰ひとり文句は言わない。
しかし苛立ちが積もっていることは見ていればわかる。
普段は声を出しあい、活気のある練習を作っていても今日だけは何故かコートが静まり返っている。
終始スムーズな流れが作れないまま、練習は終わってしまった。
いつもなら練習が終わってはっちゃけている先輩も、今日だけは異様なまでに大人しく、皆無口にシューズの紐をほどき、ストレッチをしていた。
帰り道、俺はいつも通りノブと帰ったが、いつもはここに美波がいて三人でいたが今日は二人。
二人の中にも会話はなく、沈黙があるだけであった。
部活の時の静けさといい、今の沈黙といい、嵐の前の静けさのようにしか思えなかった。
「旅行、楽しかったか?」
その沈黙を破ったのはノブで、その沈黙を破ることを少し恐れたのか、おそるおそる声を掛けてきた様子だった。
「楽しかったよ。運転は疲れたけどな」
「長時間の運転は疲れるよな。人の命預かってるから余計に神経使うしな」
「そうそう。みんなの事考えて、小まめにパーキングとかよらなきゃならないしさ」
「なるほどね。それで今日部活なんだもんな。本当お疲れ」
「サンキュー。ノブは、この休み何してたの?」
「家で色々あってさ、何もできなかったよ」
「色々?」
「うん。な、飯食っていかね?」
「お、おう。別にいいけど……」
「その時に話すよ」
「わかった」
それだけ話して、俺たちの間にはまた沈黙が流れた。
無言で肩を並べて歩く二人の男を見送るかのように、烏が一声啼いた。