11.
俺らはフードコートで、向かい合ってハンバーガーを食べている。
全国チェーンのファーストフード店のハンバーガーではなく、その店オリジナルのハンバーガーで、使われている野菜やお肉などの食材は全て国産のものという少し高級なハンバーガー。
もちろん値段もそれなりだが、買い物に付き合ってくれたからという理由で彼女がご馳走してくれた。
「美味しいね」
「おう、めっちゃ旨い!!こんなの食べれて幸せ」
俺は本心からそう言っていた。
嫌なことを忘れ、すっかり食べることに夢中になっていた時、「生きてて良かったでしょ?」彼女はあの笑顔でそう尋ねてきた。
「うん……本当にありがとうな」
「あのとき飛び降りてたらこんな美味しいハンバーガー食べれなかったんだから、感謝してよね」
上からものを言う口調ではあったが、彼女の言い方にはそのような気持ちは一切こもっておらず、彼女のいった言葉に納得するばかりであった。
――確かに、あのとき飛び降りてたらこんな美味いものも食べれなかったし 、こんなに楽しいと思えることもなかったんだよな……
まだ玲奈がいなくなって寂しい、悟に奪われて悔しいなどそういった感情は消えていなかったが、少なからず彼女の笑顔が俺の心の溝を埋めてくれていた。
「ね、聞いてもいい?」
彼女は先程とはうってかわって真剣な表情だ。
まだハンバーガーもサイドメニューのポテトやサラダもほとんど残っているが、彼女は食べることをやめて姿勢を正していた。
――もしかしたらこの子は、真剣に心配してくれて、俺と向き合おうとして くれてるのかな……
ただ人助けをするとかそういう偽善的な気持ちなど一切なく、純粋に俺 を助けようとしてくれてるのかな……
正直全てを打ち明けるのは俺も辛いし、相手が英雄たちであっても簡単に言い出せるようなことではなかった。
しかし、俺の命を救った命の恩人であるし、真剣に向き合おうとしてくれている彼女の気持ちを無下にしたくなかった俺は、全てを打ち明けることにした。
初対面の彼女がしっかりと理解できるよう、最初から順を追ってしっかりと話した。
玲奈が転校してきたこと、いじめられていたこと、助けてから付き合うようになったこと、そして今日のことも全て。
話している間段々と辛くなってきて、彼女の目を見て話すことができなかった。
彼女は俺が話し終わるまで一言も発さず、ただただ黙って俺の話に耳を傾けていた。
話終わってみても、彼女からの反応はなかった。
――話重いし、引いたかな……
というより、こんなことに巻き込んじゃダメだよな
そう感じ、謝ろうと彼女の方をみやると彼女は木目調の品のあるテーブルを見つめ泣いていた。
「な、なんでお前が泣いてるんだよ」
「だって、だって、藤原君が可哀想で……そんなの、あんまりじゃない……」
まるで自分のことのように考え、涙してくれているのはとても嬉しかった。
「でも、もう終わったことだしさ。俺も悪かったわけだし、しょうがないさ」
口ではそう言っていても、しょうがないさとは決して思えなかった。
未練もあったし、何よりも玲奈との関係を終わったことなんて思いたくもなかった。
しかし実際自分にも落ち度があった以上、どうしようもないことであり、しょうがないと言い聞かせる他なかった。
「でもさ……」
彼女はより涙を流している。
その姿を見る他の客の視線が俺に突き刺さる。
きっと、俺が別れ話を持ち掛け泣かせたとかそういう勘違いをしているのだろう。
その視線が痛かったため、ハンカチを手渡す。
「もう大丈夫だから。今日君に助けられて、そのあともここに連れてきてもらって楽しかったし、幾分気持ちも楽になったから」
「本当に……?」
彼女は上目遣いでこちらを見る。
その姿がなんとも可愛かったが、そんなことを言っている場合ではない。
「ああ、本当に。ありがとう」
そう言うと、俺が渡したハンカチを使って彼女は涙を拭いている。
「藤原君……このあとも予定ある……?」
「あるわけないだろ、さっきまで死のうとしてたんだから」
俺は彼女を安心させるよう笑ってみせた。
その作り笑顔が、あまりにもぎこちないと自分でもわかるほどで、無理していることがバレないかどうか心配だった。
「じゃあさ、今日私がお祝いする……」
「え?」
言っている意味がわからなかった。
「今日誕生日って言ったじゃん。だから、私がお祝いする」
「いいって。気使わなくて」
「違う、祝いたいの……」
また彼女は上目遣いをする。
――そんな風に見られたら断れないよ……
「わかったよ。じゃあ……お願いします」
「やった!!!!」
さっきまでの涙はどこにいったのか、嘘泣きだったのか、そう思ってしまうほどの笑顔になっていた。
――全く……
俺には兄弟がいなかったが、なんとなく妹の面倒を見るお兄ちゃんのような気持ちになっていて、彼女のその心遣いはとても嬉しかった。