6.
疲れ切ってカーテンを閉めて寝ることすら忘れていた俺たちの部屋には、山の合間から激しい陽の光が差し込み、俺はその温かな日の光に包まれながら目が覚めた。
うっすら涼しい風が吹いていて、その風は木々を揺らす。
木の葉と木の葉がすれ合い音色を奏でる、山の大合奏が聞こえる。
こんなに温かく素晴らしい光に包まれながら目を覚ませるなんて、実に素晴らしいと感じていた。
「起きてるー?」
部屋に入ってきた美波は、浴衣姿ではあったが髪も乱れていないしある程度の身支度を済ましているようだった。
「今起きたとこ」
そう言う俺の頭は、おそらく寝癖だらけでだらしのない恰好をしているだろうという気がした。
「英雄はまだ寝てるの?」
「この通り」
「もう英雄おいてご飯食べいこう。なんか、こんだけぐっすり寝てたら起こすの可哀想だし」
「そうだな」
「んじゃ、行こう」
「身支度しないと」
「いいよ、そのままで」
「だらしないっしょー」
「それはそれで新鮮でいいよ。そんなだらしない恰好した敦、学校じゃ絶対に見れないしね」
美波のその言葉に、少なからずドキッとしてしまった自分がいて急に照れくさくなった。
「美波、浴衣似合うよな」
昨日からずっと思っていたが、美波は本当に浴衣が似合う。
綺麗だし、どこか色っぽさも持っていて十八歳には到底見えなかった。
「バカなことで言ってないで、早く部屋から出て」
美波はそう言って顔をそらしてしまったが、おそらく美波も照れていたのだろう。
「なーんだよ、せっかく褒めたのにー」
と文句を垂れながら、スリッパをはいて部屋から出た。
朝食はビュッフェ形式で、和食洋食ともに充実していた。
お風呂でも見かけなかったし、廊下でもすれ違わなかったためこの旅館には俺たちだけしかいないのか感じていたが、朝食の会場には俺たちの他にも四団体いた。
美波に連れていかれた席にはみんなもう座っていて、俺の分もとっておいてくれたようだ。
「おはよう、敦」
そう言われたのに対し「おはよう」と返そうとしたが突然あくびが出て「おあおー」と訳のわからない挨拶になってしまった。
みんなはそれを聞いて笑っていて、俺を上から下まで順に見た。
「敦も寝起きはそんな感じなんだね」
真佑はまだ笑っていて、「どういうこと?」と尋ねてみると「普段あんなにしっかりものの敦も、寝起きはこういうだらしない感じなんだね」と返ってきた。
「ははは。それさっき、美波にも言われたわ」
そう返すと「え?」と言って真佑の表情が一瞬強張って美波の方をちらっと見た。
「まあまあ、そんなことよりも早く食べよう」
梓にそう急かされ、席について朝食をとり始めた。
もう少しで食べ終わるというところで、ようやく英雄が起きてきた。
「ご飯食べるなら起こしてくれよ」
ぼさぼさになった髪をかき分けながらこちらへ歩いてきたが、浴衣もはだけていてなんともだらしがなかった。
「ちょっと、ちゃんとした格好で来てよ恥ずかしいな…」
理沙がそう咎めるも気にしないように英雄は食事を取りに行った。
「あたしたち仕度あるしそろそろ戻るけど、敦はどうする?」
「俺は英雄を待つよ。可哀想だからさ」
「敦は優しいねえ。じゃ、10時に出発で」
真佑はそう言葉を残してみんなは部屋へ戻っていった。
「なんだよ、あいつら戻っちゃったのかよ」
「ご覧の通り」
「つまんねえの」
「ま、いつまでも寝てたお前も悪いよ」
俺はそういってコーヒーを口にした。
コーヒーは俺にとっての嗜好品で、特にアイスコーヒーにガムシロップを二ついれて飲むのがベストな味なのである。
そのコーヒーを飲んでいるだけで、俺にとっては至福の一時であり癒しの瞬間でもあった。
「なあ敦」
「ん?」
「お前、好きなやつできたか?」
「はあ?」
英雄が唐突に変なことを言ったもんだから、口にしていたコーヒーが気管にはいってしまいむせかえった。
「あんなことがあったんだから、そんな簡単に次の恋が出来るかよ」
「つまんねえやつ。お前ってさ、そういうとこ本当に鈍感だよな」
英雄はそう言って笑っていたが、その笑っていてる間にも食べ物はしっかりと口に運んでいた。
「どういうことだよ?」
「べつにー。いつかわかるさ。女心ってやつがな」
「意味わからない」
英雄は何かを知っていてそう助言したように見えたが、それについて特に気にならなかったためそれ以上追求することはしなかった。
「っつか、お前身体疲れてないか?」
沈黙に耐えかねたのか、英雄がふいに聞いてきた。
「疲れてるに決まってるだろ。あんな長距離運転したの初めてだし…」
「だよな…。寝たりないし…肩はってるし…」
「まぁ、海まで30分程度だし、頑張って運転しよう」
「へーい」
「疲れてるけど、なんか頑張ろうって思える」
「なんで?」
「なんか、今の関係良くないか?温かいってか、落ち着けるってかさ」
「変なやつ」
そう言い残して英雄は立ち去ってしまった。
いつの間にか、持ってきていた分は綺麗にたいらげている。
――俺の言ったことそんなに変かな…
そう感じつつ俺も席をたった。
部屋に入ってくつろぎ、時間を見据えて仕度を始めた。