18.
「来てくれてありがとうね」
真佑は部屋にある小さな窓から外を見つめながら言う。
その小さな窓からは夕陽が射し込み始め、眩しくて真佑の姿がハッキリと見えなかった。
俺と英雄は、お互い真佑になんて声をかけていいのかわからなかった。
大丈夫かと声をかけたいが、大丈夫ではないから今この状況になっているのだ。
「私実はね……」
「聞いたよ。水無さんから全部」
「そっか……聞いたんだ……」
真佑は一つ一つ言葉を絞り出すように話していて、言葉と言葉の間にあるちょっとした沈黙がいかに辛いかを物語っているようだった。
「笑っちゃうでしょ」
真佑はそう言いながらこちらを振り返ったが、真佑が動いたことで先程よりも強い夕陽が差し込んできて、俺たちは一瞬何も見えなくなった。
次第に見えてきた真佑は、いつもと変わらぬ明るい笑顔を浮かべていたが、その下がった目尻からは、涙が溢れていた。
その真佑の姿を見た俺はすっかり言葉を失ってしまった。
もうこの笑顔を見ることができなくなってしまうのではないか、何がいけなくてこうなってしまったのか、そんな疑問が俺の頭のなかで渦巻いた。
「私さ、もうバレーできなくなっちゃうんだよ?私どうしたらいいの?これから先さ、何をなんのためにどう頑張っていけばいいのかな?」
俺たちは、その真佑の問い掛けには答えられなかった。
中途半端な慰めは余計真佑を傷つけるし、第一真佑が求めているのはそんなものではない。
「ねえ敦言ったよね?努力は必ず報われるって。私本当に報われるの?バレーも、今までの生活ももう出来ない。私は明後日、これまでの全てを失うんだよ?それでも努力はいつか報われるの?」
真佑は俺の元に近付いてきてそう問うた後、俺の胸に顔をうずめた。
真佑の悲痛の叫びは、一言一言俺の胸に鋭く突き刺さった。
俺は真佑をただ抱き締めるしかできなかった。
普段は気持ちも強いし、ボールだって諦めないで熱心に追い続けていて、性格も俺や英雄よりもしっかりとしていて逞しいくらいだ。
しかしこうして抱き締めてみると、やはり女の子。
性格がしっかりしてる分大きく見えていたが、実際は華奢で体は小さかった。
――この華奢な身体で、あんなにも必死に頑張ってたんだな…
わかっているようで、俺は真佑のことなんもわかってあげられてなかったんだな…
それがわかってとても辛かった。
「今までの生活が、全て変わるわけじゃないよ」
突然英雄は、そう言葉を発した。
その英雄の言葉に真佑も驚いたようで、俺から離れて英雄を見上げた。
「確かに、今までみたいな日常生活はできなくなるかもしれない。親指がなくなれば、不便なことはたくさんあるし……。ただ、その根本的なものは変わらないんじゃないか?」
「根本的なものって……?」
「これまでにしてきたお前の努力だよ。指がなくなったからって、お前が今までしてきた努力や培ってきたものまでなくなるわけじゃないだろ?それに指がなくなったからって、これから先努力出来なくなるわけでもない。努力するかしないかは本人の気持ち次第だし、何を頑張ろうかっていうのも本人次第。指がなくなろうが足がなくなろうが、頑張ろうって意思さえあれば、なんだって頑張れると思うぜ?」
英雄のその言葉に、真佑は俯いていた。
「第一さ、親指がなくなったらバレーが出来なくなるって誰が決めたの?続ければいいじゃんか」
その言葉はさすがにひとく、適当すぎると感じた。
――英雄はバレーをやってこなかったからわからいだけだ
その言葉は真佑を余計傷つけてしまうと思い「英雄!!」と制止しようとしたが、「英雄に何がわかるの!!」真佑はその言葉に対して異論を唱えた。
「英雄はバレーやったことないからそんなこと言えるのよ!!そんな簡単な話じゃないの!!」
「そうやって逃げてるだけじゃんか!!」
英雄は廊下まで聞こえるほどの大声をあげた。
「出来ない出来ないって、そんなの誰が決めたんだよ。実際に指なくてやったことあるのか?そういう人見たことあるのか?そりゃ前みたいに動けないだろうし、簡単なことじゃないのだってわかってる。だからこそ、努力するんじゃないのかよ!!出来ないから努力するんだろ?やる前から出来ない出来ないって、そんなのただの言い訳じゃんか」
「でも……」
「やる前から出来ないって口にするな。人間である以上出来ないことだってある。でもやる前から出来ないなんて言ってたら、本当なら出来るものも絶対に出来るようにならない。無茶なこと言ってるのもわかってるけど、真佑はずっとそういう無茶な世界で頑張ってきたんじゃないのか?だから、今があるんじゃないのか?」
「そうだけど……」
「だったや諦めるな、絶対に。もう一度、一から頑張ってみよう」
その英雄の言葉を聞き、真佑は床に座り込み泣き崩れた。