20.
病院からの帰り道、俺と英雄は居酒屋に来ていた。
よくあんなことの後で居酒屋に行けるなと思う人もいるかもしれないが、あんなことがあったからこそ来ているのだ。
何もできなかった自分の無力感や真佑への罪悪感など、溜まりにたまったものを全て吐き出さなければ、引きずってしまい次へは進めないような気がしていたからだ。
俺たちは、お互いのグラスにビールを注ぎ「お疲れ」と声をかけながらグラスを合わせた。
グラス同士の当たる「チン」という乾いた音が、俺たちしかいない薄暗い店内に虚しく響く。
俺たちはグラス一杯に注がれたビールを、全て飲み干した。
「なんだよあっちゃん、今日はやけ酒か?」
俺たちの様子を見ていた店の大将は、その雰囲気から何かを察したのだろうか、そう言いながらガハハハと野太い大きな声で笑っていた。
この大将は我が藤原家の縁戚にあたる人で、この地でもう何十年と店を構えている。
店の場所が家から近いことから、俺が小さい時から親がちょこちょこ連れてきていたようで、大将は今に至るまでの俺の成長をしっかりと見守ってくれた。
本来なら、未成年だけの入店は認めていないが、親戚で更には小さい頃から知ってる俺は特別に入店を認めてくれていたため、お酒は飲まないにしてもよく遊びにきていた。
「学校で色々あってさ」
語尾に一つ溜め息をつけると、ただ事ではないと思ったのか大将は「話聞くぜ」とまたしても野太い声でそう言った。
正直言うと、俺は大人を信用していない。
大人は自分の利益のためなら何でもする、自分を犠牲にして誰かのためになろうという姿勢は一切ない。
こちらが信用して頼ってみても、自分に都合が悪くなればすぐに俺たちを見捨てていく。
もちろん大人が全員そうだとは思わないが、これまでそういう経験も多かったし、少なくとも子供は大人に対してそう感じていることが多いはずだ。
しかし、大将だけは違った。
俺が親戚だから優しくしてくれているのかもしれなかったが、それでも俺に何かあったときは親身になっていつも最後まで話を聞いてくれたし、救いの手を差しのべてくれていたのだった。
そのため、今日も大将に相談してみることにした。
「なあ大将、努力って報われると思う?」
「努力?」
大将が聞き返したと共に、英雄はなんの話だというように目を見開き怪訝そうにこちらを見た。
「これはまだ誰にも話していないことだから、英雄もしっかり聞いてくれ」
そう言って、ここ最近の真佑の様子や俺たちの関わりを全て話した。
話を終えたところで二人の様子を窺ってみると、二人とも腕を組み頭を悩ませていた。
「だから真佑、指を切断しなきゃいけないことにあんな風に落ち込んでたのか……」
「そういうこと」
「まずいこと言ったな……なんも知らないで……」
俺と英雄の間には気まずい沈黙が流れる。
「努力が報われるかどうかは、その人次第だろ」
その沈黙を破ったのは大将の野太い声。
「言い方によりけりだけど、努力は確かに報われるものだと思う。ただ、それは受け身でしかない」
「それどういうこと?」
俺には大将の言っていることがまるでわからなかった。
そうすると大将は、ゆっくりとわかりやすいよう説明を始めた。