13.
「でも、どういう経緯で事故になんかあったんだよ」
「なんて質問してるのバカ」
英雄の無神経な質問に対し、美波がツッコミを入れた。
真佑はその様子を見て笑っていたが、ゆっくりとその経緯を語り始めた。
真佑はあの時、駅構内に入っていく俺の姿が見えなくなるまでレストランの入り口で見送りをしてくれた。
その後家まで向かっていると、後ろからおそらく塾帰りであろう自転車に乗った小学生二人が真佑を追い抜いた。
二人はじゃれ合いながら自転車に乗っていたため、一人がバランスを崩し転んでしまった。
そこに、前方からスピードを出した車が走ってきてスピードを一向に緩める気配がなかったため、その小学生の危険を察した真佑が助けに道路へ飛び出したそうだ。
なんとか小学生を起こし歩道へ戻ろうとしたが戻りきれず車と衝突してしまった。
衝突の瞬間なんとか小学生は助けようと真佑が体を張ったため、幸い小学生には怪我がなかった。
偶然その小学生の親はこの大学病院の外科医であり、自分の息子を救ってもらったお礼だと個室を用意し、治療費も負担してもらえることになったそうだ。
「真佑を轢いた車は?」
「ぶつかった後すぐ止まったんだけど、少ししたらそのまま立ち去っていった」
「そ、それ轢き逃げじゃないですか!!」
普段あまり大きな声を出さない幸男ですら、大声をあげて驚いた。
「警察には?」
梓がまた不安そうな面持ちで尋ねるも、「たまたま事故を見ていた人が車の番号控えてくれていてね、今捜索中みたい」と真佑は明るく答えた。
「それなら、犯人が捕まるのも時間の問題ですね。良かった」
幸男も緊張の糸がほぐれたのか、頬の筋肉が緩んだように見えた。
「それで、怪我は?」
俺は一番気になっていたことを口にしてた。
「左手の親指と右足を骨折してるみたい……。このあと、また精密検査受けるんだけどさ」
そう真佑は左手に巻かれたギブスと包帯を眺めながら言った。
その目はなんとも儚げだった。
「そっか…」
「ほらでも、治らない怪我じゃないし!!大丈夫大丈夫」
やはり真佑は、俺たちに心配かけないように無理して笑っていると感じた。
しかし不幸中の幸いというべきか、真佑に大きな怪我がなかったのは安心した。
俺もようやく気持ちがほっとした瞬間ではあったが、時折見せる真佑の沈んだ表情は、やはり気になって仕方がなかった。
その表情は何を物語っているのか、何故そんな表情をするのか、それだけがどうしてもわからなかった。
俺たちはその後、色々なことを話した。
今日1日のことやそれぞれのサークルでのエピソード、中にはなんで二人でレストランにいたんだという話題もあった。
英雄が様々な話題を持ち掛け、いつものようにみんなを笑わせた。
英雄の話し方は状況など想像しやすく、その話には大学のことを知らない真佑のおかあさんですら笑っていた。
一見すると、それはいつもの俺たちとなんら変わらないのかもしれない。
しかし腐れ縁のせいだろうか、英雄が気を使っているのはすぐにわかった。
英雄はいつもこうして人を笑わせるが、いつもとは話す声のトーンが違う。
英雄は焦っているときや緊張しているときは声のトーンが若干高くなって時々声を震わせる。
今の英雄の声は、まさにその状態であった。
おそらく、真佑を励まそうと必死なのだろう。
そうこうしていると、二人の看護師が入ってきた。
一人はベテランの主任で、もう一人は新人か研修生というところだろうか。
主任は明るい声と表情で精密検査に行くことを告げ、「こんなにもたくさんの友達がお見舞い来てくれて幸せものね」と俺たちを見ながら言った。
「はい、大切な友達です」と真佑も明るく答えた。
一方の看護師は無表情で車椅子を出し真佑の肩を担いでいたが、その表情には明るさなどなく、動き方もなんとも事務的で冷徹な印象を受けた。
「それじゃ、みんな今日はありがとう。帰り気を付けてね」
真佑はそう言い車椅子を押されながら病室を後にした。
「御大事にな」
俺たちは遠ざかってく真佑の背中に声をかけ、真佑のお母さんにも一言お礼を言って病室を後にした。
夕陽で照らされた廊下はオレンジに染まり、俺たちの帰りを見送ってくれた。
昨日の真佑のように、俺たちの姿が見えなくなるまで……