第4章 『努力のもたらすもの』 12 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/



12.


「病室の前で何こそこそやってんの」
病室から出てきた真佑は、笑いながらそう言った。
「真佑!!」
みんな大きな声をあげて驚くと同時に、言葉には代えがたい安心感に包まれた。

事故にあったというだけでも心臓が止まりそうになるくらい心配をしたわけだが、個人部屋というだけで更に不安になり心臓を誰かに握られているような心苦しさがあった。
しかし当の真佑は俺たちの心配など見ず知らず、予想外の元気さを持って俺たちの目の前に現れた。
「お前、大丈夫なのかよ……」
俺は思わず真佑に声をかけた。
真佑は見た目こそ元気であるが、俺たちに心配をかけないよう元気に振る舞っているのではないかと感じたからだ。
「敦、そんな血相変えてどうしたのよ。私はこの通り大丈夫よ」
真佑は相変わらず笑っている。
「元気そうで良かった」
「もう本当に心配したんだからね」
梓や理沙はそう言って笑って見せたが、その笑顔は数秒ももたず彼女たちの目からは大量の涙が溢れだした。
涙は流していなかったが真佑の元気な姿を見れた安堵感から全身の力が抜けたのか、英雄はまるで骨を抜かれたように廊下に座り込んだ。
廊下を通る看護師や他の入院患者たちは、俺たちを一瞥して横を通り過ぎていく。
しかし真佑のお母さんは少し距離を置いたところで、その光景を暖かい目で見つめていた。

真佑は右足を引きずりながら梓や理沙の元へ行き、そっと二人を抱きしめた。
抱きしめられた二人は元より、その光景を見ていた美波や幸男も静かに涙を流した。
「みんな、心配かけてごめんね……」
真佑も目に涙を溜めながら、俺たちに謝罪をした。
「でも、私この通り大丈夫だから。怪我こそしたけど、命に別状はないし元気だから」
涙を堪えながらも笑顔で、必死に言葉を振り絞っていた。


真佑の涙を流したくても必死に堪える姿、そして俺たちに見せる笑顔は事故にあう前も後も一見変わらないように見えた。
みんなは真佑のその姿に、いつも通りの真佑だと安心しているのだろう。
俺も最初こそ安心したが、すぐに真佑が無理をしていることがわかった。
ほんの一瞬ではあるが真佑の表情が暗く淀み、そっと俯いたのを俺は見逃さなかった。
俺は、人の表情からその人の気持ちを読み取ることができる。
これは特殊能力という訳でもないし、もちろん百発百中で読み取れるという訳でもない。
しかし普段見せない真佑のその様子から、ほぼ間違いなく無理をしていると感じた。


「無理するな」
俺は真佑にそう声をかけたかったが、その思いは喉の奥底で留まり決して声に出ることはなかった。
真佑が無理をしているのは、間違いなくみんなを安心させるため。
そこで俺が「無理するな」と声をかけてしまえば、真佑の頑張りを無下にすることに繋がってしまうし、せっかく安心しているみんなの気持ちを再び揺さぶることになってしまう。
それだけは、なんとしても避けたかった。


「さ、こんな所で話すのも邪魔になるから部屋入って」
梓たちは服の袖で涙拭い、英雄は立ち上がり数回ズボンをはたいた。
梓の着ていた薄ピンク色のカーディガンの袖の色が、広い範囲で変色していた。
その変色した範囲の広さは、梓の流した涙の量を象徴していた。

みんなの表情は、病院に入る前とは別人のように違っていた。
それだけ安心できたのだろう。
そのみんなの様子を見ていると安心できたが、俺の不安は病院に入る前となんら変わらなかった。
濃い霧が立ち込めているかのように、俺の気持ちが晴れることはなかった。
真佑の明るい表情を見て一瞬灯った希望の光が濃い霧に包まれていき、その灯は次第に見えなくなっていった。