2.
翌日、今日は近隣の大学を二チームを招待して三チームで練習試合を行った。
夏の体育館とは、どうしてこんなにも暑いものかと感じながらも、ただひたすらにトスをあげた。
体育館の暑さというものはサウナにでも入っているかのようで、どうしても耐え難い。
外は外で直射日光を浴びるのは辛いが、俺にとっては太陽を浴びれるだけ羨ましく思えてしまう。
サウナの中での熱戦をなんとか乗り切り、無事昼休みを迎えた。
昼休みといえど、暑さのせいで食欲は全くなく食べたくはなかったが、食べないと倒れそうになってしまう。
体育館を出て日陰を探し、涼みながら食事をとった。
体育館に戻ってみると、美波が体育館の壁に寄りかかってポツンと一人で座っていた。
「美波、ご飯食ったのか?」
「あ、敦。うーん。食欲なくてさ」
「それはよくわかるけどさ。食べないと倒れちまうぜ?こんな暑いんだから、少しでも体力つけておかないと」
「そうだよね。ありがとう」
美波はそうお礼を言いつつも、うかない表情をしていた。
体育館の粗い床の目を、ただただじっと見つめている。
その視線からは疲れや憂いといった感情が読み取れたが、その視線は何故か鋭く、いつもの目つきとは異なっていた。
その視線の鋭さは、獲物を狙うライオンの如く、遠くを見据えているような強く恐ろしい目つきをしているようにも見えた。
それが気になった俺は、たまらず美波に聞いてしまった。
「美波、なんかあったのか?」
「う、ううん。ただちょっと疲れちゃって」
「昨日バイトあったのに、また朝から部活だもんな……」
「うん……」
「部活さ、バイトある時は休んでも大丈夫だぜ?」
俺は部活だけでヘトヘトになっているのに、美波はその後家計のためにバイトをしているのだ。
そもそも美波がマネージャーとしてバレー部に入部したのも、真佑が事故にあった時、真佑がもう一度立ち直れるように俺たちが自分にできることをして真佑を励まそうと言ったのがそもそものきっかけだ。
また、美波が何故わざわざバレー部に入ったのか疑問に感じる人もいるかもしれない。
実はあの時、俺と美波の間でこんなことがあった。
俺は、みんなに自分で頑張れることを探して実践してほしいと提案した後、早速バレー部に赴き入部願いを出した。
幸男は生徒会で真佑の欠席扱いをなんとか欠席にならないよう取り計らったし、梓も真佑が欠席している間の講義録を全ての授業分作成した。
幸男は何をやるかその場で決断したようだし、講義録も完成したのは真佑の退院直前とギリギリではあったが、講義録を作成しようという決断は即座に下していたのだった。
理沙も一段と部活を頑張り始めたし、美波はそのみんなの様子を見ていて焦燥にかられたらしい。
自分は何を頑張ればいいかわからない、みんなみたいに頑張れないかもしれないと俺に相談しに来たのだ。
美波は入学時からバイトをしていたため、バイトを頑張っているんだからそれをより一層頑張ればいいんじゃないかとアドバイスしたが、みんなは新しいこと頑張っているしバイトをいくら頑張ってもその姿を真佑が見ることはないから他の事を頑張ってみたいと言い張った。
美波のその強い気持ちを無下にすることはできないし、新しいことを始めるというのは中々勇気がいるもので何かきっかけがないと難しいことのようにも感じたため、これはいい機会なのかもしれいないと考えた。
美波に何が向いているかなど色々考えてみたが、俺の低能では何も思いつかずダメ元でバレー部のマネージャーやってみないかと提案した。
しかし美波の反応は意外にも好感触で、やってみたいかもと見学に連れて行ったのだ。
その時、すでにバレー部のマネージャーとして仕事をこなしていた同じ一年生で教育学部に在籍している望月由美
から主な仕事内容などを聞き、仕事や部活の様子を見て入部を決意したらしい。
バレー部でいいのかとも聞いてみたが、バレー部には敦がいるからと躊躇なく受け入れてくれた。
これが、美波がバレー部のマネージャーとして今ここにいる理由だ。
つまり俺によってバレー部に連れてこられたようなものだ。
それなのに、バイトで忙しいのに無理して部活させる訳にもいかないと責任を感じ、バイトのある日は部活休むことを提案したのだ。
「私、ここにも必要ない?」
美波は、俺の一言でバレー部に必要ない、いてもいなくても変わらないのかと感じてしまったようで、そう聞き返してきた。
その声はいつもの美波からは想像できないほど弱々しかった。
そして、美波の言った「ここにも」という言葉が気になった。
――ここにもってことには……
そう感じて聞きたくもなったが、もしバイト先などでそのようなことを言われたのだとしたら今は励まさなくてはいけない。
第一、美波は大切な仲間の一人だし、仕事もきちんとこなしていてまだ入部して間もないがすでにかかせない存在である。
「バカ。そんなことあるわけないだろ。お前はうちのチームにとって大切なマネージャーだよ。ただ無理して頑張って、身体壊すようなことあったら大変だからさ。適度に身体は休めてほしいなって思ったから」
「ありがとう……。本当に疲れた時は、休みもらうね」
美波はそう言っていたが、何か腑に落ちないような表情をしていた。
話を聞こうと思ったが、「おーい、アップ始めるぞー」とキャプテンが言い出したため、仕方なくアップへ向かった。
アップ中にも美波の様子を窺っていたが、やはり俯いたままだった。