3.
サークルの勧誘をされたのは、これだけではなかった。
中には、正統といっていいのかわからないが、純粋にこういう活動がしたいからだとか、色々な人と関わり色々な思い出を作りたいからだとか、将来に活かしたいからだとか、そういうサークルの勧誘もあった。
しかし、さっきのような女の子目的の団体も中々多かった。
大学生だからしっかりとしているという印象を持っていたが、英雄のように大学生なんだから遊ぼうというような、そういう考えを持っている人も多いようで、そのことに結構な驚きを覚えた。
「ねえ、みんなはさ、サークルとか考えてるの?」梓がそう聞いたのは、その日の放課後みんなで河原で話している時のことだった。
「あー、そういえば勧誘はされるけど、どこに入るかはちゃんと考えてなかったなー」
英雄は夕日の反射した川を見つめながらぽつりと呟いた。
「わたしは、バレー続けるよ。ただ、ちゃんと続けて上手くなりたいから、サークルじゃなくて部活にするつもり」
話によると真佑は、小学生の頃からバレーをやっているらしい。
しかも真佑のいた高校を聞くと、全国大会常連の名門校で、そこのキャプテンを務めていたらしい。
今までそういう歩みを進めてきた真佑にとっては、サークルでは物足りないのかもしれない。
「へ―、真佑ちゃんすごいねー!なんか尊敬しちゃうな」
梓は尊敬の眼差しを真佑に向けている。
「そんなそんな……敦のいた高校も、すごい名門校なんだよ」
「高校は確かにレベル高かったけど、自分たちの代では負けて全国も出られてないし」
「それでもすごいよ、二人ともすごい!」
「俺もバレー続けたいけど、高校でかなりお金かけちゃったし、大学で続けるのは難しいかも。ってかそういう梓はどうするの?」
「うーん。まだ決まってないけど、なんかやりたいんだよね。うち親が厳しくてさ、小学生の頃から勉強か習い事ばっかで……」
梓には、部活動などの思い出が特にないのだろう。
そのことをとても悲しく、寂しく思っているのが梓の表情からすぐにわかった。
「そうだったの。サークルの中にもボランティア活動するのとか、保育園とかのお手伝いするようなのとかもあるし、梓にはそういうのが向いてる気がする」と真佑がいうと、みんな納得した。
「そうかな?じゃあ、今度ちょっと活動してる様子見に行ってみようかな」梓の表情も明るくなったから、元気が戻ったようだ。
「僕は部活などには何も入らないけど、生徒会に入るつもりですよ」
俺は幸男らしいなと思ったが、みんな同じことを考えているような顔つきだった。
ただ、放っておけばいいもののそこに英雄が食いついてきた。
「お前にはそういうの似合うしいいと思うけどさ、せっかくの大学生活なんだし遊んでもっと楽しまねーともったいないぜ!」
「英雄君はどうしてそう現実的でないんですか。今楽しむことも大切かもしれませんが、それではお先真っ暗です」
「先に先にって先のこと考え過ぎて、今この瞬間を楽しめなかったりするの嫌なんだよねー。この一瞬は今しかないんだぜ?こうしてる今も、あと十分したらもう過去になるんだぜ?それに、明日のことだってわからないのに、先の事なんて考えられないし、俺は少なくとも考えたくないね。なにしろ時間が過ぎてからじゃもう遅いし、どうにもならねーからな。だから俺は今を楽しむために、色々サークル入って、一杯仲間作って大学生活を満喫してやるんだ!」
英雄は少しちゃらけたようにさらっと口にした台詞だが、その内容はとても大切なことを言っていた。
――俺は、今をしっかり楽しめてるのかな
先のこと、考えられてるのかな
英雄は英雄で、幸男は幸男で、二人の意見は両極端に分かれるものではあるがどちらもとても大切なことである。
この二人の場合は、それぞれどちらかに偏り過ぎている訳だが、そういう俺はと自分のことを省みるとどちらも出来ていない気がしてならなかった。
「英雄君はお気楽でいいですね。僕は少なくとも将来のことをしっかりと見据えて、しっかりと勉強します。英雄君もいつかそうしておけば良かったって思う日が来ますよ」
「ふん、そんなこと先なんだからわからねーよ。俺が後悔している可能性もあれば、お前が後悔している可能性もあるんだから、そこしっかり頭に入れておけよー」
ごもっともな意見ではあるが、英雄は笑いながらなんでもないように言い放った。
「そういえば、美波は?」
美波のことだけ聞いていないことに気付き尋ねてみた。
「わたしは、何も入らないよ。バイト忙しいからさ」
「そっか。バイトは何やってんの?」
「それは言いたくないから、秘密ってことで」
「なんだよ秘密って。言えないようなバイトでもしてんのかー?」英雄が笑いながらツッコミをいれた。
しかし美波は表情一つ変えず、「働いてる姿見せるの恥ずかしいから」と答え、英雄は「美波も恥ずかしがる時あるのか」とまたも笑いながら少しバカにしたようなことを言っていた。
それでも美波は、やはり表情一つ変えず川を見据えている。
その川を見据える目がとても気にかかった。
美波は大切な何かを隠している気がする、そう感じた。
今はこうして一緒にいるけど、少しずつ進むべき道はずれていくんだなと感じた。
元々は違う所からスタートして、今は奇跡的に同じ通過点に立ったわけだが、おそらく入るサークル、もしくは部活が違うだけでまた少しずつ道が分かれて、六人の進む道は大学入学前と同じように枝分かれしていくのかなと思った。
そう考えると少し切なく感じた。せっかくこうして出会えたのに……と。
みんなにはみんななりに進みたい道が、またどのように過ごしていくかという大まかなことは決まっていた。
みんなはすでに、自分が歩み行く道のスタートラインにたち始めているのかもしれない。
――だとしたら、俺は?
自分のことを考えてみると、自分には何もなかった。
砂漠のど真ん中に1人残されている、そんな気分だった。