タイトル:1793

著者:ニクラス・ナット・オ・ダーク

訳者:ヘレンハルメ美穂

発行:株式会社小学館

発行日:2019年6月10日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貧しく汚く腐敗したストックホルムで二人の男が殺人事件の謎を追う

大胆で繊細、スリリングで濃密なスウェーデン発大型歴史ミステリー!

 

あらすじ 

1793年、秋。

湖で発見された男の死体は四肢と両眼、舌と歯を奪われ、美しい金髪だけが残っていた。

フランス革命から4年。

前年に国王グスタフ3世が暗殺されたここスウェーデンにも、その風は吹きつつあった。

無意味な戦争、貧困や病にあえぐ民衆の不満と怒りはマグマのように煮えたぎり、王室と警察は反逆や暴動を恐れ疑心暗鬼となっていた。

そんな中で見つかった無残な死体。

警視庁から依頼を受けた法律家ヴィンケは、風紀取締官カルデルと共に捜査に乗り出す。

重い結核に冒されたヴィンケの捜査は、時間との闘いでもあった――

 

 

 

 

2024年の読書を締めるには相応しい作品ですね!

真っ赤な字でタイトルや著者名が書かれた漆黒の表紙!!

惨殺死体!殺人事件!!

なんておどろおどろしいんだ!!!

 

 

というわけで、めちゃくちゃ面白かったけれど、

ミステリというより、歴史小説の方が色濃い作品でした。

3部作のうちの1作目らしいですが、物語自体はこの巻ですっきり完結してる。

 

 

 

P30

ヴィンゲは気まずい沈黙をまるで気にしていないようすで、耐えきれず言葉を漏らしたのはカルデルのほうだった。

「坂の上で警官に会った。あんたもインデベトゥー館、警視庁の人間か?」

「そうだとも言えるし、そうでないとも言える。臨時の人員といったところだろうか。警視総監に頼まれて来た。あなたはどうだ、ジャン・ミカエル?夜も明けきらないうちから、なぜマリア教会の死体置き場へ?今夜のあなたはもう、死人のためにじゅうぶん力を尽くしたように思われるが」

 

この作品の主人公のうちの一人、退役軍人のジャン・ミカエル・カルデルは、

酒場で酔いつぶれて寝ているところを、

子どもの「湖に死体が浮いている」という声で目を覚ました。

急かされるままにカルデルは湖で死体を引き上げわけだが、

その死体はなんとも凄惨な有様だった。

 

一旦は帰宅するも、警官に任せた後が気になり、

彼は再び死体と対面することになる。

そこで出会ったのが、法律家のやせ細った男、セーシル・ヴィンゲだった。

2人は協力してこの死体の身元と、こんな有様になった原因についての調査に乗り出した。

 

 

 

 

喧嘩早く、過去に兵仲間を失ったトラウマを持つ義腕の退役軍人。

結核で余命宣告をされている病弱な法律家。

バディ物が好きな人は気に入ると思う。

 

いやぁ~~

良かったね。

徐々に友情を深め信頼を築き、互いを助け合う。

変化する二人の関係性は素晴らしく良かった。

 

 

この二人に限らず、この作品は登場人物の心理描写が非常に鮮明で、

第二章、第三章ではこの事件に関与する別の人物が中心となって物語を進めるわけだが、

彼らの中の恐怖の感情や、それに負けじと勇気を奮い立たせる心理描写も、

とても臨場感あるものでよかった。

 

 

 

 

P110

夜になると、眠りの代わりに不穏な妄想がやってくる。

書き物机に光が斜めに差し、セーシル・ヴィンゲの懐中時計の各部分が長い影を落とす。

歯車も、そのほかの小さな部品の数々も、すきま風でろうそくの炎が揺れるたびに昆虫めいた影となって踊る。

 

ここの表現好きだったなぁ~~

感情や心理状態を環境に反映させるこういう表現、とても好みなんだよね。

 

 

 

 

P381

「ヴィンゲ殿、私はもう、この世界を見つくした。

人間は嘘にまみれた害虫、覇権を求めて互いを咬みちぎることしか頭にない、血に飢えた狼の群れにすぎない。

奴隷の方が主人より清廉というわけではない。ただ弱いだけだ。

罪のない人々が罪を犯さずにいられるのは、単に無能だからだ。(省略)」

 

歴史に明るくないので、

1790年頃に何があってどの程度の生活様式なのかは物語を読んで知ったくらいなのだけれど、いま自分の生きている時代と国に感謝したよね。

こんな時代に生まれなくてよかった。

税金は重いし収入もけして多くはないけれど、

雨風しのげる家があり、仕事があり、食事に困る生活はしてないし、

路上に死体が積み上がっていることもない。

第三章とか読むと、特にそう思った。

 

 

 

 

 

実際の歴史に多く(全てではない)基づきながらの探偵小説、といった作品だったね。

ちょっとした脇役にも名前がつけられ、描かれないだけでそこにも主人公たちと同じ程度の人生の物語があるのだろうなぁ、と感じた。

ほんの数ページの登場だったけれど、自分の子供たちに借金がいかないようにと責務証書と共に入水自殺をしようとしていた船乗りは、とても印象的だった。

 

P85

「さてヴィンゲ殿、旅路にそなえてもう少し荷づくりをしなければならないので、そろそろ失礼するよ。

あなたはこれで、においをたどる取っ掛かりを得た。

そのままにおいを追って森を走れば、まちがいなく獲物を仕留められるだろう。

(省略)

あなたもやはり狼なのだ。(省略)

いつの日か、あなたの歯は真っ赤に染まり、おれの言葉が正しかったと証明されるだろう。

あなたの牙は獲物に深く食い込む。

ひょっとすると、ヴィンゲ殿、あなたこそがほかの狼の上に立つ日が来るかもしれないな。

そう願いつつ、ここで失礼するとしよう。良い眠りを」

 

 

暗い時代を精一杯生きる人々の物語だった。

 

 

3部作ということで、続く作品は主人公が引き継がれるのか否か、気になるね……

―――気になりすぎて2巻のあらすじ読んでしまったのだけれど、

ほほう、これは、読むしかないな。

読むのはしばらく先になるだろうが、いまから楽しみである。

 

 

 

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それでは素敵な読書ライフを!!