第4章 『努力のもたらすもの』 6 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

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誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/



6.


真佑の涙が止まったのは、ちょうど12時をまわったところだった。
「ごめん、もうこんな時間になっちゃったね」
「大丈夫だよ」
「とりあえず、うち帰ろうか…」
「そうだね」

結局、俺たちはレストランを後にし真佑の家へ向かった。
その道中、真佑は何も喋らなかった。
真佑の家へ着き、交互に風呂へ入った。
俺はシャワーを浴びている間、ずっとどうするべきか考えていた。
真佑を励ますよう、楽しい話をするべきなのだろうか。
それとも、先程のことについて真剣に話し合うべきなのか。
いずれにしても、俺は真佑のために何を言うべきなのだろうか。
いくら考えてみてもその考えがまとまることはなく、そのまま風呂からあがった。


先にあがった真佑は、部屋着姿でうつむき座っていた。
テレビもつけず、ただ黙ってうつむいていた。
風呂からあがった俺に気がつくと「ねえ敦、さっき私に俺たちは味方だから、弱さ見せたっていいんだからなって言ってくれたよね」とそのまま床を見つめながら言った。
「お、おう。言ったよ」
「弱音、聞いてくれる……?」
いつものハキハキした声は何処へと思うくらい、弱々しくかすかに聞こえる程度の声でそう言った。
「もちろん。何でも話してみな」
真佑に何て声をかけようか迷っていた俺は、真佑からそう切り出してくれたことで助かったと内心感じていた。


「努力したらさ、何が残るんだろう。努力したって、頑張れば頑張るほど空回りしてさ、何も上手くいかないのに努力なんてする必要あるのかな?努力しなくたって、上手くいくときは上手くいくしさ」
「努力したからといって、その時必ず結果が出るとは限らないからな…」
確かに、真佑の言いたいことには俺も納得だった。

――努力は必ず報われる

必ずなんて、この世にありはしない。
もし努力が必ず報われるのだとしたら、世界中の人が惜しみ無く努力をし、全て希望を叶えられる、誰一人不自由しない、理想の世界で生きることができる。
しかし、実際にはそんなことはありえない。
努力によって自分の希望を叶え、理想の生活をしている者が全くいないわけではない。
中にはそういう人もいるだろうが、それは全人口のほんの一握りの人だけだろう。
「だとしたらさ、私が今してる努力はなんのためなんだろう。私に、何をもたらしてくれるのかな?必ず結果が得られる訳じゃないってわかってるのに、努力する価値なんてあるのかな?私が努力したことによって、目標にしていた結果がもたされることもあるかもしれないけど、そんなに上手くいくことなんて少ないし、そんな確率の低いことを信じろっていうのも、中々でなかることではないし。私たちが小学生だったら、それも出来たのかもしれない。でも私たちはもう大学生で、今に至るまで努力は必ずしも報われないっていう辛く苦しい現実を痛感してきた。色々なことに耐えてきて努力するのも疲れちゃったし、この状況下で結果がもたらされること信じて努力しようとなんて、さらさら思えないよ……」

真佑の言いたいことはごもっともだった。
一生に一度しかない高校生活も、三年間バレーに費やしてきたが納得のいく結果を残すことはできなかった。
これは、俺にも真佑にも当てはまることだろう。
先日別れた玲奈のことだってそうだ。
玲奈を喜ばそうと、ずっと一緒にいられるようにと色々努力してきた。
しかし最終的に俺に残った結果は、大切な人との辛すぎる別れだった。
励ましてくれたみんなのおかげで、なんとか気持ちを持ち直すこともできたしもう未練もない。
しかし結果だけを見れば、努力は報われることなんてなかったのだ。

「それは、よくわかるよ。俺もそう考えたこと、中学生でバレー始めてから何回も何回もあるからな」
「でも敦は、そう考えながらもここまで努力してきたわけでしょ?」
「まぁな……でも、それは真佑も同じだろ?」
「そうだけど……私は、いつも我慢してきた。努力をすれば必ず報われるってことを信じて努力してきたっていうより、努力しなくちゃいけないんだ、それしか道はないんだってね。でももう、我慢も限界かな」
「我慢……か。そう考えたことはなかったけど、改めて考えてみると俺も似たような部分あったのかな」
「そう考えたことはなかったけどってさ、じゃあ敦はこれまでどういう思いで努力してきたの?」
「努力は報われるって考えてたよ。こう言うと、さっきと言ってること矛盾してるって思うだろうけど……。俺たちが考える努力が報われるってのは、自分の願望でしかないって思う。全国制覇したいから努力したけど、出来なかったから努力は報われなかった。いい大学に行きたいから勉強したけど、合格出来なかったから努力は報われなかった。確かに、目標は果たせなかった訳だから努力は報われなかったのかもしれない。でもさ、その努力は自分の思ったものとは違った形の結果をもたらすこともあるんじゃないかな?例え全国制覇出来なくても、全国制覇を目標に努力した分、プレーは上達したと思わない?全国制覇するためにはどうしたらいいかって必死に考えたり、自分の意識を高めたりした分、少なからず人間性は成長したと思わない?行きたい大学に合格するために必死に勉強して、例え落ちてしまったとしても必死に勉強したことは時間が経っても中々忘れないもので、自分の知識、教養として自分に残っているでしょ?努力ってそんなものだって思って努力してきたかな」
「なるほどね…それ納得かも…」
「努力すれば、自分が望んだ結果がもたらされるとは限らない。努力が足りないことだってあるだろうし、何かを成し遂げたりすることって全て自分の力量だけで成し遂げられるものじゃなくて、ある程度の運とかもあると思うしな。ただその結果は自分の望むものだけでなく様々な形があるとすれば、努力は必ず報われるってのもあながち間違いではなくて、むしろあっているものなのかもしれない」
「だとしたらさ、私が今してる努力は何かしらの形になって私のためになるのかな?」
「そう思うよ。それが何の形になるかは、誰にもわからない。もしかしたら、本当に真佑の望みを実現することができるかもしれないしな。例え実現出来なかったとしても、何らかの形で真佑を成長させるんじゃないかなって思うよ。ただ、やっぱり時間はかかるかもしれない。真佑は頑張れば頑張るほど空回りするって言ってたけど、努力したからすぐ結果が出るわけではないと思う。けど、今日の努力は明日からの自分を成長させるための糧になることは間違いないさ。もしかしたら、今日の努力が実るのは一年かかるかもしれないし、最悪大学在学中に実らない可能性だってある。ただ、いつか必ずあのとき努力してよかった、辛かったけど頑張ってきてよかった、そう思える日はくるさ」


真佑の目からは再び涙が溢れていた。
先程のように声を漏らしながらではなく、静かにそっと涙を流した。
「敦の言うこと、信じて頑張ってみるよ」
声は弱々しかったが、確かに真佑はそう言った。
涙は流れているものの、先程まではなかったいつも通りの明るい笑顔だった。
「敦に話して良かった」
「そう思ってくれてよかった。でも偉そうに、何もかもわかっているような言い方でごめんな。」
「ううん。でも敦は、何か色々なことについてしっかり考え持ってそう。迷っている人達に、道を示すような大きな人になっていく気がする」
「大袈裟だよ」
そう突っ込んではみたが、正直そう言われたのは嬉しかったし恥ずかしくも思った。
「平成の孔子って感じ」
真佑は一人で笑っている。
それはいつもの笑顔だった。
「意味わからねえし」
俺も真佑につられて笑ってしまう。


「そろそろ寝ようか。明日一限あるしね」
真佑がそう言い出し、時計を見てみるともうすぐで午前二時になろうとしていた。
「そうだな」
「布団、そこ敷いておいたから使って」
「ありがとう」
真佑はベッドに、俺はその布団に入ったところで電気を消し部屋は真っ暗になる。
目が覚めてて中々寝付けなかった。
「ねー敦、起きてる?」
暗闇から真佑の声が聞こえてくる。
「起きてるよ」
「ありがとうね。私……また頑張るね 」
その声は、とても強い決意に満ち溢れているようなしっかりとした声だった。
「応援してるよ」