第3章 『存在価値』 13 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/



13.


真佑は大学の近くで一人暮らしをしている。
ショッピングモールから大学までは一時間半ほどかかるため、5時頃にショッピングモールを後にした。
移動中も、彼女との会話が途切れることはなかった。
何を話したのかと聞かれれば、明確に答えられるほど深く大切な内容を話していたわけではない。
何を話していたか忘れてしまうほどのありふれた話ではあるが、その時間はとても心地よく非常に楽しかった。
そうして、一時間半という時間もあっという間に過ぎ去った。

道中、彼女に「これたけ仲良くなれたんだから、敦って名前で呼んでもいい?」と聞かれ、更には「敦も理沙って呼んで」と迫られ、理沙と呼ぶことになった。

そうこうしているうちに、理沙の案内であっという間に真佑の家へ着いた。
アパートで一人暮らしする人が多い中、真佑は一人暮らしにしては綺麗で、一人暮らしには大きすぎるくらいのマンションだった。
セキュリティもしっかりしていて、エントランスは鍵を差し込むか中から開けてもらわないと入れないシステムになっている。
理沙は慣れたように真佑の部屋番号を押し呼び出す。
少しすると真佑の声が聞こえ、名乗るとゲートを開けてくれた。

真佑のうちは8階建てのうち、6階の5号室。
理沙がインターホンを押し、しばらくすると真佑が出てきた。
「いらっしゃい。待ってました」
明るい笑顔で出迎えてくれる。

――そういや、玲奈の家に行く度にあいつもこうやって出迎えてくれてたっけ……

ふと、玲奈の笑顔が脳裏をよぎる。
その笑顔は、俺の頭の中をめぐり俺を悩ませる。
自分をわからなくさせる。

「敦!!」
「は、はい」
俺を呼ぶ真佑の声がマンションの廊下に響く。
「はいって…ぼーっとしてないで早く入って」
真佑はまた明るく笑っている。
気付けば理沙ももう入っていて、こちらを温かい目で見ている。
玄関に入ると、中が薄暗い。
「なあ真佑、なんでこんな電気暗くしてんだよ」
あまりにも暗くて、どこに部屋があるのかなんとかわかる程度でしかなかった。
「節電よ。一人暮らしは、結構お金かかるんだからね?」
真佑が奥の部屋の扉をあける。
その部屋も真っ暗で、入るのが少し怖いくらいだった。

その部屋の暗さが、まるで自分の心のそこのようで……
この部屋に入ってしまったら、その闇に飲み込まれてしまいそうで……

「さ、早く入って」
真佑も理沙も自分では入らず、扉の横に立って俺に先に入るよう促す。
「わ、わかったよ」
その暗闇の中に入る勇気が中々出ず、心臓の鼓動が強く波打つ。
その鼓動を抑えるためにひとつ大きな深呼吸をし、その真っ暗闇な世界に足を踏み出す。

「パーン、パーン」
甲高い
破裂音が部屋中に響き渡った。
俺はドキッとして思わず声を出して驚いてしまった。

パッと部屋の明かりかつく。
部屋が真っ暗だったせいもあり、その光があまりにも眩しかった。
最初こそ何も見えなかったが、目がその明るさに順応し少しして部屋の様子が見えてきた。

「敦、誕生日おめでとう!!!!」
大勢の声が揃って聞こえ、言い終わった後割れんばかりの拍手が部屋に響いた。
「え……」
俺は完全に呆気に取られていた。
部屋を見渡すと、英雄を始め梓、美波、幸男がいた。
みんなはまだ拍手をやめず、満面の笑みでこちらを見ている。
「みんな…」
「今日敦誕生日でしょ。最近彼女と色々あって学校でも浮かない顔してるし、みんなで祝って元気付けようってことになってさ」
真佑が自慢げに説明した。
「僕なんか家族で海外に行く予定だったのに、わざわざ今日の日のためにキャンセルしてこっち来たんですからね」
幸男がどうという顔つきでこちらを見据える。

――なんていう上から目線……

その言い方には少しイラッとしたが、俺のためにそこまでしてくれたという幸男の気持ちは大いに嬉しかった。
「お前は海外行ってても良かったのに」
決して本心ではないが、幸男のことを軽くあしらってやる。
俺の突っ込みに、みんなは大笑いし幸男はわめいている。
「真佑ちゃんと理沙ちゃんも、今日のために部活休んでくれたんだよ」
梓が付け足した。
「え……待って、みんな理沙と知り合いなの?」
梓の言い方だと、理沙もこの計画の一員だったかのように聞こえた。

――今日偶然出会ったのに……

「おう!めっちゃ仲良いんぜ」
英雄がそう自慢げに言ったのに対し「英雄君とそんな仲良くなった覚えない。馴れ馴れしい」と理沙が冷たく言い捨てる。
英雄はお笑い芸人のようにこけて見せ、また笑いが起こる。
「さっきも言ったけど、私バレー部だから真佑と知り合って、意気投合して仲良くなったの。それで敦の話し聞いて、力になりたいなって思ってさ」
理沙が言う。
「私たちはサプライズでやりたかったんだけど、私たちが誕生日予定あけてなんていったら露骨過ぎてわかっちゃうでしょ?だから、理沙に手伝ってもらったの」
真佑が続けて説明する。
「だ、だって、理沙とは今日偶然……」
「偶然だと思った?」
美波が笑っている。
「実は私、英雄君と真佑と敦の家から後つけてたんだよ」
その理沙の言葉に非常に驚いた。
「偶然を装うために機会を窺ってたんだけどさ、敦飛び込もうとするんだもん……」
空気が重くなったのを感じた。
「本当に、つけててよかったぜ」
英雄が珍しくしんみりと、真面目な態度でいう。
「もう、あんなことすんなよ?お前には俺たちがついてるんだからな」
そのセリフを言った英雄のことが、心なしか格好よく見えた。
「約束して敦!!絶対にもう死のうとなんてしないで……」
基本的にはポーカーフェイスの美波が、突然泣き出した。
それにつられるように梓や真佑も涙を流し始めた。


俺はちゃんとみんなにすべてを明かした。
みんな一言も口を出さず最後まで聞き入っていた。
「辛かったね……」
梓が号泣しながら言う。
「でも、みんながこうしていてくれたから。理沙も、俺を助けてくれたから。もう大丈夫だよ」
これは俺の本心だった。
「本当ですか?」
幸男は疑い深いため、俺が言ったことを信じられなかったのだろう。
「本当だ」
一人一人の目を順番に見ていく。
みんなも、俺の目を見つめている。
「みんなのおかげで元気出た。本当にありがとう」
俺のその言葉に、みんなは安心したのなか表情が緩んだ。