第3章 『存在価値』 7 | オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

オリジナル小説 『嵐の中の小鳥たち』

誰もが考えたことのある永遠のテーマに、私なりの考えを盛り込んで物語にしていきます!!

この物語を読んで、皆さんも色々考えてくださると光栄です\(^-^)/



7.


今日が土曜日で助かったと心からそう感じた。
土曜日で学校もないし、明日からゴールデンウィークでしばらく学校に行かなくてすむ。
いわゆる不幸中の幸いというやつだろうか。

気がつけば朝になっている。
カーテンの隙間からさす眩しい光や、鳥たちの美しいさえずり。
何を話しているのか、何をしているのかはわからないが楽しそうに笑う子供の声。
まるで俺の誕生日を祝しているかのような爽やかな朝だったが、俺は当然のごとくそんな爽やかな気分にはなれなかった。

一先ず顔を洗おうと洗面台へ向かい、洗面台にある大きな三面鏡をのぞきこむ。
そこに映った人物は、目が赤く充血し、涙袋がくっきりとふくれあがっている。
更に目の下にはくまができ、若干ではあるが顔がやせこけ頬骨がハッキリとしている。
その鏡に映っている人物は、まるで自分のそれとは思えないほど惨めな顔をしていた。
ますます、今日学校がなくてよかったと感じた。


歯磨きなどを済ませ、再び鏡の中の自分と向き合う。
「誕生日おめでとう……なんて、なに言ってんだか」
辛い気持ちを押さえるために、少しでも気を紛らわせるように、誕生日を自分で祝ってみた。
しかしそのせいで余計惨めな思いになり、馬鹿らしくなった。


なんとか気分転換したかった俺は、身支度をしたのち行く宛もなくとりあえず家を出た。
町中を適当に歩いていると、大きな看板が目に入った。
そこには、以前玲奈が電話で話していたショッピングモールの案内が描かれていた。
その看板を見ていると、玲奈との電話での会話が頭をよぎる。

――あの時、ここに行く約束していたら今頃こんなことにならなかったのかな……

しばらくボーっとその看板を見つめる。
玲奈に別れを告げられ、その時に嫌だとか何も言うことができなかったが、まだ未練ばかりだった。

―――愛情が感じられない

そうは言われたものの、実際のところは俺の頭のなかは常に玲奈のことで一杯で、片時だって忘れたことなどなかった。
だからこそ、余計に辛かった。
このまま行く宛もないし、そのショッピングモールに行ってみることにした。


最寄り駅から2駅隣の位置にあるため、駅へ向かった。
俺の気持ちは、昨日と今日とでは大きく違う。
しかし、この駅までの道は変わらない、いつもと何ら変わらない景色だった。
今の俺にとっては、そんな小さなことであれ憂鬱に感じてしまうほどだった。

ホームについてみると、次の電車まで数分の時間があった。
座って電車を待っている間、自然と玲奈のことが頭に浮かぶ。
考えないようにすればするほど、どんどん頭から離れなくなり、俺の頭はあっという間に玲奈で埋め尽くされた。
玲奈が転校してきたこと、いじめられていたこと、あのトイレでの出来事、それからの日々。
数年前のことだが、俺の頭のなかにはその断片的な光景がまだ昨日のことのように鮮明に残っていた。
しかし、もうその玲奈はいない。
俺は、1人になったのだ。

俺は勉強にしても部活にしてもいまいち結果を出せず、何かと中途半端であった。
そんな自分には嫌気がさし、自分のことが大嫌いだった。
それでも玲奈は、こんな俺にも一杯の愛情を注いでくれ、そして何よりも俺を必要としてくれていた。
玲奈がいてくれることが、いわば俺の生きる意義、存在価値に繋がっている。
大袈裟ではあるかもしれないが、俺は真剣にそう考えていた。
しかし今となっては、その玲奈はいない。
だとすれば、もう俺の存在価値は0に等しいのかもしれない。


そんな風に考えているうちに、電車がくるアナウンスがかかった。

――今ここに飛び込めたらどれだけ楽になれるだろう

そんなことが一瞬頭をよぎった。
ショッピングモールに行こうとしていたことなんて、もう頭にはなかった。
玲奈を失った俺は、これから先の人生に光を見出だすことができなかった。
そして自分はもう生きている必要なんてないのではないか、そう感じていた。

まわりの人にこのことを話せば、たかが女一人にフラれたくらいで……そう言われるだろう。
女なんて他にもたくさんいるだろう、色々な人と付き合えるのは今だけだ、学生の恋なんてたかが知れてる、そんなこと言う人たちがまわりにはたくさんいるだろうし、現に言われたこともある。
しかし俺の玲奈への気持ちは、そんな生易しい、ありふれたものではなかった。

――玲奈には悟がいるけど……
俺はもう本当に1人なんだな……

右をみると電車が段々と近づいてきていて、もうすぐで駅構内に進入するところであった。
無意識のうちに、俺は椅子から立ち上がり線路に向かって歩みを進めていた。

――これで全て終わる
あと5歩 で解放される

コンクリートの硬い感触をしっかりと確かめながら、この世での最後の歩みを、ゆっくりと、一歩一歩地を踏みしめながら線路に向かい歩く。



――あと1歩



――玲奈、今までありがとう
みんな、ごめんな……