25.
「キャーーー」
「っしゃああーーー」
「ピー」
体育館の中からは、耳が痛くなるほどのギャラリーからの喚声、男の雄叫び、笛や太鼓の音など様々な音が混ざりあい、こだましていた。
「今日はね、関東地区の男子の交流試合やってるんだ」
英雄がいう通り、今日は男子のバレーの交流試合。
「まぁ、公式の大会ではないですけど、いちお大会形式で今日が最終日なんです」
英雄や敦が得意気にいう。
「へー」と真佑は食い入るようにコートを見渡した。
「一部リーグのチームは出てないし、それ以外でも交流試合だからって出てないチームもいるんだけど、二・三部リーグと四・五分リーグの二つに分かれて総当たりでやってるみたい。あ、始まるよ」
理沙はそういって左のコートを指差す。
「行こうぜ」
そういってみんなはそちらのコートの方に走り出す。
「ちょっと待ってよ」
真佑もなんとかついていく。
みんなご席に座るときには、俺たちはベンチで円陣を組んでいた。
「あ、出津大も出てたんだ」
真佑はやっと、連れてこられた理由がわかったらしい。
「でも、うちの男子は弱いからねー」
真佑がみんなにそういうが、みんなはそれを聞いてニヤニヤしている。
「な、なに?」
その状況にさすがの真佑も困惑したようだ。
「もう真佑の知ってる男子バレー部じゃないんだよ」
「え?」
「見てればわかるさ」
英雄はそう言ってコートを見つめた。
そして俺も、コートからギャラリーにいるみんなを見つめた。
真佑がつけていた17という番号を、ユニフォームの背中に背負って。
「いけー敦ーー!!」
「敦君ファイトーー」
「敦ーーー」
みんなの声がコートまで聞こえてくる。
そう、俺があの日決意したこと。
それは、バレー部に入ることだった。
俺にしか出来ないことはこれくらいしかないからだ。
そして、真佑の背番号と同じ番号を身に付け、本来のポジションではなかったが経験はあったため、真佑と同じセッターというポジションで臨む。
――俺は真佑の分も努力し続けなければならない
真佑の意志を背負って……
「ちょっと、なんで敦が……?」
「ベンチ見てみな」
梓に促され真佑はベンチを見ると、美波が真佑に手をふっていた。
「美波……」
「あの二人は、真佑リハビリしている間に入部したんだ」
英雄が真佑にすべてを説明する。
「ピーー」
試合開始のホイッスルがなったが、英雄は説明を続けた。
「つまり、あいつらは真佑にまた頑張ってほしくて、ああやってバレーを始めたんだ。きっと指のこと引きずってバレーを忘れようとするから、またちゃんとバレーと向き合ってほしかったから」
真佑はコートでプレーする俺を見つめながら英雄の話に耳を貸し、静かに涙を流した。
「敦と美波だけじゃないんだぜ」
「え?」
「梓は真佑のために、真佑が欠席した分の授業のノートをわかりやすくまとめ直したんだ。幸男は生徒会選挙に受かってさ。入院でも欠席扱いになって単位とかやばいだろ?幸男は生徒会として学校側と交渉して、なんとか今回は欠席扱いにならないように手配してくれたんだ。理沙は、真佑がいつ帰ってきてもいいよう、真佑にあたっていたやつらと対峙してしっかりと環境作りしてくれたんだ」
「みんな……なんで私のためなんかに……」
「私なんかなんて言うな。真佑は俺たちの大切な仲間だ」
英雄がそう言うと、真佑はうずくまって更に涙した。
「そして俺は……」と後ろを向く。
「真佑」
後ろから呼ぶ声がして真佑は振り返る。
「お母さん、お父さん」
英雄が、真佑の両親を招待したのだ。
両親は指を切断した以上、無理はさせられないと真佑にバレー部退部を促したと水無さんから聞いていたため、「真佑さんはきっもバレーを諦めきれないはずです。心のどっかで、まだ続けたいと願っているはずです。試合を見に来ればわかります」と英雄が熱弁をふるってなんとか両親をここまで連れ出したのだ。
「バレー続けなさい」
お父さんは優しくも厳かにそう言った。
「え……?」
「敦君の試合を見てる真佑の背中見ててわかったわよ。あなたのバレーに対する気持ち。好きなようにやりなさい」
「お母さん……」
「お前からバレーをとったら何も残らんからな」
お父さんはそういって笑っていて、つられてみんなも笑った。
「ありがとう…私、もう一度頑張ってみる」
その真佑の表情からは、もう弱さは消えていた。
今まで通り、いや、一つの大きな苦難を乗り越えた真佑はそれ以上に強くなったのかもしれない。
「いけー敦ーー!負けたら許さないぞー!」
真佑は拳を強く握り締め、立ち上がって俺に向かってそう叫んだ。
みんなもそれで安心したのか、同じように立ち上がって応援してくれた。
俺は必死にトスをあげた。
共にプレーするチームメイトのために、力を貸してくれたみんなのために、そして何よりも真佑のために。
「ねー英雄」
「ん?」
「私さ、努力は本当に報われるものなのかって思ってた」
「それも敦から聞いた」
「その時敦はさ、いつ、どんな形であらわれるかわからないけど、必ず報われるからって言ってくれた。確かに、形こそ私が望んでたものとはかけ離れているけど、今私の努力報われた気がする」
「あいつに感謝しなきゃな」
「大切なのは、形じゃないよね?」
「ああ。大切なのは、努力出来るかどうか、努力して中々結果が出なくても諦めずに頑張り続けられるかどうかだ」
「これから先、望んだ通りにならないことの方が多いだろうしね」
「それでも、努力することが俺たちの第一歩なのかもな。努力しなきゃ、何も始まらない気がする」
「そうだね」
「あいつに、色々なこと教わった気がするよ」
英雄はそう言って笑っている。
真佑も同じように笑う。
その笑顔は紛れもなく、今までとなんら変わらないいつもの明るい笑顔だった。
いよいよ、マッチポイント。
色々なことがあって、色々考え行動してきた。
俺の言動が、真佑にどう響いたかは真佑にしかわからない。
ただ、わからないからといって行動を起こさなければ何も始まらない。
努力することに対して、受け身になってはいけない。
自分から進んでいく、報われるのを待つのではなく、報われるよう自分から働かければいい。
そしてその努力によって報われるのは、必ずしも自分だけではないのかもしれない。
人を喜ばせたり、幸せにしたりすることもできるのかもしれない。
だとしたら、俺はこの真佑と同じポジションでバレーを続けることで真佑に喜びやまた頑張ろうって気持ちを与えられただろうか。
みんなに、なにかを示すことはできただろうか。
――バレーを続けよう
自分のためでもあるし、みんなのためにも、そして何よりも真佑のために……
真佑がこれまでしてきた努力を、俺が報わせてみせる、俺の心はその決意で満ちていた。
そしてこの試合の勝利は、俺から真佑へのささやかな退院祝いだった。
第4章 『努力のもたらすもの』 完