第5章 『家族の在り方』 10 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




10.



俺は答えに詰まり無言のまま歩いていると、いつの間にか展望台についていた。
展望台のデッキにあがるなり、「わー」っと美波は柵の所まで走って行った。
俺も美波に続き柵の所まで歩み寄る。
町の規模も小さいし、大きな建物や住宅街があるわけでもないため、遠くに広がる小さな町からはぽつぽつとした明かりがこぼれていた。
しかし、その変わり星空はとても美しかった。
町より更に奥に広がる海は空と同じ色をして同調しあい、星の煌めく夜空が大きくなったかのような錯覚に陥った。
東京タワーや六本木ヒルズから見る夜景ほどではないが、都内では街明かりがとても綺麗ではあるがそれはどれも人工的に作られた美しさだ。
しかし、今俺たちの目の前に広がっているものは人の力が一切加わっていない、全て自然の美しさである。
都内ではこの美しさは絶対に見られないものである。
「綺麗」
「だな」
美波の表情には自然に笑顔がこぼれていたが、やはり儚げなのは変わりなかった。
「こういう綺麗な景色、生まれて初めて見たよ」
「見たことなかったのか」
「旅行とか行ったことなかったからさ」
「え?」
「もちろん、修学旅行とかは行ったことあるけどさ。家族旅行も行ったことないし、友達とでも今回が初めてだよ」
友達と旅行に行くということは初めてでもなんの違和感も感じないが、家族旅行にすら行ったことがないとなるといささか違和感を覚える。
その時ようやく、美波は家庭環境に悩んでいるのだということに気が付いた。


「家、なんかあったのか」
「話すと長いんだけどさ……うち、色々あるんだよね……」
「時間はあるよ。話せる限りでいいから、話してみ」
最初こそ美波が心配で、だからこそ話を聞こうと感じていたが、家族とのことで悩んでいるのだと推測出来たことで、心配からというよりも興味で話を聞きたいと思ってしまっていた。
家族のことで悩むというと、俺のこれまでの経験では喧嘩したことや自分の希望と対立したなど、そういったことが多い。
その時々は深刻でも、そういった問題は時間が解決してくれることも多々ある。
家族とはそんなものだと、俺は少なからず感じていた。
だからこそ、美波の悩みも似たようなものであろうと軽い気持ちで考えてしまっていた。
それが安易な考えだったというのは、すぐさま実感することとなった。


「うん。私のお父さんさ、警察官だったんだ。それで職務中に酔っぱらったサラリーマンが不良集団に絡まれてたの目撃して、すぐさま止めに入ったらその集団のうちの一人に刺されちゃって……そのまま死んじゃったの。急所を刺されたみたいで、ほぼ即死だったみたい。それが、私が五歳の頃の話かな」
「そんなことがあったのか……」
「うん。でも私も五歳だったしいまいち状況つかめてなくて、ただパパはもう帰ってこなくなっちゃったって、そう思って泣いてて、後になってお母さんに詳しく聞いて知ったことなんだけどね」
「五歳だとそうなっちゃうよな……辛かったな」
「それで終わればまだマシだったよ……」
思っていたよりも深刻な内容だと感じたが、美波は更に訳ありな言い方をしたため、若干の不安が生じた。
「どういうこと」
「私ね、四つ下の弟がいるんだ。今は中学三年生なんだけどさ。その事件があった時弟はまだ一歳で、私もその時は幼稚園に通ってたけど数年すれば小学校行くわけだし、弟にも色々お金かかるでしょ?だから、お母さんは元々喫茶店で働いてたんだけどそことスーパー掛け持ちで働くようになってさ。それからしばらくしてからかな。その喫茶店によく来る常連さんで、すごい優しい男の人がいたんだ。私も何回か遊んでもらったことあってさ。その男の人はサラリーマンだったんだけど、なんか一流企業のエリートだったみたいで…お母さんがある日その人を連れてうちに帰ってきて、今日からこの人があなた達のパパよって言われたの」
「え……そんなのありかよ」
「私も最初はびっくりしたよ?だって、お父さんが帰ってこなくなったと思って毎日寂しくて、それでもやっと気持ちが落ち着いたと思ったら新しいお父さんができたんだもん。でもね、遊んでもらったり色々買ってもらったりしてたし、優しい人っていうのは子供ながらにわかってたから、素直に受け入れちゃってたんだ」


俺は美波の言うことを聞き逃さないよう慎重に耳を傾けていたが、その口から次々と現れる衝撃の事実にあっけにとられていた。
どう相槌をうって、なんと言葉を返せばいいのか、全くもってわからなかった。
美波にそんな過去があったのなんて、誰が想像できたであろう。
家庭に特に大きな問題もなく育ってきた俺にとっては、美波のその境遇がどれ程までに辛いものなのか実感することはできなかった。
しかし、想像するのは容易い。
自分が知っていて慕っていた父親がある日帰ってこなくなり、しばらくして新しいお父さんだよと違う人を連れてこられたところで、納得することはできないし例え子供だとしても中々受け入れられるものではないだろう。
少なくとも、俺が美波の立場であったらそんなこと受け入れられない。

――世の中とはなんて無情なんだ……
  美波が一体何をしたっていうんだ

俺は心の中でそう呟くとやるせない気持ちになり、声に出したかったが美波の前でこのような言葉を口にすることはできない。
それが余計に歯がゆくて、俺は自分の爪が皮膚に食い込むほど拳を強く握りしめ歯を食いしばった。