第5章 『家族の在り方』 1 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

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誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/




第5章 『家族の在り方』



1.



俺たちは、地獄のようなテスト期間をなんとか乗りきり、今は夏休みの真っ最中だ。
夏休みだから遊ぼうっていう気持ちは溢れんばかりにあるが、実際のところそう上手くはいかない。
真佑のためにと思い始めたバレーだが、以外にも夏休み中に練習など予定がびっしりとつまっていた。

――まじかよ……

そうは思っていながらも、真佑のため真佑のためと頭のなかで何度も繰り返し、遊びたい気持ちを圧し殺していた。
しかし、忙しいのはもちろん俺だけではない。
俺と同じくマネージャーとして男子バレー部のマネージャーとして入った美波も当然俺と同じ日程なわけで、真佑と理沙が所属する女子バレー部は俺たちよりも休みがないハードな日程をこなしていた。
梓はサークルであちこちにボランティア活動しに行っているようだし、幸男も秋に控えた学園祭や体育祭といった学園行事の打合せを頻繁に行っているようだ。
唯一暇で遊びほうけているのは英雄くらいだろう。


「おい、敦早く帰ろうぜ」
「お、おう」
俺たちは今練習が終わって身支度をしていたとこだ。
そしてこいつは、三浦信太郎(みうらしんたろう)、信太郎の信の字からノブという愛称で呼ばれている。
ノブとは、実は高校時代からの友人である。
ノブは茨城一位のチームに在籍していた、全国でもそこそこ名の知れたスパイカーである。
ノブのチームの監督と、俺がいたチームの監督がなんと大学時代の同級生で、月に一、二回のペースで練習試合をしていたのだ。
お互いキャプテン同士で話さなくてはならない機会があったため、そこから段々と仲良くなっていて、引退した後は一緒に遊び行く仲となっていた。
それがまさか、こんなところで再会するとは全く思わなかった。
これだから人生は面白いと感じた。

「お待たせ。美波ー、行くぞー」
同い年のもう一人のマネージャー、望月由美(もちづきゆみ)と話していた美波を呼ぶ。
まだ言われてなかったが、美波も茨城の出身なのだ。
ノブも美波も、茨城といっても千葉よりの茨城であったため途中まで通学路が一緒でいつも三人で帰っていた。


「いやー、今日も疲れたー」
ノブは電車の椅子にバサッと座り込んだ。
「今日の練習ハードだったみたいね」
美波は笑っている。
「敦が悪いんだよ、全く」
「え、俺?」
「そうだよ。お前が入ってきてくれたのは嬉しいぜ?お前のトスめっちゃ質いいし、いいとこで使ってくれるし」
「じゃあ、なんで?」
「お前入部初日に、自己紹介で言ったじゃんか。やるからには負けたくありません。勝って勝って、この出津大を上のリーグに導きたいと思ってますって。よく初日であんなこと言えたよな。練習ちゃんとやらねえから当たり前だけど、先輩たち勝てなくて悩んでたからさ。そこに名門出身のお前が入ってきちゃったから、先輩たち目覚めちゃったんだぜ?」
「だって、ただ遊びでやるなんて嫌だし。それに俺は、勝たなきゃいけないの。な、美波」
「そうそう。勝ってもらわないと困る」
「美波ちゃんまでそんなこと言う……。ま、俺も負けるのだけは御免だけどな」
「ね、敦って上手いの?」
美波は俺の目の前でそんなことを聞いちゃうのだからすこい。
「上手いよー。敦は万能だよ。全部のポジションを、全部高いレベルでこなせるんだからね」
「ま、全部まんべんなくだからポジション定まらなくてレギュラーじゃなかったけどね」
高校時代をふとそう振り返った。
しかし今ではレギュラーとして、しかもチームを引っ張っていく立場にいる。
これだから人生は面白い。



「な、このあとご飯でも食べいかないか?」
突然ノブがそう切り出す。
「お、いいね。久しぶりに行こうぜ」
しばらくみんなとご飯なんて食べに行けてなかったため、俺もノブの意見にのったが、「ごめん。私バイト」と手を合わせて美波は謝った。
「部活の後にバイトとか辛いな……。無理すんな。身体壊すぞ?」
「ありがとう。でも、大丈夫。稼がなきゃいけないからさ」
「そんな稼いで何に使うの?」
ノブは会話に割り込んでそう尋ねたが、それは俺もとても気になっていたことだった。
「家のことにだよ」
「え、そのためにバイトしてるの?自分のお小遣いとかじゃなくて?」
「そらもあるけど、基本的には家にお金いれて遣り繰りして、残ったものを自分のことに使ってる」




「なんて偉い娘だ……俺がお父さんで娘がこんないい子だったら泣いちゃうな」
ノブがそう言って泣く真似をしてみせて、俺たちは笑っていた。
無論美波もそうだったが、目が笑っていないように見えた。
その笑い方はなんとも儚げで、同時に何かを隠しているようにも見えた。


そうこう考えているうちに、俺が電車を乗り換える駅についたため、慌てて電車を降りる。
「んじゃ、お疲れ。美波、バイト頑張ってな」
降りてから電車に向き直り、美波にそう声をかけた。
「ありがとう。お疲れ様」
美波はそう言って微笑んでいたが、やはり何か違和感を感じた。
本心で笑っていないことが見え見えだった。

「ピー」という笛の合図でドアが締まり、電車は走り出した。
その窓越しから一瞬見えた美波の表情はやはり曇っているように見えた。