第3章 『存在価値』
1.
4月上旬に大学に入学し、もうすぐで1か月が経とうとしている。
最初の1週間、通学路にある満開の桜並木の下、たくさんの希望や期待に心を躍らせ、そして同時にこれから待ち受ける前途多難な物事に不安を感じつつも、一歩一歩をしっかりと踏みしめていた。
それからもう、1か月になろうとしているのだ。
時間の経過というのは、とても早いものだ。
――こんなにも早い時間の中で、俺は自分の歩むべき道を見つけるのかな
時間の経過の早さに、少し不安を感じるくらいだった。
1か月が経つが、俺たち6人は変わらず日々を共に過ごしている。
そんな6人の中に唯一変わったことがあるとすれば、それぞれが部活やサークルなどに入ったことだ。
どのようなサークルに入ったのかは把握できていないが、英雄は複数のサークルに入り、多くの友人ができ楽しい学校生活を送っているようだ。
しかし早くも、色々な女の子に手をだしているという噂もちらほら聞こえてきた。
真佑は前にも言っていたように女子バレー部に入部し、日々練習に励んでいるようだ。
我が大学の女子バレー部は、3部リーグの上位らしく練習もかなりハードなようだが、1年生としての雑務的なものをしっかりとこなしつつも、早くもレギュラーとしてチームの中心メンバーになっているようだ。
一番サークル活動に迷っていた梓はというと、英雄と同じように複数の団体に入った。
ただ英雄と違うことは、その入った目的がそれぞれしっかりとしていることである。
話を聞く限り、近くの介護施設などにお手伝いに行ったり近隣の清掃をしたりするボランティアサークル、楽しい学校生活を送るために様々なレクリエーションを考え実行する学生団体、様々な時事問題について討論するディベート部などだ。
どれも自分のためになるのではないかと考えた末に入会したそうだからすごいし、その点において英雄とは天と地ほどの差だ。
俺たち6人の中では、誰がどう見ても梓が一番しっかりしていた。
幸男はというと部活にもサークルにも入らなかったが、高校でいうところの生徒会に入ることを決意したそうで、夏休み前の選挙に向けて色々と準備しているらしい。
やはり美波はバイトを理由にどこにも入らなかったし、かれこれ言いつつ俺もどこにも所属していない。
俺はいまだに、部活に入るかサークルに入るか、それともどこにも属せずバイトに徹するかを迷っていたからだ。
サークルなどに属してないのは俺、幸男、美波の三人だが、俺とは違い二人には入らない明確な理由がある。
その点を考えると、俺以外の五人は自分の歩むべき道を決め歩き始めたといえる。
やはり俺は、みんなから遅れてしまっていた。
また、このようにそれぞれが思うままに色々な団体に所属したため、前のように集まれる時間が少なくなった。
その中でも時間を見つけながら、みんなで出掛けたりご飯を食べたりはしたが、やはりその頻度も少なくなった。
しょうがないことではあるが、俺はそのことを少し寂しく感じていた。
そして、どこにも所属していない、また所属する予定のない俺と美波は、2人で一緒に登下校したり、2人で一緒にいる時間が増えたのだった。
そして今もこうして、美波と2人でご飯を食べに来ている。
「そういえば、敦もうすぐ誕生日なんだよね?」
「おう、よく覚えてたな」
「まあね。彼女さんと過ごすんだっけ?」
「いや、実はさ…。あの時はああ言って見栄はったけど、実際はまだわかんない。最近あんま連絡とってないからさ」
「彼女さんとなんかあったの?」
「そういうわけじゃないけど、向こうも忙しいかなって」
「なるほどね。どんな人なの?敦の彼女さんは」
「うーん。とにかく心優しくて、自分の事よりも俺のことを優先してくれるんだ。俺よりも俺のことわかってて、なんかお母さんみたいな感じ」
「すごいね。よっぽど敦のこと好きなんだね」
「そうなのかな?まぁ…もう4年も一緒にいるからな」
「4年?すごいね。敦も彼女さんのこと好きなんでしょ?」
「そ、そりゃあ、まあ」
「なんだよ照れちゃって」と美波は笑っている。
心なしか最近、美波にも喜怒哀楽がはっきりしてきたというか、前みたいな冷たさが少しとれてきたような気もした。
理由はわからないが、それもあってか美波はたちまちモテるようになった。
同じクラスはもちろんのこと、クラスや同じ学科にとどまらず、他学科、他学部にまで美波の評判が知れ渡り積極的な男子からは何人も声をかけられているようだった。
その光景を間近で見ていると、玲奈が転校してきた頃を思い出した。
美波は近寄ってくる男に一切の関心も示さず、「男には興味ないから」の一言で何人もの男を無惨にも切り捨ててきた。
いわば高嶺の花的な存在であった。
何故男に興味を示さないのか聞いてみたいという気もしたが、過去に何かあったのかもしれないので今は聞かないことにした。
美波と玲奈の話をしていたせいか、俺は急に寂しい気持ちになり、家に帰ってから玲奈に電話をしてみた。
しかし玲奈が電話に出ることはなく、その後も何回かかけ直してみたが繋がることも折り返しかかってくることもなかった。
電話の呼び出し音だけが、虚しく耳のなかで響いていた。