自分を知ることは、ゴールじゃない。
知った自分と、どう生きていくか。

 

起業した理由を聞かれると、私は少し困ります。

「昔からの夢でした」とか、
「誰かの役に立ちたくて」とか。

そんな、きれいな話ではなかったからです。

正直に言うと、私の出発点はもっとネガティブでした。

「もう、この生活から抜け出したい」

私の起業は、そこから始まっています。

 

  とにかく、この生活から抜け出したかった

 

長いあいだ、私は飲食の世界で働いていました。

現場の仕事そのものは、嫌いではありませんでした。

でも、長時間労働が続いて、少しずつ余裕がなくなっていきました。

 

特にしんどかったのは、人をまとめることでした。

アルバイトさんを束ねる立場になると、いやでも一人ひとりと向き合うことになります。

 

人って、わがままなんですよね。

……なんて書くと、感じが悪いかもしれません。

でも、みんなそれぞれに事情がある。

希望するシフトも違うし、考え方も違うし、仕事への向き合い方も違う。

それは当たり前のことです。

 

ただ当時の私は、その一つひとつを受け止めながら、自分まですり減らしていました。

「なんとかしなきゃ」
「私がやらなきゃ」

そんなことばかり考えていました。

気づけば、

「こんな仕事をしたい」

とか、

「こんな人生にしたい」

ではなく、

「とにかく、ここから抜け出したい」

という気持ちのほうが強くなっていました。

 

経済的にも自由になりたい。

誰かや会社に振り回されずに生きたい。

「起業して、自分らしい人生を歩みたい」

なんていう、前向きでキラキラしたスタートではありませんでした。

私はただ、今の生活から脱却したかったんです。

 

 

  「認められたい」「見返したい」も、たしかにあった

 

もう一つ、あまりかっこよくない本音があります。

私はたぶん、

認められたかった。

自分の力でやっていける。

自分にはちゃんと価値がある。

それを証明したかったんだと思います。

起業って、良くも悪くも「自分の力」で立つことですよね。

だから、

「周りを見返したい」

という気持ちも、たしかにありました。

 

うまくいかないことがたくさんあって。

陰で何かを言われたり、あからさまに否定されたり。

そんな経験もありました。

 

だから、

「いつか見返してやりたい」

そんな気持ちもあったんだと思います。

……ちょっと腹黒いかもしれません。

でも、これが本当のところです。

今さら、きれいな理由に書き換える必要もないと思っています。

 

 

  でも、逃げたいだけではうまくいかなかった

 

「ここから抜け出したい」

そう思った私は、起業できそうな場所や方法を探し始めました。

 

でも当時の私は、

何をすれば起業できるのか。

商品って何なのか。

どうやってお客さんを集めるのか。

そんなことも、ほとんど分かっていませんでした。

自分に合う場所も分からなかった。

 

だから、

「初心者でもできそう」

「家でできる」

そんな言葉に惹かれて、カウンセラー系のコミュニティに入ったこともあります。

今振り返ると、かなり「すがる思い」だったと思います。

ここに入れば、今の生活から抜け出せるかもしれない。

そんな期待がありました。

 

でも、実際に入ってみたら、全然分からない。

「商品を作る」と言われても、

商品って何?

「グルコン」と言われても、

グルコンって何?

その世界で使われている言葉すら、よく分かりませんでした。

 

結局、お金を払っただけで終わってしまったような経験もしました。

しかも、一度だけではありません。

似たような失敗を、二回くらいしました。

その頃の私は、

「ここから逃げたい」

という気持ちは強かったけれど、

「じゃあ私は、何がしたいの?」

には、まだ答えられなかったんです。

そして私は、

ネガティブな気持ちだけで動いても、なかなかうまくいかないんだな、

ということを知りました。

 

  仕事を辞めて、いったん止まった

 

その後、私は前職を辞めました。

辞めたときの私は、前向きに次へ進むというより、かなり燃え尽きていました。

「こんなふうになってしまった自分が情けない」

そんな気持ちもありました。

 

すぐに次の目標へ向かえたわけではありません。

むしろ、いったん沈みました。

でも、仕事を辞めて少し休んだことで、ようやく余白ができました。

なぜあそこまでしんどくなったのか。

自分は何に疲れていたのか。

そういうことを少しずつ考えられるようになりました。

 

そして、

「じゃあ、本当に私がやりたいことって何だろう」

と考えるようになったんです。

 

 

  私にとっての「やりたい」は、もっと小さなものだった

 

私はずっと、

「将来はこれをやりたい」

「この仕事に就きたい」

みたいな、立派な夢を探していた気がします。

でも、私の中から出てくる「やりたい」は、もっと小さなものでした。

 

知りたい。

調べたい。

試してみたい。

 

「これ、どうなってるんだろう」

「こうしたら面白そう」

「ちょっとやってみたい」

 

そういう、自分の内側から勝手に出てくるもの

それが、私にとっての「やりたい」なんだと少しずつ分かってきました。

 

 

 

  「みんなに合わせる」より、「やってみたい」が先に出る

 

ストレングスファインダーという診断でも、私は「調和性」がかなり低い位置にあります。

周りの様子を見て、しっかり根回しをして、みんなの足並みがそろってから動く。

私は、そういうことがあまり得意ではありません。

 

「これ、やってみたい」

「こうしたら面白そう」

そう思うと、気持ちのほうが先に走ってしまいます。

 

当時は、そんな自分をよく分かっていませんでした。

だから、周りとの温度差が生まれたり、うまくいかなかったりしたこともありました。

今振り返れば、

「もう少し慎重にやればよかったな」

と思うこともあります。

 

でも同時に、

この「やってみたい」が勝ってしまう性格がなかったら、

私はたぶん、ずっと同じ場所にいたんだろうとも思います。

 

 

 

  「誰かのために」だけでも、私は続かなかった

 

以前の私は、

「誰かの役に立ちたい」

「喜んでもらいたい」

という気持ちが、とても強かったです。

それ自体は悪いことではありません。

 

でも私の場合、それが強すぎると、

頼まれたらやる。

困っていたら助ける。

自分ができるなら引き受ける。

そんなことを繰り返して、

気づけばただの「便利屋さん」になっていました。

 

人のために動いているつもりなのに、

また自分がすり減っていく。

それでは、前と同じでした。

 

今は少し違います。

「このサービスをもっと広げるにはどうしたらいい?」

「どうしたら来てくれる人にもっと届く?」

「これ、こう変えたら面白くない?」

そんなことを考えている時間が、私は結構好きです。

 

「誰かのためにやらなきゃ」ではなく、

「私はこれを考えたい。やってみたい」

から始められるようになってきました。

 

  ネガティブから始まっても、行き先は変えられる

 

だから私の起業は、きれいな物語ではありません。

疲れていました。

逃げ出したかった。

認められたかった。

見返したかった。

そして、焦ってよく分からない場所に飛び込んで、失敗もしました。

 

それでも、そこから少しずつ変わっていきました。

「ここから逃げたい」

だった気持ちが、

「じゃあ私は、どう生きたい?」

に変わった。

「誰かの役に立たなきゃ」

だった気持ちが、

「私は何を知りたい?何を試したい?」

に変わった。

 

出発点が、

「逃げたい」

でも、

「見返したい」

でも、

私はいいと思っています。

人間って、そんなにきれいな理由だけで動くものでもないと思うから。

 

ただ私は、

それだけでは、うまくいきませんでした。

一度失敗して、立ち止まって、休んで。

そこから、

「じゃあ私は、本当は何をしたいんだろう」

と考え始めて、少しずつ行き先が変わっていきました。

私は今も、立派な起業家ではありません。

 

何が正解なのかも、まだ分かりません。

やってみて違うこともあるし、また失敗するかもしれません。

でも、

「ここから逃げたい」

だけだったあの頃より、

今は少しだけ、

「こっちへ行ってみたい」

で動けるようになりました。

 

 

私の起業は、きれいな理由から始まったわけではありません。

でも、この不恰好な出発点も、失敗も、遠回りも、

今の私につながっています。

 

 

そして私は、まだ途中です