6.
「ね、そういえばさ。隣町に新しくでっかいショッピングモールできたじゃん?あそこ行ってみたいの。」
玲奈は急に思い出したかのように、唐突に話題をふってきた。
「あー、あそこショップも充実してていいらしいな」
英雄から聞いていた情報をそのまま言った。
「へー。ね、次の日曜日一緒にいこ?最近デートしてないしさ」
玲奈の声ははずんでいた。
「あー、ごめん。実はさ、日曜日は英雄たちと約束があって…」
「先に予定入ってるならしょうがないね…。じゃあ、その次の…」
「ごめん、今日疲れててさ。もう寝るよ」
「あ、そ、そっか…。遅くまでごめん。ゆっくり休んでね…」
玲奈の声がさっきとはうってかわり落胆していた。
それがわかり、少し罪悪感が芽生えた。
しかし俺は、謝ることもお休みとも言うことなく、そのまま眠ってしまった。
次の日の朝、俺は早く教室に着いていた。
各授業のオリエンテーションも終わり、もう本格的な授業に入っている。
今日はちょっと早めにきて、授業前に前回の復習をする予定だったのだ。
この授業はいわゆる"パンキョー"と呼ばれる一般教養科目の一つで、社会学という科目だ。
社会学は出席をとらないため、出席しなくても大丈夫な科目である。
大学というものは、本当に自己責任の上で成り立っているなと感じた。
誰が出席しようと、誰が欠席しようと、レポートを出そうが出すまいが、先生はほぼ無干渉。
だからといって勉強を怠れば、それがきっちり成績に反映されて返ってくるという、恐ろしい世界である。
1コマが90分と長いし、その長い時間ひたすら教授の話を聞きそれをノートやレジメに書きとめるのも面倒くさい話だ。
そのため、先生の都合などで授業が休講になるととても嬉しいのである。
しかし、休講になるのは先生の都合だけではない。
自分で授業を休講にすることもできるのである。
そう、それが自主休講である。
誰がこの言葉を発案したのかわからないが、なるほど、便利な言葉だ。
必修などの、出席を取り卒業に関わってくる授業に関してはみな頑張って出席するが、このような講義の授業となると自主休講を活用する人が数多くいる。
これは中高生には見られない、大学生特有の、大学生の生態とでもいうべき事柄でもあろうか。
俺は以後自主休講するかしないかと、何回も何回も自分との戦いを繰り広げていくわけだが、なるべく授業にはきちんと出席して、しっかり勉強しようと決めていた。
そのため今日もこうして朝早く登校し予習しているのであった。
時間が過ぎていくうちに、ちょこちょこと教室に入ってくる人数も増えた。
するとそこに真佑と美波が入ってきた。
2人も俺の存在に気付きこちらへ近付いてくる。
必修の授業は6人絶対一緒だが、"パンキョー"などは各々受けたいものを履修したので、この授業では俺たち3人が一緒なのである。
「げ、敦、勉強してんの……」
俺が座っている席に広げてある社会学の資料とノートを見て、真佑は驚いていた。
「ちゃんと勉強しようと思ってさ」
「敦って、意外に真面目なんだね」と美波が感心している。
「いやいや、全然さ。高校も大して勉強してないし、指定校推薦で入ったから受験勉強もしてないしな。まぁもう大学生だし、もう少しで19歳にもなるからしっかり一区切りつけて頑張ろうかなって」
「あれ、もうすぐ誕生日なの?」真佑の表情が一変し、何か企むような表情となったのがわかった。
「まぁね。5月2日なんだ」
「今日何日だっけ?」真佑は美波に確認する。
「今日は4月24日だよ」
「じゃあ、本当にもうすぐだ!!」さっきよりも真佑はテンションが上がっている。
「ねー誕生日の日は、何して過ごすの?」と美波に尋ねられた。
実際にはなんの予定も決まっていなかった。
しかし自分の誕生日に予定がなんもないっていうのは寂しい話だし、またそれを伝えるのもなんか恥ずかしかったため「今んとこ、彼女と過ごす予定だよ」と見栄を張ってしまった。
「なーんだ、敦彼女いたんだ」明らかに真佑は残念そうにしている。
何を企んでいたのかは知れたものではないが、真佑は感情が全て表情だったりリアクションだったりに出るので、残念そうにしているのがあからさまにわかった。
誕生日は彼女と過ごすなんて嘘をついてしまったが、少なくとも玲奈は毎年きちんと祝ってくれていた。
毎年ケーキを作ってくれ、教えていないにも関わらず、その時俺が欲しかった物をプレゼントしてくれるなど色々してくれた。
今までもそう過ごしてきたのだから、今年は一緒に過ごさない、ということは絶対にないだろうと勝手ながらそう思っていた。
しかし後日、そういう考えは甘かったということを痛感することになる。
今日の社会学の授業内容は、職業選択の変遷についてだった。
――俺もあと4年後には、一社会人もして仕事に就くんだよな……
授業の話を聞きつつ、ふとそう感じた。
今の俺には、卒業後の希望など一切なかった。
なんの職業でもいいから、この不景気な社会の中とにかく職に就ければいいと感じていた。
授業終了後、真佑と美波にふと聞いてみた。
「なー、二人はさ、将来のこと考えてたりする?」
「将来?」
怪訝そうな顔付きで二人は顔を見合わせた。
「将来のことなんて、誰にもわからないでしょ。私にも敦にも」
美波はそう言った。
「今は別に、明確な夢とかなくてもいいんじゃない?」
真佑も美波に続いて口を開く。
「そうなのかな?俺、どの道を進んでいけばいいかわからねーよ」
「今はまだ、スタート地点にたったばかりだと思うよ。これから、時間かけて自分がどの道を進んでいくか考えていけばいいんじゃない?」
真佑の言葉が、俺の頭のなかでこだました。
――これから時間をかけて……か
今自分がどの道を歩んでいくべきかは定かではないが、ゆっくり時間をかけて自分の道を見つけよう、そう感じた。
第2章 『歩むべき道』 完