14.
「ねえ、敦」
みんなで話していると、隣に座っていた真佑からみんなに聞こえないほどの小声で声を掛けられた。
「何」
「ちょっと、話があるんだけど……」
真佑は俺の目を見ることはなく畳の縫い目をじっと見つめたままだった。
「どうしたの」
みんなの表情を窺うようにキョロキョロし、居心地の悪いような表情をした。
俺もその視線の後を追うようにみんなを見てみると、英雄は喋ることもままならないほど酔っていて、他の女子たちも同じようにいつもの倍ほどのテンションになっていて真面目な話が出来るような環境ではないことを察した。
それに気が付いた俺は、「じゃあ外出るか」と言うと真佑はほっとしたようにふっと息を漏らした。
「ごめん、俺と真佑ちょっと買い出し行ってくるわ」
「あ、なら煎餅買ってきて」
「私も甘い物欲しい」
英雄と梓からの注文を聞き、浴衣のまま部屋を後にした。
旅館から出てコンビニのある方向に歩いていくと、真佑は俺の一歩後ろを歩いてくるような形になった。
「話しってどうしたの」
真佑は俺の後ろをついてくるだけで喋る気配がなかったために、俺はじびれを切らし声を掛けた。
「うんと……あのさ、このこと誰にも言わないで欲しいんだけどさ……」
「うん」
「敦はさ、美波のことが好きなの?」
「はあ??」
何か悩みなどの相談かと思っていた俺は、真佑のその素っ頓狂な質問に驚きを隠せず思わず大きな声を出してしまった。
「何馬鹿なこと言ってるの」
「だって……さっきも二人で展望台行ってたし……」
「あれはたまたまだって」
「でもさ……きっと美波は」
「ん?」
「美波は、好きだよ。敦のこと」
「気のせいだよ気のせい」
「私にはわかるの」
「根拠は」
「女の勘」
「出たよ女の勘」
俺はその根拠のない真佑の推測に笑ってしまった。
「なんで笑うの」
「だって、女の勘って」
「女の勘は当たるんだよ。知らないの?」
「それは聞いたことあるけど、ただの勘違いだってこともあるだろ。美波から直接聞いたならまだしもさ」
そういうと、真佑は何も返してこなくなった。
真佑は俺のちょっと後ろを歩いてるため表情がわからず、今真佑がどんな面持ちでいるのかが少し気になった。
「ねえ、美波はなんかあったの?」
しばしの沈黙のあと、気まずい時間をたちきるかのように真佑は違う話題をふってきた。
「うーん。なんか家庭でいろいろあるみたい」
「そうなんだ。大丈夫かな、美波。なんか笑ってても、時々くぐもった表情する時あるしさ」
「真佑も気づいてたのか」
「まあね」
「さっきはその話を聞いてたんだけど、もう大丈夫だと思う」
「ならいいんだけどさ。さっきもまだなんとなく、暗い表情していたような気がしたからさ……」
そうこう話しているうちに、コンビニにつき頼まれたものなどをいくつか買った。
帰り道も真佑とバレーの話などをしながら再び旅館に向かったが、真佑に言われたことがなぜか頭から離れなかった。
美波が俺のことを好きだとは思わない。
同じように、俺が美波に対しそのような特別な感情を抱いているとも思えない。
同時に、そんなことを聞く真佑のことも少し気になった。
――もしかして真佑……
そんな訳ないか
そんな自惚れはすぐさま振り払ったが、次に真佑が美波の表情がまだ暗かったということが引っ掛かった。
美波はまださっき俺に話してくれたことを整理できていないのかもなと感じた。
――無理もない。ゆっくり時間をかけて、美波を支えていかなきゃ
そう自分に言い聞かせるしか俺にできることはなかった。
結局旅館に戻り何時まで話していたのかわからないが、みんな雑魚寝という形でそれぞれ寝てしまった。
帰りの準備もしてあったため、チェックアウトギリギリまでみんな寝ていて、昼ごろ旅館を後にした。
帰りは車に美波と真佑を乗せることになり、どこかぎくしゃくして気まずい思いになった。
しかし美波と真佑は何事もなかったかのように、普通に会話をしていて時々俺にも話題を振ってきた。
そうして気が付いた時には二人は寝ていた。
俺は運転をしつつ、様々なことが重なってどこか複雑な気持ちでいた。
運転席横に見える海は太陽の光に照らされ、キラキラとした波間を覗かせていた。
街並みの風景も、自然の色も、信号の色でさえもやけに鮮やかに見える。
しかしそんな情景とは裏腹に、俺の心中は雷雨がやってくる直前の空のようなとても薄暗い色を帯びていた。