『“明るく見えるけど、実は繊細”なあなたへ』

「元気そうでいいね」
「悩みなんてなさそう」
そんな言葉をかけられるたび、胸の奥で小さなざわめきが起きた。

笑って返すけれど、その言葉はいつも、
仮面の表面をすっと撫でて通り過ぎていった。

 

■ 「明るい仮面」を選んでいた理由

私は、まわりをよく見ている人間だった。
誰かのテンション、間の取り方、視線の揺れ。
そういう細かな“変化”に気づくたび、心が動いた。

この人、ちょっと疲れてるかな。
何か気を遣わせちゃったかな。
……そんなふうに考えるのが癖だった。

場の空気を読むのが得意で、
その空気を整えるのが、自分の役目みたいに感じていた。

だから私は、
明るい人になったり、
頼りないふりをして場を和ませたりしていた。

誰かに頼まれたわけじゃない。
でも、そうすることで誰かが安心できるなら、それでいいと思ってた。

やさしさだったかもしれない。
でも、ほんとうはただ、嫌われるのが怖かっただけかもしれない。

仮面をかぶってることには、自分でも気づいていた。
気づいたまま、かぶり続けていた。
そして、少しずつ――疲れていた。

 

■ そして、静かに積み重なった日々

疲れていても、笑った。
傷ついても、黙っていた。

気づかれないように、
空気を変えるように、
大丈夫なふりをしていた。

誰にも何も言われなかった。
誰にも何も伝わらなかった。

けれど、それが日常になった。
そういうものだと思っていた。

だから、特別に苦しいとも思わなかった。
ただ、静かに――疲れていった。

 

■ 「しんどい」と言ってみたかった

本当は、
「そんなに気を遣わなくていいんだよ」って、言ってほしかった。
「無理してない?」って、聞いてほしかった。

でも私は、いつも先に自分が空気を読んでしまった。
「こんなことで?」って思われたら、恥ずかしくてたまらなかった。

だから笑った。
「平気だよ」って言った。
いつも通り、明るい私を演じた。

――でも、本当は。
その“わかってる自分”に、
ただ、寄り添ってほしかった。

そんなこと、できるはずないと思いながら、
ほんの少しだけ、期待していた。

 

■ 誰も見ていなかったとしても

もし、誰にも気づかれなかったとしても。
もし、誰にも感謝されなかったとしても。

あなたがそっと変えたその場の空気は、
確かに、誰かの心を軽くしていた。

あなたのやさしさは、
音を立てずに、誰かを守っていた。

それは間違いなく、“本物”だった。

 

■ おわりに

ずっと、明るくふるまってきたあなたへ。
ほんとうは、気を張ってがんばってきたんだよね。

「仮面をかぶってた自分」を責めないでほしい。
それは、誰かのことを大切に想っていた証だから。

でも、これからは。
そのやさしさの中に、

あなたの声もそっと入れてあげて。

「あなたのことは、ちゃんとわかってるよ」

この言葉が、静かにあなたの胸に届いてくれたら――
それ以上にうれしいことはありません。