第5章 『家族の在り方』 7 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




7.



海に着き車を降りた俺たちのと目の前には、二つの海が広がっていた。
一つは太陽の光を反射させて穏やかにきらめき、心地よいさざ波の音を響かせている海。
空には、悠々と翼を羽ばたかせ自由自在に飛び回っているカモメの姿がある。
もう一つの海は、小麦色に染まった大小の肌に、不釣り合いなほどに鮮やかな色の水着を身にまとい、思い思いに海水浴を楽しむ人の海である。
夏休みまっただ中で、お盆前ともなればこれくらいの人はどこの海水浴場も当たり前のことなのだろうか。


「うわー、すげえ人」
車を降りるなり額に手を当て、遠くまで見据えた英雄が声を上げる。
「こんなにいるとは思わなかったね」
梓は人ごみが苦手なようで嫌そうな顔をしていたが、手前に広がる人の海より先を見れば美しい海が広がっている。
浅瀬の方は底の砂が透けて見えるほどに綺麗な水をしていて、透き通った水色のような色をしている。
しかし視線を奥の方に少しずつずらしていくと、段々と深くなっていき沖に向かっていくにつれて海水の色も次第に濃い色となって、美しい青のグラデーションを描いている。
群青色にそまる水平線には、時折船などが通ったりしていて絵に描いたような光景であった。
みんなその美しい光景に目をとられていたのか、俺たちの間にはしばしの間沈黙が流れた。
穏やかな、心地よい風が俺たちの間をすり抜けていく。

「よし、一番乗りーー」
風に吹かれ美しい景色を眺めていた時間は俺にとって悠久の時間のように感じられたが、英雄のその一言でガラスを割ったかのように一瞬にして壊れ去った。
英雄はそう言い残すと、いつの間にか水着になっていて海辺に向かって走り出した。
「まったく。あいつ本当にガキ」
真佑がそう冷たく言い放つと、みんな「本当だよね」「大学生に思えない」と口々にそう言っていた。
「俺たちもいくか」
俺たちは旅館を出る際、下に水着を着ていたため上の服をある程度脱ぎ荷物を持って砂浜に足を踏み入れた。
ビーチサンダルをはいていたが、砂浜は思ったよりも深く、太陽により熱せられた砂に足が埋もれる。
「あちっ」
みんな最初こそそう言って笑っていたが、その砂の熱さもどこか心地よくなってきて、俺はビーチサンダルを脱いで裸足で歩いた。
柔らかな感触をした砂が、俺の足に触れそして温かくそっと包み込んでいった。
人工できではなく、あくまでも自然の優しさ。
その自然の優しさに包まれると、自分も自然の一部になれたかのような錯覚に陥り、言葉に表せないような優越感に浸っていた。


ある程度進んところで、海の近くは人があまりにも多すぎるため、少し距離をおいたこの場所にパラソルをたてることにした。
英雄はというと、いつの間にかどこかへいなくなってしまっている。

――集団行動のとれないやつ……

英雄に対し少しのイラつきはあったものの、俺も海に来るのは久しぶりであったし早く海へ行きたい気持ちもあった。
俺がパラソルをたてている間女性陣はというと、先ほどまで着ていたTシャツやらショートパンツを脱ぎ水着姿になっていて、お互いに日焼け止めのオイルを塗りあっていた。

――女の子ってまめだよな……

女性の持つ美意識の高さに感心しながらも、やっとの思いでパラソルをたてた。
「敦、どう?」
手で汗を拭っていると真佑にそう呼びかけられ、そちらを見てみると四人が水着姿になってこちらに向き直っている。
やましい気持ちは全くなかったが、普段とは違うみんなの姿を見るのは小恥ずかしく、まともに見ることができなかった。
「ど、どうって何が?」
「何がじゃないよー。私たちの水着姿に決まっているでしょ」
「い、いいんじゃない?」
あまりの恥かしさに適当にごまかすが、そのごまかしをみんなが見破らないわけもなく、「あれ?敦照れてるの?」と美波にからかわれる始末であった。

――こんな光景を見て照れない方がどうかしてる……

俺は内心そう感じていた。
普段みんなと一緒にいて、男女という差はもちろんあるが俺の中では男女の関係の前に友達であり、みんなを一人の女性として意識したことは特になかった。
しかし、このように水着を着られてしまうと普段隠れている場所も露にされるわけで、女性として意識せざるをえない。
「いいから、もう海行こうぜ?」
逃げるようにして俺は一人海へ走っていった。


「ね、敦誰のこと一番見てた?」
真佑は美波にふと聞いてみる。
「さあ。誰のこともあまりよく見てなかった気がするけど?」
「えーー。せっかく気合い入れて水着選んだのに……」
真佑はショックを受けていた。
この四人の中で一番スタイルがいいのは間違いなく美波であるし、敦もやはり美波みたいにスタイルの良い人がいいのかなと真佑は不安になる。
当の俺自身はそんなやり取りがあったことも知らず、一人海に向かった。


波打ち際まできて、歩みを遅くする。
半透明の水がごくごく小さな津波となって、ざーっという心地よい音と共に俺の足を飲み込んでいく。
熱を帯びた砂とは異なり、その海水はひんやりと冷たかった。
その小さな津波がきたと思えば、今度は俺の足を持ち去るかのようなにわかに強い力でひいていく。
この寄せては返す様が、どことなく人間と似ているようで海に対して仲間意識すら芽生えてきていた。
波の動きを眺めているうちに、みんなが後からきた。
「うわー、海だー」
彼女たちは海を見るなり走って海に入っていき、互いに水を掛け合い始めた。

――お前らにはこの自然を楽しんだり、感慨に浸ったりすることはないのか…

そんな風に考えていると、顔に水しぶきがあたった。
冷たいというよりも、近距離からの攻撃であったため少し痛かった。
水の飛んできた方を見ると、美波と理沙がニヤニヤしながらこちらの出方を窺ってた。

――やってやろうじゃねえの

俺の負けず嫌いに火がつき、美波と理沙を追いかけた。
「キャーー」と二人は逃げ回ったが、二人は腰まで水に浸かっていたため水の抵抗を受け上手く進めていなかった。
一方の俺は二人より身長があるため、腿ほどまでしか浸かっておらず比較的動きやすい。
二人の健闘は虚しく即座に俺に捕まり、俺は二人を抱えたまま海に倒れこんだ。


その光景を目にして梓は声をあげて笑っていたが、真佑が浮かない顔でいたところを、こちらに向かってきていた英雄は見逃さなかった。