第3章 『存在価値』 8 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/



8.


「プワァァーーーン」
電車の汽笛がうるさいほどに鳴り響く。
あまりのうるささに、汽笛の音以外の音は何も聞こえてこなかった。
俺は目を閉じた。
「キィーーー」
電車の急なブレーキ音と同時に、身体がフワッと宙に浮くような感じがした。
ドサッ。
地面に落ちた衝撃が思いのほか痛かった。
やけに肘がヒリヒリしたが、きっと擦りむいているのだろう。
しかし、こんな痛みももうしばしのこと。
一瞬我慢すればいいことなのだ。

――もうすぐ楽になれる……


だがいっこうにその瞬間はこなかった。
目を開けてみると、電車には乗客が乗り降りしていた。
ホームに倒れこんでいる俺を、その乗客たちは何してるんだこいつと言わんばかりの目で一瞥する。
俺にはこの事態を飲み込むことができなかった。

――なんで……

「あんたバカ?なにしてんのよ!!!!」
突然女性の声が聞こえてきた。
その声のした方を見てみると、同年代くらいの女性が仁王立ちしてこちらを見下ろしていた。
「あの……あなたは」
「あなたはじゃないわよ!!!!あんた自分のしようとしたことわかってんの?」
いきなり説教を始める彼女、そして何よりも楽になることを邪魔されたことにたいして、怒りが込み上げてきた。
「わかってるも何も、自分でそうしようとしたんだからわかってるに決まってるだろ」
「そういうこと言ってるんじゃないの。あんたがしようとしたことは、自殺よ?わかってるの?」
「わかってるよ」
「あたしが助けなきゃ、あんたは死んでたんだよ?」
彼女の言うことは当たり前であるが、俺は助けられることなんて望んでいなかった。
「誰も助けてなんて言ってないだろ。俺は死のうとして飛び込もうとしたんだ。なのに、なんで助けたんだよ!!!!」
この女性は、間違いなく俺の命を救った命の恩人である。
その女性に対し怒るのは全く筋のとおらぬ話だが、今の俺にとってはそんなことすら気に止めることができなかった。
今の俺にとっては、死んで何もかもを終わらせることが全てだった。
やっとその決意をし、いざ飛び込もうとしたのにそれを止められてしまったのだ。
そのため、どうしても怒りの感情が芽生えてしまい、その矛先は当然その女性に向いてしまうのである。

「なんでって……だって、死のうとしてたから……そんなの見てたらほっとけないから……」
俺が怒鳴ったことにビックリしたのだろう、先程までは威勢よく怒っていた女性も、すっかり尻込みをしている。
「ほっといてくれよ」
「ほっとけないわよ……」
「お前に何がわかんだよ!!!!死んだ方が楽なんだよ……楽にさせてくれよ……」
「死ぬなんてこと言わないでよ……もっと自分を大切にしてよ……」
終いには、女性は泣き出してしまった。

――泣きたいのはこっちの方だよ……

そうは思いつつも、善い行いをしたにも関わらず怒鳴られてしまうという彼女の立場を考えると、申し訳ない気持ちになった。
少なくとも、この女性を追い払わないことには、何も始まらない。
この女性を追い払って、次の電車にまた飛び込めばいい、そう考えた。

「わかったよ…ごめんな」立ち上がりまず謝った。
本心からそう言った訳ではないが、そうしなければこの状況からは抜けられないと感じた。
「もうこんなことしないって約束して……」
約束なんてする気になれなかった。
しかし、この場を抜け出すためならなんだってしようと思った。
「わかった、約束するよ」
「良かった……」

その女性は、会ってから初めて笑顔を見せた。
さっきまではそんなこと気にも留めなかったが、よく見てみるととても美人でスタイルの良い人であった。
ただその容姿の美しさは玲奈を彷彿させ辛かった。

「あなた、このあとどうするの…?」
「さあな。俺は大丈夫だからさ、もう行きな?」
「そうやって私を追い払って、次の電車に飛び込むつもりでしょ?」
「え?」
「嘘つかなくていいよ。わかってるから」
「なんで…」
「私を追い払おうたって、そうはいかないから。ほっといたらどうせまた飛び降りるだろうし、助けてあげたお礼も兼ねて私の買い物付き合ってもらうからね」
「は……?」
こうなるといよいよなにがなんだかんからなくなってきた。


「間もなく、二番線に、電車が参ります。」
電車の到着するアナウンスがなる。
「ほら、行くよ」
電車が到着すると女性はそう言って俺の腕を掴み、電車に引っ張っていった。